木村文乃主演ドラマ『愛の、がっこう。』(フジテレビ系)が、毎週木曜日よる10時から放送されている。
木村演じる高校教師・小川愛実が、逡巡しながら孤独なホスト・カヲル(ラウール/Snow Man)と禁断の恋にひた走る……。

 脚本は『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』(フジテレビ系、2014年)などの名作ドラマを手がけてきた井上由美子が担当。同作他、多くのヒット作で演出を担当してきた西谷弘監督とのタッグで、令和の純愛ストーリーを紡ぐ。

 9月18日の最終回放送を前に、脚本家・井上由美子さんにインタビューを行った。SNSで大反響だった場面での工夫や俳優の新たな側面を引き出す脚本術などを聞いた。

人間を相手にする職業の中で、真逆といえるキャラクター設定

初めて連ドラで、ラストシーンを書き終えたくないと思った。『愛...の画像はこちら >>
――井上さんが、本作『愛の、がっこう。』の脚本を担当することになった経緯から教えてください。

井上由美子(以下、井上):
5、6年前から大人のラブストーリーを書きたいと思っていました。なかなか実現しないなか、『白い巨塔』(フジテレビ系、2003年)や『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』などでご一緒してきた西谷弘監督から久々にラブストーリーをやらないかとお声がけいただいて、「やります!」と即答(笑)。いくつか企画が流れたんですが、リベンジの願いを込めて、この物語を提案したのが1年ちょっと前のことです。

真面目だけど恋が苦手な高校教師と、恋のプロだけど文字が書けないホストが出会う話はどうか、と話したら、西谷監督が興味を持ってくださって。栗原(彩乃)プロデューサーにも、「どこかの片隅にいそうな二人の物語にしたい」と話したら共感してくれて本作の企画がスタートしました。

――本作ホームページ上のイントロダクションには「現代にアップデートした新たな純愛ドラマ」と説明があります。
井上さんは「時代の空気感」を大切にしてきたと過去のインタビューで語っていますが、この令和の時代に純愛を紡ぐのが高校教師とホストという設定が興味深いものです。

井上:
今は恋愛に限らず、ボーダーレスな価値観が前提です。でも、それは表向きで、実は格差や偏見が大きくなってますよね。「人間を相手にする職業」の中で最も真逆といえる教師とホストが出会い、壁を乗り越える姿を通して、恋の底力を描きたいと思いました。主人公・小川愛実が勤務する高校をミッション系の女学院に設定したのも聖俗の対比を強調するためです。

ただ、禁断の恋でも、すぐに燃え上がり欲望にまかせて突っ走るのは、出会いの機会が減った令和には届きにくい気がして。気づいたら、いつのまにか愛しくなっているような恋にしたかったです。「ボーボー!」と辺りを焼き尽くす大火事ではなく(笑)、ジワッとあたたまる小さな炎のような純愛ですね。

西谷弘監督の演出が光る屋上場面で「二人の関係が見えた」

初めて連ドラで、ラストシーンを書き終えたくないと思った。『愛の、がっこう。』脚本・井上由美子インタビュー
ドラマ「愛の、がっこう。」
――第6話の海辺の場面で木村文乃さん演じる愛実がラウールさん演じるカヲルに句読点の意味を教えます。さりげない場面で『愛の、がっこう。』というタイトルの意味合いが描かれますが、漢字の「愛」とひらがなの「がっこう」と句読点で組みわせた意図を教えてください。

井上:
最初から仮タイトルで『愛のがっこう』とつけていました。句読点はなしで。
でもそれだとちょっと古い気がして。愛をひらがなにしてみたり、逆に学校を漢字に変換したり、変化が出せないかなと色々書いてみました。

その中で一番ピッタリきたのが『愛の、がっこう。』。句点も読点も文章の主役ではないけど、ささやかな存在に意味をもたせるのは、物語に合うなと。

――そんな二人が課外授業を行う屋上はささやかな関係性を象徴する場所です。各話に印象的な場面も多く、特に第1話の夕景で目を引くのが、ローアングルの画面で風になびくカヲルの前髪です。この場面のラウールさんはどうしてこんなに美しいのか。卒倒するかと思いました。撮影現場でアングルを選択する演出によるものか、それとも井上さんが「風になびく前髪」などとト書きに書いたのか……。

井上:
私もあのローアングルはすごいなと思いました。二人の関係が見えたなと思う場面でしたが、流石に「風が吹く」まではト書きに書いていません(笑)。
脚本では「真剣に書くカヲル」と書きましたね。それを監督がどう捉えてくださるか。現場で遊べるような台本を目指して工夫しています。

――夜の屋上とのコントラストも含め、西谷監督の演出が光ります。学校からもホストクラブからも隔絶された空間であり、二人にとっての密接な関係性の場所であるはずの屋上が、第5話では副担任の佐倉栄太とカヲルの後輩・竹千代との意外な関係の空間にすげかわる。これも面白いです。

井上:
この恋を進められないと思った愛実が、佐倉という他者を屋上に入れることで、カヲルと距離を取ろうとするシーンですね。何気ない場面ですが、それまで秘密だった二人の関係性が、周囲にさらされていく暗示となる大事なシーンだったので、触れていただいて嬉しいです。

「小道具」にこだわった第6話の海デート

――全話で一番お気に入りの場面を一つ選ぶとしたら、どこでしょうか?

