40歳を超えてから、スタートアップ企業である「令和トラベル」に転職。
第13回となる今回は、小学生のお子さんを育てる大木さんが熱海旅行で感じた「体験の価値」について綴ります。
熱海旅行で考えた「体験の価値」について

この夏、家族や親戚、友人たちと熱海を訪れました。ここ数年は教育旅行の名目で海外に出かけることが多かったのですが、久しぶりに「日本の夏」を味わう時間を過ごしました。
1週間の滞在の中で、海の家が並ぶ“ザ・日本の海水浴場”で泳ぎ、スイカ割りや夜の花火を楽しむ。さらに、父が釣ってきた魚をバーベキューでいただくという、まさに夏休みの定番を満喫しました。
五感をたっぷりと刺激され、大人も童心に帰るようなひととき。その中で、改めて「体験の価値」というものを強く感じたのです。
親はなぜ、子どもに体験をさせたいのか?

五感を通して得た体験は、大人になっても感覚として残り続けます。たとえば波の音や花火のにおい。普段は意識していなくても、ふとしたきっかけでよみがえってくる。
だからこそ、子どもにも五感を通じた体験を残してあげたい。それがやがて好奇心や興味の芽となり、将来の学びや生き方につながっていく。
親が「子どもに多くの体験をさせたい」と願うのは、そうした思いからなのだと、今回の旅を通じて改めて実感したのです。
「体験主義」への問いかけ。泥んこ遊びって本当に必要?

一方で、親が「体験」に過剰なプレッシャーを感じてしまう現実もあるのではないでしょうか。私自身、子どもが幼い頃には「外遊びをさせなければいけない」という、ある種の強迫観念にとらわれていた時期がありました。
もちろん、外遊びが子どもの発達に良い影響を与えることは、多くの研究で示されています。想像力や免疫力を高める効果があるという報告もあります。
そのため、幼稚園や私立のプリスクールはこぞって「泥んこ遊び」「水遊び」などを、売りとして保護者にアピールをしますし、実際、親はそれを価値あるものとして、心惹かれるのです。
こうして「体験の価値」が親の間で強く認識されるにつれ、それをどう実現するか、どこに投資するかというプレッシャーや競争意識が煽(あお)られているようにも思います。
それ以外にも、うちの子どもはふたりとも小学校受験を経験していているんですが、そのためにとにかく幅広い体験をさせなきゃ、その思い出を絵に残さなきゃと追い込まれたこともありました。
けれども本当に大切なのは、その体験が「子ども自身に合っているもの」だったのかどうか。親の理想や思い込みとしての「体験」を押し付けてはいなかったか。改めて、自分に問いかける必要があると感じています。
SNS時代の「体験」の価値とは?完璧な写真の裏側

ひとつ目は、SNSに投稿するために体験を記録したいという「承認欲求」です。自分が体験したことをSNSで見せたい、見せるために体験する。この面は、SNSのマイナスな面として語られることもありますが、体験を生む原動力になっているのであれば、一概に否定できるものではありません。
もうひとつは、SNSで何でも見られる時代だからこそ、逆に「実際に体験することの価値」が高まっているという点です。
SNSに上がるのは、きれいに切り取られた一瞬の場面が多いもの。だけど、本当に価値のある体験って、意外とSNSには映らないところにあるのかもしれません。
息子が海から上がって潮と砂まみれになりながらばーっと近づいてくるあの感じの瞬間とか、体からポタポタと水が垂れて乾かしていたタオルや服が濡れそうになる瞬間とか、バーベキューで焼き上がった魚をそのまま落っことして大慌てする瞬間とか……(笑)。
SNSの投稿だけではとても表現できないような場面がたくさんありました。そうした、ちょっと困ったけれどかけがえのない瞬間こそ、子どもとの大切なふれあいとして残る。そういう体験にこそ、本当の価値があるのかもしれません。
体験から始まる「学び」と「議論」~アクティブ・ラーニングの視点

たとえば、海で泳いでいるときに「なぜ海の水はしょっぱいのか」と、舌で実際に味わったからこそ疑問が生まれ、それを調べてみたくなる。教科書で「海水には塩分が含まれている」と読むのとはまったく違う、リアルな体験から生まれる好奇心が、本当の学びにつながっていく。さらにそこから、親子で議論を深めていくことで、学びを得ていく。
そうしたプロセスこそ真の学びと言えるのではないでしょうか。体験は単なる遊びではなく、知識を定着させ、思考力を育むための重要なきっかけとなる。
そういう子どもの好奇心を親子一緒になって探求していく。それこそが体験の真の価値と言えるのかもしれません。
大切なのは、誰とどう過ごすか

お金を払ってサマーキャンプに参加させたり、プログラムされた体験活動に参加させることも、もちろん意味があると思います。
でも、天候が悪くて予定が変わったり、うまくいかないことがあったりしながらも、親子で一緒にその場その場を乗り越えていく。そんな「生の体験」を共有することが、やっぱり一番大切なんだなと実感したんです。
皆さんも、この夏に経験した小さな思い出やちょっと困ったけれど笑い話になった出来事があれば、ぜひ教えてください。
<文/大木優紀>
【大木優紀】
1980年生まれ。2003年にテレビ朝日に入社し、アナウンサーとして報道情報、スポーツ、バラエティーと幅広く担当。21年末に退社し、令和トラベルに転職。