食べたいのに体が拒否反応を起こす
『外食がこわい』(株式会社オーバーラップ、なつめももこ著、2025年刊行)の主人公、なつめももこがまさにその状態でした。大好きなはずのとんかつが、ふとしたきっかけで食べられなくなったのです。気持ちが悪くなって、喉が圧迫されてしまい、全身が拒否反応を起こしてしまう。ももこは戸惑い、悲しみ、悩み続けます。



































会食恐怖症とは
会食恐怖症とは、「人前で食事をすることや、レストランなどの社交場で食事することに恐怖感や不安感を抱く症状」です。大好物のとんかつを食べていた時、ふいにももこの脳内に響いたのが、「残すな!」「食べろ!」という声でした。その声が引き金となって、吐き気や震えなどの体調不良がももこをおそいます。誰かと一緒に食事をしている時だけ、それが起こるのです。
友達、同僚、上司……、食事と社交のつながりは無視できません。
原因は精神的なもの
「心が風邪をひいたら精神科に行ったらいいんだよ」ももこは、以前ももこの姉が言った言葉を思い出します。具合が悪くなるのは体だけではなく心も同じ。自分を第一に考えて、少しずつゆっくりと解決方法を見出せばいいのです。周囲の理解を得るため、遠慮がちにカミングアウトするももこの姿は実にけなげです。「食事がつらい」「ふつうに食べたいんですけど食べられないんです」言われた相手は引くのではないかと、気に病んでしまいますよね。会食恐怖症は拒食症と勘違いされがちですし、まだ認知度も低いかもしれません。
会社はももこにとっても大切な場所で、ともに働く仲間も大切な人達です。居場所や仲間をなくさないために、ももこは奮闘します。「食べきれないかもって思うと食事そのものがすごくこわくて」と同僚に打ち明けた時、ももこにとって予想外の一言が返ってきたのです。
「食べきれないとかふつうのことだよ」
ももこの頭の中で響いていた「残すな!」「食べろ!」という声。その正体とこたえが、わかりはじめた瞬間でした。
「無理にでも食べなさい」と言われた記憶が…
両親、あるいは祖父母から、「食事を残すなんてもったいない」「無理してでも食べなさい」など、注意された経験はありませんか。または、「給食を全部食べるまで席を離れてはいけない」など、教師に見張られた経験がある人もいるのではないでしょうか。両親や祖父母、教師に非があったというより、貧しかった時代の反映や当時の教育方針や価値観のせいもあるでしょう。
とはいえ、子供にとって大人から叱られたという記憶は、その言葉とともに暗い影を落とすしてしまいます。ももこの会食恐怖症も、過去の記憶が要因になっていました。
食べられなくてもいい、残してもいい
食べなきゃ、と思えば思うほど食べられなくなる。頭の中で責め立てる声に怯えて、体が硬直してしまう。何も食べられずに帰宅すれば、生き返ったようにお腹が鳴るのです。たちまちむなしくなって、ももこは泣いてしまいます。どうにもならないつらさや痛みにもがき、解決策を模索したももこを救うのは精神科医であり、やさしい同僚や上司であり、ももこの気づきと努力でした。
体と心の健康、その源となるのは食べ物であり、楽しくおいしくいただける時間ではないでしょうか。本書は食事と、食事がもたらす心の作用をとおして、ももこが自分の人生を生きなおす物語です。ももこがどうやって会食恐怖症を克服したのか、あなたの目で確かめてみてください。
<文/森美樹>
【森美樹】
小説家、タロット占い師。