「あの日、たった1杯のお酒で気を失ってしまったんです」

そう振り返るのは、都内で働く女性・みのりさん(仮名・36歳)。5年前のある夜の不可解なできごとを忘れられずにいます。


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近年、飲み物に薬物を混入する性犯罪の報道が増えています。内閣府男女共同参画局は薬物やアルコールなどを使用した性犯罪・性暴力に関して、飲みものや食べ物に薬が混入される、よく効く頭痛薬だからと薬物を勧められる、などの被害事例を挙げ、注意を呼びかけています。

婚約者とその友人との飲み会で

その夜、みのりさんは交際相手で婚約者のXさん(仮名・当時33歳)から「結婚が決まったから、みのりを改めて友達に紹介したい」と誘われ、都内の居酒屋に向かいました。

「彼らには先に一次会をしておいてもらって、私は仕事終わりの20時過ぎに二次会から参加しました。友人同士で話したいこともあるだろうし、私が最初からいたら気を遣わせるかもと思って、“あとから行くね”と伝えたんです

彼の友人たちとは、交際前にも一度お酒の席で顔を合わせたことがありました。だから緊張することもなくて。一応、“婚約者”として多少は気を遣いながらも、楽しく会話をしていました」

すでにテンションの高かった友人たちから乾杯用に差し出されたのは、ハイボール。彼女は一気に飲むことはせず、酔って失言しないように、いつもよりペースをセーブしてゆっくり口にしていました。それなのに──。

トイレで気絶、目覚めたのは閉店間際の深夜

「その最初の1杯を飲み終えた後、トイレに入って座ったら急に頭がクラクラして……そこからの記憶がありません

ノックの音と「お客様、大丈夫ですか? 間もなく閉店のお時間になりますので」という声で目を覚ますと、みのりさんはトイレで座って眠っていたようでした。慌ててスマホを見ると終電の時間はとうに過ぎています。いつの間にか、入店から何時間も経っていたのです

「たった1杯のお酒で気絶して…」36歳女性が告白する“異常な体験”。婚約者からの「ひと言」に心が砕けた
トイレでうずくまる女性
「すぐに返事をして立ち上がろうとしたんですが、小さな声しか出せなくて、足に力も入りません
ひとまず彼氏にトイレで目が覚めた旨のメッセージだけ送りました。

時間をかけて身体を起こしてドアを開けたところで、他の個室から出てきた人が見つけてくれました。その後、店員さんが水を持ってきてくれたのを少しずつ飲み、ふらつく足でどうにかトイレを出ました」

店内にはもうほとんど客がおらず、座っていた席を店員に伝えて確認するとすでに会計は済まされていました。「お連れ様は先に帰られたようですね……」と驚いた顔で言われ、孤独感に襲われます。

婚約者からかけられた言葉に絶望

店員に迷惑をかけたことを詫び、まだ少し意識が朦朧(もうろう)とする中、必死に居酒屋の階段を登り切ったところで、婚約者のXさんが待っていました。しかし、迎えに来た彼の口から出たのは「大丈夫?」ではなく──。

恥かかせないでよ

その一言は、体よりも心を突き刺しました。

「たった1杯のお酒で気絶して…」36歳女性が告白する“異常な体験”。婚約者からの「ひと言」に心が砕けた
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「その時は、きっと彼は飲みすぎて、酔っていたから余裕がなかったんだと、自分に言い聞かせました。友人に紹介した婚約者に、その席でいきなり酔い潰れられて、恥ずかしかったに違いないと反省もしました。

でもトイレに行った連れが戻ってこなかったら、普通なら心配しませんか? 女子トイレには入れないけど、お店の人と見に来るとか。店員さんに聞いたらそういう行動もなかったそうです」

彼の友人たちは誰も戻ってこず、会計をとっくに済ませた彼らがどこで何をしていたのかも分からないといいます。その後、二度と会うことはありませんでした。

自分を責めるしかなかった当時の心境

彼はタクシーに乗るとそのまま寝てしまい、ほとんど会話できないまま同棲していた家へ一緒に帰りました。そして目を覚ますと、いつも通りの明るい彼の姿がそこにありました。


みのりさんは「生理中だったからかも」「お酒に弱くなったのかも」と自分が納得のいく理由を探そうとしました。しかし冷静に振り返れば、体調は良く、寝不足もなく、脳貧血や低血糖の経験もありません。生理のために頭痛や吐き気などを感じた経験もなし。

当時は週に何度もお酒を飲んで、朝まで飲み明かすことも珍しくなかった彼女が、お酒を1杯しか飲んでいないにもかかわらず意識を失ったこと。その後の記憶が曖昧だったこと。彼女の中にあった違和感を覆い隠すように「自分が悪い」と考え続けるのが精一杯でした

