いわゆる“放置子”と呼ばれる子どもたちの存在が、家庭や地域にさまざまな悩みをもたらしています。共働き世帯が当たり前となる中で、子どもの「居場所」をどう確保するかは、多くの保護者にとって大きな課題。
夏休みなどの長期休暇ともなると、家庭だけで対応するには限界を感じる親も少なくありません。

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 そんな中、千葉県の40代主婦は「夏休み、毎朝7時半に小3男子が家に押しかけてきたんです」と明かしました。ゲームやお菓子をねだられる体験から見えてきた、“放置子”をめぐる現実とは──。

毎朝7時半に遊びに来る、近所の男の子

 千葉県在住の栞さん(仮名・40歳)は、小学1年生、小学3年生の男の子を育てる主婦。今年の夏休みに入ってからというもの、毎日のように朝早くから自宅に子どもの友達が家に来ることに頭を悩ませていました。

「今年の夏休みに入ってから、毎朝小3息子の同級生・湊くん(仮名)が我が家に来るようになりました。幼稚園のころから知っている子で、特別仲が良いわけではなかったのですが、今年同じクラスになったのをきっかけに、家が近所だというので一緒に下校することが増えたんです。

 夏休み前は、特に放課後一緒に遊ぶことはなかったのですが、夏休みに入った途端、朝7時半になると家のチャイムが鳴るようになったんです。最初は『遊ぼう!』と誘ってもらい、息子が湊くんと近所の公園で虫捕りをしているのを見ていて『元気に外で遊ぶ子どもっていいなぁ』とポジティブにとらえていました」

「夏休みは毎朝チャイムを鳴らされて…」近所の“放置子”に戸惑う40代主婦。1週間の旅行後に突きつけられた“衝撃の現実”
草原を歩く小学生
 最初の2日間くらいは、ずいぶん朝早いなとは思ったものの、子どもたちが楽しそうに遊んでいる様子を微笑ましく見ていたそう。

両親は仕事で毎日一人、家にいてもつまらない

 とはいえ、今年の夏のあまりの暑さに心配もありました。

「最近の夏は外の気温があまりにも高いので、『暑いから外遊びは一回終わりにしようか』と何度か声を掛けたのですが、湊くんは『家に帰ってもやることがないからつまらない』と言うんです。『家にお父さんかお母さんはいる?』と聞くと、『お仕事に行ってるから毎日一人だよ』と返ってきました。

 湊くんは一人っ子で、私もお母さんとは幼稚園の頃に何度か顔を合わせた程度。当時から外でバリバリ働いているタイプの方というイメージで、深い関わりがなく連絡先も知りません。
見かねた息子に、『湊くんを家に入れてもいい? 毎日つまらないんだって』と言われましたが、相手の親御さんからの許可がないと勝手にお家には入れられないとその場で説明しました」

 毎日一人では可哀想だなという思いもありましたが、勝手に家に招いて何かあってはいけないからと、その時は子どもたちにきちんと説明したという栞さん。

 また次の日も、その次の日も、朝早くに家のチャイムが鳴ることにだんだんとモヤッとすることが増えていきました。さらに、気になる言動も飛び出してくるように。

家に入れると「お腹が空いた」「ゲームやりたい」

「ある日、インターホンのカメラを見ると湊くんが玄関前に立っていて『お母さんがお家にお邪魔しても良いって言ってました』と言うんです。正直驚いたのですが、この日は特に用事もなかったため、家に招き入れることにしたんです。

 すると『お腹が空いた』『YouTubeが観たい』『ゲームやりたい』と要求が多く、違和感を覚えました。湊くん自身は次男とも一緒に遊んでくれたりと優しい子なのですが……。『お母さんからはテレビゲームを禁止されているから、ここでやりたい』と言うので、勝手にゲームをさせて良いのかも分からず、頭を悩ませこの日はボードゲームをすることで納得してもらいました」

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ゲーム
 相手の親御さんと連絡が取れないことが良くないと思い、湊くんを介して連絡先を渡したものの、先方の親から連絡が来ることはありませんでした

「私が料理をしていると、『なに作ってるの? 手伝いたい!』と言ったり、息子と遊びつつも私とのコミュニケーションを求めているようにも見えて、複雑な感情だったことを覚えています」

「この子は放置子なのかもしれない」

「我が家が家族で旅行に行く予定があった日も、朝8時ごろに湊くんが来ました。息子は玄関先で『今日から旅行に行くから遊べないよ、ごめんね』と断っていたのですが、湊くんが『じゃあ、ゲームだけ貸してほしい』と言ってきたのを聞いて、とても驚きました。息子はもちろん断ったのですが、すると今度は『じゃあこのボール貸して!』と庭にあるボールを手に取ったんです。息子は『一緒に遊べないから貸すことはできない』と言ったようですが。

 あとから息子に聞くと、『湊くんは、ゲームをお母さんに取り上げられていて、お菓子も禁止なんだって。毎日外で遊ぶように言われているみたい』と言うんです。
この時、この子はいわゆる“放置子”なのかもしれないという考えが頭をよぎりました」

 話し相手が欲しいだけなのか、ゲームがしたいのか、お菓子が食べたいだけなのかとグルグルと考えていたという栞さん。そんなことを考えながら家族旅行に出発したそうです。

旅行から帰り、インターホンの履歴を見てみたら……

「1週間ほど旅行に出かけて、帰宅してからインターホンの履歴を見てみると、そこには朝、昼、夕方と毎日のように湊くんの姿が映っていました

 同じように共働きの家庭は珍しくないですが、小学校3年生だと夏休みも学童保育に行っている子も多い中で、家で毎日一人でいる湊くんのことを思うと、無下にできないという気持ちはあります。それでも、よその子にどこまでしてあげて良いものかと、悩んでしまいました。『お菓子が食べたい』と家のチャイムを鳴らされるようになったときは、さすがに対応に困りました」

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玄関チャイム
 遊んだり断ったりを繰り返しながら夏休みを終えたそうですが、どうしても湊くんが寂しそうに感じてしまい気になった栞さん。その後、小学校に相談することにしました。

その後、家に来ることはなくなったものの

「新学期が始まってから小学校に電話して話をしたところ、『相手の親御さんに伝えておきます』とだけ言われました。その後の具体的な対応は分からないのですが、それからは息子が湊くんと一緒に下校することはあっても、今のところ湊くんが我が家に来ることはなくなりました

 夏休み中は近所の別のお家にもよく行っていた話を近所のお母さんからも聞いていたので、心配な気持ちがあるのも事実です」

 湊くんがどこか寂しさを抱え、愛情に飢えているようにも見えた、と振り返る栞さん。こうした状況に直面したとき、よその子にどこまで関わるべきかは簡単に答えが出せる問題ではありません。本来は保護者同士が連絡を取り合えるのが理想ですが、共働き家庭が増える今、その環境を整えるのは実は容易ではないのかもしれません。

 さらに、学童保育を希望しても自治体の定員や利用条件などの理由で入所できない家庭もあります。
子どもの居場所をどう支えるかは、家庭だけで解決できる問題ではなく、社会全体で向き合うべき課題だと言えるでしょう。

<取材・文/鈴木風香>

【鈴木風香】
フリーライター・記者。ファッション・美容の専門学校を卒業後、アパレル企業にて勤務。息子2人の出産を経てライターとして活動を開始。ママ目線での情報をお届け。Instagram:@yuyz.mama
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