人々の祈りが込められた聖地、信仰と自然が調和する絶景など、どの山にもその土地ならではの信仰や文化が息づいています。ここでは、大串さんが実際に登った海外の山での忘れがたい体験を語っていただきました。
シナイ山(エジプト):モーセが神から十戒を授かった神聖な山
シナイ山は、エジプト東部にあるシナイ半島に位置する霊山で、ユダヤ教・キリスト教・イスラム教の三大宗教にとって神聖な場所とされています。この山が特別とされているのは、旧約聖書において、モーセが神から十戒を授かったとされる場所だから。アラビア語では「ジャバル・ムーサ(モーセの山)」と呼ばれています。古くから巡礼地として知られていて、現在も世界中から信仰を持つ人々が訪れます。
山の麓には6世紀に建てられた聖カタリナ修道院があり、世界最古の現役修道院としてユネスコの世界遺産にも登録されています。巡礼者の多くは、未明に登山を開始し、山頂からご来光に向かって祈りを捧げることで神様を感じようとします。
「神様はいる」という感覚に心が震えた
15年前、美しい海が広がるエジプト・ダハブの町から、聖なる山とされるシナイ山に登りました。旅人たちの多くはダイビングの資格を取ったり、ビーチリゾートでのんびり過ごしたりしていましたが、山が好きな私は、迷いなくこの山へと足を運びました。登山は深夜に始まります。ヘッドライトの明かりを頼りに、一歩ずつ暗闇を登っていきます。砂漠の山らしく道は乾いており、ごつごつとした岩肌が続きます。標高は2285メートル。
やがて夜が明け、頂上からご来光を迎える瞬間。太陽が東の空を染め、冷たい岩山が次第にオレンジ色の光をまとい始めました。厳しく荒々しい山肌が、その瞬間だけは優しく柔らかく見えたのを今でも覚えています。心が震えました。神様はいる、という感覚。

山で神聖な存在を感じることはこれまでにもありましたが、シナイ山での体験はその中でも特別なもののひとつ。15年たった今でも忘れがたい記憶です。
エベレスト街道(ネパール):古くから人々の信仰厚い祈りの道

カラパタールとは、ネパール語とヒンディー語で「黒い岩」という意味。
道中には、最大のチベット仏教寺院であるテンボチェ僧院があり、そこは多くの巡礼者や登山者、修行僧が集う祈りの場所です。
それ以外にも、道の途中にはマニ車、旗、梵字(ぼんじ)などがあり、エベレスト街道が単なる登山道ではなく、信仰の厚い祈りの道でもあることを肌で感じられます。
言葉を失うほど美しい絶景の連続
標高5545mのカラパタールまでは、ネパールのエベレスト街道を歩き、12日間かけて登ったことがあります。エベレストは「サガルマータ(大空の頭)」と呼ばれ、ネパールでは天と地をつなぐ神聖な存在。シェルパ族にとっては神が宿る信仰の山であり、登山前には必ずラマ僧による祈願が行われるそうです。

なにより素晴らしかったのは、日々変わる絶景の連続。朝日に染まるヒマラヤ、氷河を越える道、満天の星……どれも言葉を失う美しさでした。
この旅は、信仰と自然と人の力が共鳴する、まさに“祈りの道”。64カ国を回りましたが、そのなかでいちばん感動したものをあげるとすると、まずこのエベレスト街道が出てくるほど印象的な経験でした。
<構成/女子SPA!編集部>
【女子SPA!編集部】
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