1985年にデビューし、小説『時の輝き』が110万部を超えるベストセラーとなった漫画家・小説家の折原みとさん。第一線で活躍していた30代で逗子に移住し、以降、ひとり暮らしを満喫しながら、精力的に創作活動を続けています。


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SNSでは「60代バツなしおひとりさま」という内容で、日々の豊かな暮らしを発信し、多くの共感を集めています。今回は、そんな折原さんに、おひとりさま生活を楽しむヒントや、人生の困難との向き合い方についてお話を聞きました。

「水道代28万円、修理代200万円!?」60代漫画家・折原みとの危機。救ったのは“ご近所づきあいの力”だった
折原みとさん(@60life_mito)のインスタグラム

人間関係はグラデーションで考える

――インスタグラムから、折原さんの楽しそうな生活が伝わってきます。ひとり暮らしを楽しむコツを教えてください。

折原みとさん(以下:折原):ひとりの生活は、楽しいですし自由です。でも、おひとりさまだけど、ひとりで生きているわけじゃないと思っています。まったくのひとりぼっちだと、やはり大変なこともあります。ひとり暮らしを楽しむコツがあるとすれば、「困ったときに助け合える人間関係を築くこと」じゃないかなと思います。

――大人になってから、新しく人間関係を作るのは難しく感じます。

折原:私も、逗子で暮らし始めた頃は、知り合いが一人もいませんでした。でも、引っ越しのタイミングで犬を飼って、犬の散歩をしているうちにご近所の方たちと話すようになっていったんです。そこから少しずつ関係ができていって、今では、お互いに困ったときは支え合える、温かい関係性が築かれています。

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ハルちゃんと自宅(画像は折原みとさん提供/以下同じ)
――素敵ですね。


折原:「友達」となるとハードルを高く感じるかもしれません。でも、人間関係って、もっとグラデーションがあると思うんです。親友のような存在もいれば、ちょっとしたお話をするくらいの距離感の方もいる。ご近所さんの中でも、すごく密にお付き合いする方もいれば、挨拶をするだけの関係の方もいますよね。

大切なのは、いろんなコミュニティに所属することかなと思います。たとえば、「自分の居場所はここしかない」とひとつのコミュニティだけに人間関係が集中していると、精神的な依存が強まりやすいと思います。そんな状態で、もし、コミュニティの誰かと関係がこじれてしまえば、一気に孤独を感じてしまいますよね。

――たしかにそうです。

折原:だからこそ、いろんな場所でのつながりを持っておくことが大事だと思います。仕事の関係、習い事を通じた関係、昔からの親友、そしてご近所さん。コミュニティごとに付き合い方も異なりますし、いろんな関係性があります。そういう大人ならではの自由な距離感も心地いいなと感じています。
嫌なら離れることもできますよね。ある程度の年齢になったら、人間関係や友達付き合いも、もっと自由に楽しんでいいのではないでしょうか。

「修理代200万円!?」人とのつながりの大切さを知る

――実際に人間関係に助けられたエピソードはありますか?

折原:先日、水道管が破裂して大変だったんです。地下で水が漏れていて、気づいたときには水道料金の請求がなんと28万円も来ていて……(笑)。それで慌てて修理の見積もりを取ったら、大手の業者さんからは「床を壊して地下を掘らないとダメ」と言われて、見積もりは80万円になりました。それどころか、「この機会に、水道管を全部取り替えた方がいい」と言われて、最終的には200万円という金額を提示されました。

――突然、200万円を請求されるのは厳しいですね。

折原:ですよね。それで、知り合いの植木屋さんに相談したら、その方の知り合いの業者さんを紹介してくれたんです。その業者さんは別の方法で修理をしてくれて、なんと7万円くらいで済んだんです。こういう時、おひとりさまだからこそ、周りの人たちとつながりを持っておくのって大事だなって実感しましたね。

――まわりの人が助けてくれることで、解決できる問題もたくさんありますよね。

「海と山の両方に住めたら」と始めた八ヶ岳での生活

――逗子のほかに八ヶ岳にもご自宅をお持ちですが、どのように使い分けていらっしゃいますか?

