※一部作品のネタバレを含みます。
ちはやふる-めぐり-
まず、胸熱な青春で魅了してくれたのが『ちはやふる-めぐり-』(日本テレビ系)。漫画・映画『ちはやふる』の10年後で、競技かるたに青春をかける高校生たちの姿を描きました。タイパ重視だった主人公・めぐるが競技かるたと出会い、周囲とともに成長していく物語です。
誰かと一緒に成長する瑞々しい青春を描いた良作
本作で秀逸だと思ったのはシスターフッドの描き方。めぐる(當真あみ)と、彼女に競技かるたを教える顧問の奏(上白石萌音)の連帯です。めぐるは、受験の失敗や幼なじみの凪(原菜乃華)へのコンプレックスから、青春は贅沢であり、自分は誰かの脇役のような人生だと思っています。一方で奏も、ちはや(映画版の主人公/広瀬すず)をはじめ、高校時代の友人たちのように「なりたい自分」に向かって頑張れていないというコンプレックスを抱えています。そんなふたりが互いの存在や言葉に影響され、自己と向き合っていく姿がとても眩しかった。
その結果、めぐるは仲間と競技かるたに打ち込み、凪と真正面から向き合えるようになります。奏も、自分が本当になりたい研究者や読手としての夢に向き合っていきます。
第1話では「涙が出るほど、何かに身を尽くしたことなどない」と語っていためぐるが、最終回で奏の前で大粒の涙を流す姿に胸がいっぱいになりました。自分の弱さやコンプレックスと向き合いながら「失敗も、成功も、希望も、後悔も、その全部が積もって、今の私なんだ」と気づけためぐる。
そして、映画版の出演者たちも同じ役柄で作品の世界にい続けることで、そのことを体現している。何かに懸けた熱量は、誰かに、どこかに、自分に繋がっていくという宝物のような時間を、作品全体を通して見せてくれました。
愛の、がっこう。
ひと夏の切ない恋を描いた『愛の、がっこう。』(フジテレビ系)にも夢中になりました。
個性豊かなキャラクターのなかで育まれた恋が尊すぎる
育った環境も、生きている社会も違いすぎる愛実とカヲル。しかし、ふたりとも“生きづらさ”を抱えているという意味では似ています。そんなふたりが惹かれ合っていく様子や、お互いのことを想いながらもすれ違う様子に、一緒になってドキドキハラハラしたのは筆者だけではないはずです。特に最終回のラストにも繋がる第6話のデートシーンはあまりにも切なく、涙なしでは観られませんでした。個性豊かなキャラクターが多かった作品だったことも特長的。ストーカーと化した愛実の婚約者・川原なにがし(中島歩)に、昭和の遺物のような愛実の父(酒向芳)、そして毒親全開だったカヲルの母(りょう)などなど。
しかし結果的には、どこか憎めない人間らしさや人間的成長の描き方が秀逸でした。川原なにがしなんて、最終的にはめちゃくちゃイイ当て馬になっていて、むしろ応援したくなった視聴者も多いのでは?
しかし、何よりこの作品に心を奪われた理由は、演技経験がさほど多くないラウールの、ホストとしてしか生きてこられなかった葛藤や苦悩の心情描写が、見た目だけではなく切ないほどに美しかったからではないでしょうか。
素晴らしかった!大団円で終わったふたりの恋物語は熱い夏にぴったりのラブストーリーでした。
僕達はまだその星の校則を知らない
そしてこの夏、最後まで観て最も良かった作品は『僕達はまだその星の校則を知らない』(通称・ぼくほし/フジテレビ系・カンテレ制作)。
学園ドラマの枠を超えた見応えのある社会派ドラマ
学校を舞台にしていますが、生徒や先生が抱えている問題は社会全体に通じています。この作品は主人公が法律的な観点で必殺仕事人的に解決していくような物語ではありません。どんなにその問題と向き合ってもがき苦しんだとしても、完璧な答えは用意されているわけではないし、問題が消えてなくなることはありません。ある意味では“厳しい現実”をリアルに描いている作品です。一方で、誰かに心を寄せてもらうことで、前に進むことができる“温かさ”も内包しています。
何より全話を通して、主人公が徐々に成長していく姿に感動します。苦手な学校や部活動、集団行動、人と上手く関わっていくことに向き合っていく。自分の個性を守りながらも、他者と繋がっていく喜びに気づけたこと。そして恋をしたこと。そのすべてを力にして、問題を抱えた人たちに寄り添おうとする健治の姿には胸が熱くなりました。
難しい役どころを好感度高く演じている磯村勇斗は流石です!生徒たちも注目の若手俳優が演じており、それぞれが表現する苦悩や葛藤にも何度心を打たれたかわかりません。
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この夏は本当にドラマが豊作で、『しあわせな結婚』や『スティンガース』『明日はもっと、いい日になる』など今回ご紹介できなかった作品や、深夜帯・配信にも良作が乱立した印象です。
すでに秋クールのドラマも続々と情報解禁が進んでおり、期待が膨らんでいるのは筆者だけではないはず!その前にお気に入りの夏ドラマをもう一周したいと思います。
<文/鈴木まこと>
【鈴木まこと】
日本のドラマ・映画をこよなく愛し、年間でドラマ・映画を各100本以上鑑賞するアラフォーエンタメライター。雑誌・広告制作会社を経て、編集者/ライター/広告ディレクターとしても活動。X:@makoto12130201