じわじわと浮かんできた、薬物混入の可能性

年月が経ち、ニュースで「デートレイプドラッグ」による被害が増えていることを知り、「自分もあの夜、そうだったかもしれない」とようやく腑に落ちたといいます。

「たった1杯のお酒で気絶して…」36歳女性が告白する“異常な体験”。婚約者からの「ひと言」に心が砕けた
薬物
こうした薬物は病院で処方される睡眠薬などによく似ていて、手軽に入手でき、証拠が残りにくいといわれています。内閣府男女共同参画局の薬物やアルコールなどを使用した性犯罪・性暴力に関する注意喚起では、「いつもなら酔わない量なのに酔いの回りが早かった」「体が思うように動かなかった」「記憶が途切れていた」といった症状が特徴に挙げられています。

もちろん断定はできませんが、みのりさんの体験――普通に会話していたのに急に動けなくなる、目が覚めたら数時間後だった――は、そうした薬物の影響を象徴するものにも思えます。

女性をモノ扱いしていた、Xの本性が発覚

表向きは穏やかに振る舞っていたXさんでしたが、結婚後に本性があらわになり離婚しました。職場での不正隠蔽や、みのりさんへのモラハラ、DVに加え、常習的な女性問題も発覚したのです。

「同棲中から、彼は友人たちと相席居酒屋にしょっちゅう出かけては女性を引っかけ、深夜まで連れ回していたんです。LINEには『酔わせてレンタルスペースに連れ込め』なんて会話まで残っていて……女性を同じ人間として見ていないような言葉に目を疑いました

あの飲み会の夜、彼がかけた「恥をかかせないでよ」という言葉。
みのりさんは、それが彼の本質を映していたのだと今なら思います。ですが結婚前は、彼のお堅い職業や普段の好青年ぶりの方を、信じる材料にしてしまったのです。

違和感に蓋をして結婚まで進めてたことを後悔しています。私の家族まで悲しませてしまったし、本当に迷惑をかけました

仮に薬物を使われた被害だとしても、加害者が誰だったのか、あるいは動機が何だったのかは現在も分かりません。ただ、「女性をモノ扱いするようなことを平然と言っていた彼や友人たちの価値観を考えると、“悪ふざけで薬を使っていた可能性”も否定できない」と、みのりさんは語ります。

違和感を封じ込めないことの大切さ

みのりさんがいま伝えたいのは、「自分の感覚を信じてほしい」ということです。

本能的に“おかしい”と思ったら、その感覚はきっと間違っていないと思います。勘違いかもとか、迷惑をかけるとか思わなくていい。私はあの時、違和感を押し込めてしまったことを、後悔し続けると思います。

それから、飲み物は自分の目の届く場所に置き、もし置いて離れるときは新しいものに替える。缶やペットボトルでも、飲みかけで置きっぱなしにしない。飲み会の予定は家族や友人に伝える。そして、少しでも体に違和感を覚えたらすぐにその場を離れる。
これらは自分の身を守るために大切なことです」

証拠は何一つ残っていないし、警察沙汰になって離婚した元夫に、真相を問いただすこともできません。あの夜のことを冷静に振り返れるようになった今、過去の自分を責め続けるより、未来の女性を守るために声を上げたいのだといいます。

「私は性被害には遭いませんでしたが、それでも“もし何かおかしい”と感じたら、誰かに助けを求めていい──そう伝えたくてこの話をしました」

早めに相談して適切な支援を受けて

証拠は残りにくいものの、もし薬物の使用が疑われる場合は、なるべく速やかに尿検査や血液検査を受けて証拠を残すことが大切です。2023年には、警視庁が開発した尿中の薬物反応を数分で検出できる「簡易検査キット(D1D)」が発表されました。これまでは本鑑定に1か月以上かかることもあり、証拠保全のタイミングを逃すケースが多かったのが、このキットで早期に捜査を進められると報じられています。

とはいえ、被害を受けた直後に行動するのは簡単なことではありません。混乱や恐怖で動けなくなるのは自然な反応です。もしできそうだと感じたときには、警察や「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター」へ相談してみてください。あなたの気持ちを受け止め、守ってくれる人がいます。

【参考】
・内閣府男女共同参画局「薬物やアルコールなどを使用した性犯罪・性暴力に関して」

【相談窓口】
・性犯罪被害相談電話全国共通番号「#8103(ハートさん)」
最寄りの都道府県の性犯罪被害相談電話窓口につながる。状況に応じて、医療機関の紹介、医療費の公費負担なども。
・性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター「#8891(はやくワンストップ)」
最寄りのワンストップ支援センターにつながる全国共通の電話番号(通話料無料)。
性犯罪・性暴力に関する相談窓口で、産婦人科医療やカウンセリング、法律相談などの専門機関とも連携。

<取材・文/女子SPA!編集部>

【女子SPA!編集部】
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