折原:八ヶ岳の家は、逗子の家を建ててから2年後くらいに建てました。もともとは、友人の別荘に遊びに行ったことがきっかけなんです。
その場所がとても素敵で、「海と山の両方に住めたら最高だな」と思って、八ヶ岳にも拠点を持つことにしました。

夏は涼しいので、避暑も兼ねて八ヶ岳で過ごすことも多いです。秋の紅葉シーズンは、のんびり景色をみながら長めに滞在しています。焚き火がとても好きなので、冬は、焚き火をしたり、薪ストーブであたたまるのも楽しみです。カントリーな気分を味わいたい時にも訪れていますね。

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折原みとさん 八ヶ岳の写真
――なんて素敵な生活なんでしょう。

折原:八ヶ岳でも、犬がきっかけで知り合った方たちと仲良くなって、今では、行けば向こうの友達と過ごせるような関係ができています。

八ヶ岳に友達を連れて行くと、みんな一様に「ここ、すごくいいね!」って気に入ってくれるんですよ。実際に、そのまま近くに土地を買った友達も何人もいて(笑)、もう私、八ヶ岳で7軒くらい知り合いに土地を紹介してるんです。仲介手数料なしの不動産屋さんみたいになっています。

「ま、いっか」という言葉のすごい力

――日々の生活の中で、困ることやストレスを感じることはありますか?

折原:もともとストレスをためこみにくい性格なんです。それに、マイペースに生活していることもあって、あまりストレスを感じることがないですね。私の口癖は「ま、いっか」で、失敗したりうまくいかないことがあっても、「ま、いっか」で済ませちゃうのも大きいと思います。
悩み始める前に「ま、いっか」で気持ちが切り替わるので、結果的にストレスがたまらないんだと思います。

――心が軽くなる言葉ですね。

折原:もちろん、「ま、いっか」で済ませてはいけないこともありますよ。人に迷惑をかけたときは、ちゃんと向き合って対処しています。でも、自分にしか影響がないことなら「ま、いっか」で済ませることがほとんどですね。そうやって気持ちを切り替えると、楽に生きられる気がします。

――意識的に「ま、いっか」を使われているのでしょうか?

折原:意識しなくても、自然といつも言っていますね。みなさんにも、ぜひ言ってみてほしいです。ま、いっかと思っていなくても、とりあえず口に出してみるんです。そうすると、「ああ、本当に『まあ、いいか』って思えてきたな」と感じることがあるんですよ。効果があるのでおすすめですー!

助けあえる人間関係も、一人で生きていくスキルも

――今、はまっていることはありますか?

折原:今、インスタグラムを始めたばかりですが、とても楽しいです。昔は小説や漫画を書いて、しばらくして読者の方からファンレターが届くという感じで、時差がありました。
でも今はリアルタイムで、フォロワーさんから直接メッセージが届きます。それをすぐに読んだり、お返事したりすることが簡単にできるので、本当にすごい時代だなと感じます。

――今後、挑戦したいことはありますか?

折原:小学生の頃に私の作品を読んでくださっていた読者の方が、今ちょうど40代から50代くらいになられているんです。その年代は更年期の悩みもあったり、人生のこれからについて考えたりする機会も多いと思っています。おひとりさまの場合、「結婚しなくていいのかな」とか「このまま一人で過ごしていていいのかな」といった不安を感じることも多いですよね。そうした方々に向けて、私は独身で子どももいませんが、「全然楽しく生きているよ」「こんな生き方もあるよ」「大丈夫だよ!」というメッセージを発信していけたらいいなと思っています。

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折原みとさん 木登り
――励まされる方はすごく多いと思います。

折原:ひとりだと、家の修理とか生活の管理とか、大変なこともやっぱりあります。でも、助け合える関係の人がいれば支えてもらえますし、一つ一つ対処していくうちに経験値がついて、だんだん自分でも対応できるようになっていきます。信頼できるまわりの人がいれば、なんとかなる。だから、ひとりでも大丈夫です。

おひとりさまでも、おふたりさまでも、どんな生活でも、どんな環境であっても、それぞれの楽しさや幸せがあると感じています。
「ま、いっか」を口癖にして、軽やかにストレスなく生きていきましょう。

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ゆるやかに周囲の人とつながりながらひとりの生活を満喫すれば、大丈夫。折原さんからの軽やかなメッセージは、「ま、いっか」という言葉とともに、これからの人生を豊かに彩ってくれるように感じられます。

【折原みと】
漫画家、小説家。 エッセイ、詩集、お料理本、絵本、CDなど、様々なジャンルで活動中。 湘南在住、愛犬はゴールデンレトリバーのハルちゃん。着物好きの和物フリーク。 防災士。野草料理研究家。湘南焚き火倶楽部会長。
Instagram:mito/60代バツなしおひとりさま(@60life_mito)

<取材・文/大夏えい>

【大夏えい】
ライター、編集者。大手教育会社に入社後、子ども向け教材・雑誌の編集に携わる。独立後は子ども向け雑誌から大人向けコンテンツまで、幅広く制作。
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