実は2025年4月には妻である玄理(ひょんり)が先に同事務所と契約している。夫婦揃って在籍することが、お互いのキャリアや活動にとってもさらなる後押しになるだろう。
LDHアーティストをこよなく愛するコラムニスト・加賀谷健が、Netflixで配信中の『グラスハート』出演を含め、町田啓太の事務所契約に期待を込めて独自視点で解説する。
町田啓太のビッグニュースに感じる勢い
佐藤健企画・共同エグゼクティブプロデュース・主演で話題(佐藤がパイロット版まで制作したという!)の音楽ドラマ『グラスハート』第1話を見終えて、おもむろにXを開いた。するとほんとにたまたま、タイムライン上に町田啓太のビッグニュース! 同作で町田啓太は主人公たちが結成するバンド「TENBLANK」のメンバー・高岡尚を演じている。その町田が、2024年に松下奈緒主演でリメイクされた『SKYキャッスル~上流階級の妻たち~』(2018~2019年)などを制作する韓国の芸能事務所「HBエンターテインメント」との専属契約を結んだ、というビッグニュースである。劇団EXILEメンバーとしてLDHに所属しながら、韓国での活動に関してHBエンターテイメントのバックアップを受けるのだ。
LDHは公式ホームページ上で「彼の持つ可能性を最大限に引き出すべく、尽力してまいります」と発表。町田も含め、LDHアーティストを数多く取材してきたぼくからすると、今回の専属契約は町田啓太の「可能性」そのものだと感じた。
さらに個人的には新たな契約を報じる各媒体リリース解禁日が、ちょうど最新出演作を視聴したタイミングと重なったことに熱い勢いを感じた。
カメラがひれ伏すワンショット
その熱い勢いは『グラスハート』の画面自体、しかも贅沢なことにワンショット目からびしびし感じられる。黒み画面から次第に聞こえる大歓声。フェードインする歓声が大きくなり、ワンショット目、俯瞰のカメラがフェス会場を埋めつくす聴衆の頭上をぐわぁっと飛び抜ける。高速で飛んでとんで、聴衆の熱気の中でカメラもさらにさらに勢いを得る。
ぐんぐん進んでいってステージ前にピタリ位置付けたカメラはどうするか。町田啓太にひれ伏すのである。俯瞰から今度は思いきりローアングルで町田演じる高岡尚のギタープレイを仰ぎ見る。ダイナミックなカメラ移動を目で追う視聴者は本作冒頭のフェスに擬似参加できる。しかも一番の特等席でかぶりつき。
高岡がじゃかじゃかかき鳴らすギター。ネックを見つめる視線をさっと下手側に動かす。自分のところめがけて飛び抜けてきた超高速カメラに対するタイミングを見計らいながら、全然余裕ですけどみたいな構えで視線を動かす。尚且つ動かす瞬間をあえてずらして余韻を作る。
本作の町田啓太は、こういう余裕と余韻を慌ただしい熱気と勢いがブーストする場面でこそさりげない名演を生み出せてしまう。
夫婦揃って磐石なキャリア形成に期待すること
このブースト画面自体が現在の町田啓太の勢いそのものをブーストする。カメラワークの勢いに比例するかのようにグローバルな展開を目指す。デビュー15周年を迎えた2025年、現在35歳の町田のキャリア形成は順当というか、着実で磐石の体制だと思う。2022年のクリスマスには、韓国と日本、両国で活躍する玄理と結婚した聖夜のサプライズ感が話題になった。レプロエンタテインメントに所属する玄理もまた2025年4月に先んじてHBエンターテインメントと専属契約を結んだ。夫婦揃って二重にも磐石。であるからこそ、こちらも存分に今後のキャリアの躍進に期待できる。
日韓を行き来する玄理が出演してきた日本国内作品を見ると、自分がどんな作品に出演するべきかという作品選定の色がかなりはっきりしている。
『破れたハートを売り物に』(2015年)の青山真治監督、『スパイの妻<劇場版>』(2020年)の黒沢清監督、『偶然と想像』(2021年)の濱口竜介監督。現代の日本映画を代表する巨匠監督たちの名前がずらり。
国内作品に出演する玄理がこうした巨匠たちの作品に出演することで俳優としての特色を規定してきたなら、逆に町田も韓国の巨匠監督たち(例えばポン・ジュノやホン・サンスなど)の作品に出演することを期待したい。
“二つのハート”が結んでいる
ここで、上述した玄理出演作から一作を取り上げてみたい。甲斐バンドの代表曲をモチーフにした5編の短編作品集である『破れたハートを売り物に』の一編「ヤキマ・カナットによろしく」(「HERO~ヒーローになる時、それは今~」がモチーフ)にバーの女性客役で出演した玄理は、15分ほどの作品尺の中で一言もしゃべらない。つまり、台詞が一つもなかった。ではどうしていたか。同じく台詞ゼロの客役でカメオ出演する甲斐よしひろとともテーブル席に座り、カウンター席に座る主人公のスタントマン(光石研)がつるべ打ちでしゃべりまくる九州弁にただ耳を傾けるだけ。時折、合間で玄理が写る。ちょっと視線を動かしたりするリアクションで、バー内の状況の変化や空気感の変動を伝える。
画面に写るのは全5カット。ほんとただ座っているだけだというのにハッとするくらいいい演技だ。『破れたハートを売り物に』はエルビス・プレスリーの楽曲を英訳した作品集タイトルなのだが、ガラス(グラス)のようにもろく破れそうなくらい繊細で美しいバンドマンたちの心(ハート)模様を描く『グラスハート』と単純にタイトルの類似がある。どちらも音楽をモチーフにしたことでははっきりしている。
町田啓太と玄理は『CINEMA FIGHTERS』の一遍「終着の場所」(2018年)で初共演。『グラスハート』ではキーボード担当・坂本一至役で出演する志尊淳の主演ドラマ『女子的生活』(NHK総合、2018年)でさらに共演を重ねた。
玄理が出演した過去作と町田が出演する最新作とのほんの類似から盤石なキャリア形成を展開する彼らを“二つのハート”が強く結んでいるのかもしれないと思った。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修
俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。