児童精神科医のさわ先生が、著書『児童精神科医が子どもに関わるすべての人に伝えたい「発達ユニークな子」が思っていること』(日本実業出版社刊)を出版しました。本書は、それぞれの子どもが持つ特性を、さわ先生が精神科医の立場から丁寧に解説しています。


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 書籍のタイトルにもなっている「発達ユニーク」という言葉。従来使われてきた「発達障害」という表現ではなく、なぜ「発達ユニーク」という言葉を選んだのでしょうか。この言葉に込められた思いや意味について、さわ先生にお話を伺いました。

「発達ユニーク」という言葉に込めた思い

――著書の中では、「発達障害」「グレーゾーン」「ちょっと発達が気になる子」など、さまざまな発達の特性を持つ子どもを、「発達ユニーク」という言葉で表現されています。一般的に使われている「発達障害」という言葉ではなく、「発達ユニーク」という言葉を使った理由を教えてください。

さわ先生:前提として、最近の医療現場では精神疾患に対して「障害」という言葉をなるべく用いない傾向があります。「発達障害」も正式な医学用語としては「神経発達症」と呼ばれています。ただ、一般的にはまだ「発達障害」という言葉のほうが広く浸透しているため、日常生活の中では「発達障害」という言葉を耳にする機会が多いと思います。私自身も多くの方にわかりやすく伝えるために、場面によっては「発達障害」という言葉を使うことがあります。

「うちの子変わってる? これは個性?」悩む親たちに精神科医が提案する“新しい言葉”。 親子の自己肯定感が変わる
児童精神科医のさわ先生
――たしかに「神経発達症」と聞くよりも、「発達障害」と聞く方が理解しやすいです。

さわ先生:そうですね。でも「発達障害」と表現することで、「障害」という言葉からネガティブな印象を持ち、診断を受けることに抵抗を感じる方がいるのも事実です。その一方で、メディアでは「発達障害は個性」「ASD(自閉スペクトラム症)は天才」といった形で、発達障害をとらえる方もいらっしゃいます。
たしかに、時に、天才的な才能をもっているASDの方もいらっしゃいますが、ASDの方全員にそういったものがあるというわけではありません。実際に、そういう方の方が少ないと臨床をしていると感じます。

言葉ひとつ、呼び方ひとつで心は変わる



――発達障害には特別な才能がある、という表現もよく目にします。

さわ先生:その言葉を発する側としては、ポジティブな気持ちで言っているのだと思います。でも、この「個性」や「天才」「特別」といった言葉に傷ついている方もいます。実際、私がクリニックや講演会で出会う親御さんの中には、「個性という言葉では片付けられない」「こんなに大変なのに」「みんなが天才というわけではない」「言われたら傷つく」とおっしゃる方が多くいらっしゃいます。

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※画像はイメージです (以下、同)
――「天才」「個性」と一概に言っても、言葉の定義や捉え方は人それぞれですよね。

さわ先生:そうなんです。多くの方のお話を聞く中で、「言葉ひとつ、呼び方ひとつで当事者の心がこんなに大きく揺さぶられることがあるんだ」と知りました。とはいえ、どんな言葉なら発する側も受け取る側もフラットに受け止められるのか? と考えたときに、適した言葉が見つからないのも事実なんです。「発達障害」という言葉ではなく、かといって「発達ゆっくりさん」などの言葉にもピンとこない……。私自身も、この表現に長い間もやもやした気持ちを抱えていました。

「うちの娘たち、発達ユニークなんですよね」

――さわ先生ご自身も、悩まれていたんですね。

さわ先生:はい。
そんな中で、本の出版や講演会などで自己紹介をする機会が増えました。自己紹介の中で、私の娘の話をすることが増えたんですね。

 私の娘は長女がASD(自閉スペクトラム症)で、次女がADHD(注意欠如・多動症)とSLD(限局性学習症)です。最初は自己紹介で「長女がASDで、次女がADHDとSLDで」と別々に説明していたのですが、なんだか長いし時によっては診断名まで伝える必要もないかもなと感じていました。そこで、あるとき「うちの娘たち、発達ユニークなんですよね」と一言で説明したんです。

――わかりやすい表現ですね。

さわ先生:そうしたら、聞いている方たちから「その表現いいね!」と言ってもらえたんです。

「うちの子変わってる? これは個性?」悩む親たちに精神科医が提案する“新しい言葉”。 親子の自己肯定感が変わる
親子
 ポジティブとかネガティブとか、捉え方を意識して言ったわけではありませんでした。それぞれがその子らしさを持って生きている、娘たちのありのままを表す自然な言葉として出たのが「発達ユニーク」だったんです。ユニークさはその子らしさであり、ポジティブに働くときもあれば、ネガティブに働くときもある。そんなニュートラルな意味を伝えるのにぴったりな言葉だったんです。

その子の発達をユニークさとして受け止めて

――その子らしさが伝わります。

さわ先生:そもそも、全く同じ発達過程をたどる人はいません。
全ての人に発達のユニークさがあるんです。ただ、そのユニークさに困っている人がいるのも事実です。だから、そのユニークさをどう理解し、困っているなら周囲がどうサポートするかが大切です。「発達ユニーク」という言葉は、その概念を伝えるのにわかりやすいと感じています。

――発達のユニークさに、「神経発達症」などの診断名の有無は関係するのでしょうか。

さわ先生:診断名の有無より大切なのは、そのユニークさによって社会生活で本人や周りが困っているかどうかです。病院で診断名がついたからといって困りごとが解決するわけではありませんよね。困っているなら診断の有無にかかわらず、その子の発達をユニークさとして受け止め、周囲がサポートしていく社会であってほしいと思います。その子が何に困っているのか、家族や周囲がどうサポートし、環境を整えていくかが支援の本質なんです。

言葉でレッテルを貼らない社会に

――なるほど。

さわ先生:「発達障害」や「ADHD」「グレーゾーン」といった言葉が独り歩きして、障害という言葉や診断名によって子どもにレッテルを貼ったり、ポジティブに言うことで当事者間に断絶を生んでしまう現状に危機感を覚えています。そのような社会を変えたいという思いで、「発達ユニーク」という言葉を用いて、本書を書きました。
診断名がついて、どうすればいいの? と困っている方も、診断名はついていないけれど子どもの発達で悩んでいる方も、ぜひ一度手にとっていただきたいです。子どもの発達に合わせて、親として、周囲にいる大人として、できることが場面ごとにわかると思います。

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子供が本当に思っていること
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 お子さんの発達に悩みを抱える親御さんにとって、「使う言葉」ひとつが気持ちの持ちようを大きく変えることがあります。

 発達や特性には誰もがユニークさをもっています。「発達ユニーク」という言葉を通して、私たちはそれぞれの発達のあり方を理解し、尊重し合う社会を築いていく必要があります。

【精神科医さわ】
塩釜口こころクリニック(名古屋市)院長。児童精神科医。精神保健指定医、精神科専門医、公認心理師。発達ユニークな娘2人をシングルで育てる母でもあり、長女の不登校と発達障害の診断をきっかけに、「同じような悩みをもつ親子の支えになりたい」と2021年に開業。これまで延べ5万人以上の診療に携わる。著書にベストセラー『子どもが本当に思っていること』『「発達ユニークな子」が思っていること』(日本実業出版社)、監修に『こどもアウトプット図鑑』(サンクチュアリ出版)がある。

<取材・文/大夏えい>

【大夏えい】
ライター、編集者。
大手教育会社に入社後、子ども向け教材・雑誌の編集に携わる。独立後は子ども向け雑誌から大人向けコンテンツまで、幅広く制作。
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