自由な発想で描かれた絵は、見る人に新鮮な感動を与えるもの。でも、この発想には驚きました。
鹿児島県出水市にあるアトリエ「Atelier COULEUR(アトリエ・クルール)」(@atelier_couleur0622)のInstagramを見ると、おにぎりをキャンバスにして絵を描いた「おにぎりアート」の画像を定期的にアップしているのです。
たとえば、7月15日発表の作品には驚きました。「私はこれを真剣に描きました いえ、毎回真剣にふざけているのです! 笑」というコメントとともにアップされたのは、チューブ式の練乳「森永ミルク 加糖れん乳」を模したおにぎりアートです!
塩おにぎりなのに見た目は甘いチョコパイだ
6月にアップされた、「ロッテ チョコパイ」を模したおにぎりアートも刮目に値する作品。
のりだけにおにぎりとは親和性が高い
2月にアップされた「やま磯 ゆかり味付のり」を模したおにぎりアートも最高です。
なぜ、おにぎりに絵を描いているのか? なぜ、こんなに毎回真剣にふざけているのか? 同アトリエで実際に「おにぎりアート」を描いている担当者さんから話を聞きました。
おにぎりに絵を描き始めたきっかけ
おにぎりを食べようとしたら牛と目が合う
ちなみに、おにぎりアートのつくり方の大まかな流れは以下です。
① おにぎりに塩かふりかけをかけて握る(ふりかけは外にみえないようにおにぎりの中にだけ入れる)
② ラップで包む
③ ラップ専用のペンと油性ペンの併用で絵を描く
ラップを剥がすとこうなります
つまり、お米に直接絵を描いているのではなく、包んだラップの上に絵を描いているわけです。ちゃんと食べるのだから、それは当然ですよね。あと、ふりかけをおにぎりのなかに入れ、絵が映えるよう工夫しているのもポイントでしょう!
そんな、手の込んだおにぎりアートを始めたきっかけを教えてください。
きっかけは、塩おにぎりの”見た目”
制作者は人生で3回くらいしかチョコパイを食べたことがないらしい
担当者:アトリエで制作をしているとき、ささっとお昼ごはんを済ませたかったので「そうなるとおにぎりだなあ」と塩おにぎりを握ったのですが、あまりに寂しい見た目だったから自分のテンションを上げるために描き始めました。
Instagramに初めて投稿したのは2024年9月で、目玉焼きとおにぎり(のりを描いてる)がモチーフにしたおにぎりアートでした。
質素な塩おにぎりに目玉焼きとのりを描き、テンションを上げようとしたのがきっかけ
――あっ、のりも担当者さんが描かれたものなんですね……!練乳、チョコパイ、味付けのり……モチーフを選ぶ理由・根拠は?
「マスヤ おにぎりせんべい」をモチーフにしたおにぎりアート
――Instagramにおにぎりアートを発表してからおよそ1年が経とうとしていますが、最初はどんなところに苦労されましたか?
担当者:技術面では、最初に比べてペンの使い方が慣れてきました。今はねらった色味が出せるようになってきたと思います。完成までにはだいたい10~20分かかりますが、うまくいくときはすぐに終わります。
あと、大変なのはおにぎりに描くモチーフ選び。
今もそこに悩んでいます。フォロワーさんだけでなく描いた自分でさえ見たときにフフッと笑えるかどうかを一番意識しています。
たしかに、フフッと笑える
そのほかに、有名画家の絵画を描く“画家の絵画シリーズ”も制作しています。あまりマニアックな絵画を選ぶとみなさんの反応が微妙になるので、誰もが知っている作品であったり「知らないけどおもしろい!」「なんの絵画なんだろう?」と興味が沸きそうなものを選ぶようにしています。
いかにおいしく、楽しく見せるか
ピカソの『泣く女』をモチーフにしたおにぎりアート。たしかに有名作品だ
それ以外に、具材が入っていない塩おにぎりをいかにおいしそうに感じさせるか……というテーマで描く“食べ物シリーズ”も制作しています。
馬刺し大好きな担当者が描いた、馬刺し丼をモチーフにしたおにぎりアート。しかし、おにぎりは具なし
米を食べているのにデザートまで食べた気分になれたらいいなと……思って、モチーフに「ロッテ 雪見だいふく」などスイーツを選ぶこともあります。
ごはんを食べているけど、デザートも食べたい……という気持ちを叶える「ロッテ 雪見だいふく」を模したおにぎりアート
ムンクの『叫び』をおにぎりに描いたら反響があった
――今まで制作してきたおにぎりアートのなかで、担当者さんのフェイバリットはどの作品になりますか?
おにぎりになぜかムンクの『叫び』
担当者:“画家の絵画シリーズ”では、ムンクの『叫び』ですね。
おにぎりになぜか『モナ・リザ』
あと、フェルナンド・ボテロという画家が描いた『モナ・リザ』(レオナルド・ダ・ヴィンチ作『モナ・リザ』のオマージュ作品)のおにぎりアートもお気に入りです。『叫び』と『モナ・リザ』の2つは特に反響が大きかったです。
さつまいもを模したおにぎりアート。それっぽい紙を巻いてそれっぽくしてある
“食べ物シリーズ”では、焼きいも、天むす、メロンパンとクロワッサン、梅干しおにぎり、チョコパイ、雪見だいふくが気に入ってます。どれがフェイバリットかは決められないので、Instagramを見て判断してください(笑)。
「おにぎりアート」を食べる機会はない
天むすを模した“具なし 天むす風おむすび”。よく考えると虚しい……?
――アトリエにお伺いしたら、これらのおにぎりアートを見たり手に取ったりできるのでしょうか?
担当者:普段はInstagramにのみ載せています。アトリエで食べた後は捨ててしまうので、実物を見る機会はなかなかないと思います。
ただ、リクエストしていただいたおにぎりアートをつくることはよくあります。
たとえば、練乳のおにぎりアートはリクエストをいただいて描いた作品です。
メロンパンとクロワッサンを描いたおにぎり
――Instagramでおにぎりアートを見た方々からはどのような反響が寄せられていますか?
担当者:アトリエでは絵画制作を行ったり絵画教室を開講しているため、“画家の絵画シリーズ”は特に喜ばれています。「次はなにかな?」とみなさん期待をしてくださるので、毎回真剣に考えています。軽い気持ちでふざけて描いていたのが、真剣にふざけている状態です(笑)。
梅干しおにぎりを模したおにぎりアート
――「今後、こういうおにぎりを描いてみたい!」と構想中のモチーフがあれば教えてください。
担当者:具がなくてもおいしく感じるような“食べ物シリーズ”と、「そんな絵画もあるんだ!」と勉強になる“画家の絵画シリーズ”を増やしていきたいと考えています。
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アトリエを主宰しているプロの画家が「真剣にふざけて」制作したおにぎりアート。軽い気持ちで始めたことだったのに、すぐスイッチが入るあたりはさすがアーティストですね。
食べると芸術センスが上がりそうな気もしますが、われわれが食べるチャンスはないのだそう。ならば、自作の塩おにぎりを食べながらInstagramでおにぎりアートの新作を待つばかりです!
<取材・文/寺西ジャジューカ>