井上:
第6話です。デートを終える改札場面も美しいですが、私は砂浜でキスをする場面がグッときました。カヲルが「100人以上の女性とキスをしてきた。俺は汚れてるから先生にはキスをしない」とふざけまじりに言う。それなのにむしろ恋愛が奥手の愛実のほうからキスをしようとする。


それは未遂に終わりますが、すみませんと謝ったりする愛実にカヲルがやっぱりキスをする。あのキスに至るまでの一連の流れがとても好きですね。西谷監督の演出も含めて心に刺さる場面になったなと思います。

――第6話には気になる小道具があります。改札前で二人が交換する帽子です。SNSでも反響があった人気の場面ですが、二人のけじめの瞬間であり、ときめきがありつつ、ほろ苦い感じが絶妙でした。

井上:
そう簡単には気持ちを表現できない不器用な二人なので、今回は小道具に頑張ってもらおうと、あれこれ考えました。ペンや紙、本や日傘もそうです。中でも帽子は持ち主を強く表現するものだと思います。

初めて連ドラで、ラストシーンを書き終えたくないと思った。『愛の、がっこう。』脚本・井上由美子インタビュー
ドラマ「愛の、がっこう。」
第6話は改札の場面で帽子を交換することを先に決め、そこに向かって書きました。それにほんの少しラブコメ要素として、素敵な男性に帽子を選んでもらう帽子屋さんのシーンは女子の夢を込めています(笑)。

ラウール(Snow Man)は「別人になることを楽しめる人?」

――カヲルはお調子者キャラを演じるとき、よくダンスをします。海辺の場面では帽子をかぶっていることで振りがより鮮やかになり、ラウールさんの演技が生き生きしていました。
木村さんとラウールさんの演技はどうでしたか?

井上:
お二人とも初めてご一緒する俳優さんですが、彼らが醸す空気感が抜群だと思いました。木村さんが脚本家役を演じたドラマ『伊藤くん A to E』(毎日放送、2017年)を見て以来、木村さんの演技に目を引かれ、出演作品を他にも拝見するようになりました。

木村さんの演技は、感情のリアクションやセリフを読む速度感が素晴らしい。脚本に書いていないことまで勘を働かせる才能があると思います。大人しい役でも、ここぞという場面で破壊力のある表情をするのが魅力です。普段は可愛い愛玩犬だけど実は強いチワワを思いついて、チワワ先生にしました。

初めて連ドラで、ラストシーンを書き終えたくないと思った。『愛の、がっこう。』脚本・井上由美子インタビュー
ドラマ「愛の、がっこう。」
――ラウールさんはどうでしたか?

井上:
人気アイドルグループSnow Manのメンバーであることはもちろん存じ上げていましたが、私が目を惹かれたのはパリコレの1本の動画です。たまたま「メゾン ミハラヤスヒロ」2025年春夏コレクションを見ていたら、ラウールさんが出ていて。それがちょっと奇妙というか、厚着なのに、おへそが出ていて、顔にはグルグルとテープか何かが貼りついていて、なのに顔は限りなく無表情(笑)。魔王のお散歩みたいだなと。インパクトがありました。

――ランウェイモデルとしても活躍するラウールさんを見てさらに興味を持った人は多いですよね。


井上:
国民的アイドルでありながら、存在感の出し入れができるのを見て、もしかしたら、別人になることを楽しめる方かもしれないなと思いました。

ちょうどフジテレビ制作の主演映画『赤羽骨子のボディガード』が公開直前だったので、スタッフに頼んで見せていただきました。とてもいい表情がたくさんあって。すぐに西谷監督に「見てください」と言いました。

今までの演技であまり見せてこなかった顔をどれだけご提供できるか

初めて連ドラで、ラストシーンを書き終えたくないと思った。『愛の、がっこう。』脚本・井上由美子インタビュー
ドラマ「愛の、がっこう。」
――第5話の書店場面で嬉しい瞬間があります。愛実はコナン・ドイルの『バスカヴィル家の犬』をカヲルにおすすめしますが、これは井上さんの脚本作『シャーロック アントールドストーリーズ』(フジテレビ系、2019年)への目配せですね。これも小道具の一つとして指定したのでしょうか?

井上:
『シャーロック』でもご一緒した西谷監督へのリスペクトを込めたものです。でもカヲルにいきなりコナン・ドイルの小説は読めませんよね……。カヲル、ごめんな、と言いたいです。

――本作で木村さんとラウールさんも、井上作品に出演することで新たな側面を打ち出すためのエネルギーを得たように感じます。俳優の演技を引き立たせるためにどのような工夫があるんですか?

井上:
台本は、台になる本という意味です。なので、演出家と俳優が思い切り遊べる舞台を提供したいと思って書いています。何か一つでも、今までの演技で見せてこなかった顔を贈りたいですね。簡単ではないですが、それを目指すのが脚本家の仕事であり、俳優さんへの礼儀だと常に思っています。

――木村さんとラウールさんの新たな側面とオリジナル脚本で純愛ドラマの物語性がぴたりとハマっていると思います。

井上:
ありがとうございます。涙が出るほど嬉しいお言葉です(笑)。

――愛実とカヲルの恋の結末が楽しみですが、最終回の見どころも含めて視聴者の皆さんに一言お願いします。

井上:
連ドラの最終回を書き終えると、ホッと安心することが多いですが、今回は終わってほしくない、登場人物と離れがたいという思いが大きかったです。

そんな風に思いながらラストシーンを描いたのは初めてかもしれません。

最終回は愛実とカヲルがどこに行くのか。特に愛情を込めて描いたラストシーンを視聴者の方がどのように受け止めて下さるのか。愛実とカヲルが選ぶ結末を西谷監督がどのように完成してくれるのか。まだ私も見ていないのですが、とてもとても楽しみです。

<取材・文/加賀谷 健>

【加賀谷健】
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修
俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu
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