※一部作品の、ネタバレを含みます。
尾碕真花『明日はもっと、いい日になる』
まず紹介したいのは『明日はもっと、いい日になる』(フジテレビ系)に出演していた尾碕真花。児童相談所を舞台とした本作で、二人の息子をネグレクトするシングルマザー・安西夢乃を演じました。若き母親の持つ幼さと葛藤、成長を丁寧に
本作は児童相談所に関わる人々を多面的に描いていることが特長。なかでも尾碕が演じた夢乃については、全話を通じて彼女とふたりの子どもの行く末が丁寧に描かれました。ネグレクトをした夢乃を一方的に断罪するのではなく、その背景や経緯、彼女自身の更生、そして親子の再生まで。展開もさることながら、尾碕による夢乃の心情描写は秀逸でした。主人公の翼(福原遥)や蔵田(林遣都)に思いっきり反発した彼女の登場シーンは、一気に惹き込まれました。
自身もネグレクトを受けて孤独な境遇で育ち、心許せる相手に出逢い子どもを生むもシングルマザーになり、犯罪に巻き込まれるなどに追い込まれ、結果的には我が子をネグレクト。夢乃が抱える淋しさや哀しみ、葛藤、それでも子どもを大事に想う気持ちがどのシーンからも伝わってきました。
一方、深夜ドラマ『シンデレラ クロゼット』(TBS系)では、上京したばかりの純朴な女子大生・春香を演じています。夢乃とは全く違うあどけない魅力に釘付けになりました。朝ドラ『虎に翼』で、主人公の義理の娘・星のどかを演じたことでも注目を集めた尾碕。これからの彼女のさらなる活躍が楽しみです。
中野有紗『僕達はまだその星の校則を知らない』

10代ならではの意志の強さと繊細さを丁寧に表現
生徒たちのなかでも、第1話から重要な役割を担った北原。合併による共学化された学校で、新しい制服があるにも関わらず、「私は伝統のセーラー服が着たくて入学した」と女子高時代の制服を着用したり、校則を変更するため模擬裁判を起こしたり、教師をはじめとする大人たちに堂々と自分の意見をぶつけました。結果的にアンケートによって、校則は変わらないことに。「多数決で何でも決まるなら、裁判も法律もいらない」と語った台詞回しには、不平等感への悔しさと諦めがにじみ出ており、グッときました。
さらに第8話では、別居中の父親によるモラハラをはじめ、北原の金銭面や家庭環境への不安が明かされます。しっかりしていてクールに見えるけれど、彼女もまだ18歳。不仲な両親への「離婚すればいい」という強さを持ちながらも、怖さや迷い、不安を静かに表現していました。
本作での演技は、連続ドラマ初出演とは思えないほどの存在感を見せた中野。有名監督ヴィム・ヴェンダースによる映画『PERFECT DAYS』や、今年7月に公開された映画『この夏の星を見る』でも、感情の揺れを見事に演じており、その表現力は秀逸でした。次はどんな作品に出演するのかも注目の女優さんです。
當真あみ『ちはやふる—めぐり—』

自分と向き合い続けて成長するヒロインが魅力的
第1話では、長期の積立投信を熱く語りながらタイパばかりを気にして、「自分は誰かの脇役」と語る……なんとも主人公感のないヒロインだと思いました。しかし、その裏には中学受験の失敗というトラウマや、幼なじみでまさに“主人公キャラ”である凪(原菜乃華)へのコンプレックスが隠されています。過去の経験から、自分の感情や、欲望を言葉にできなくなってしまったのです。
そんな低体温で脇役魂をもったヒロインなのに、目が離せない。それは競技かるたと、競技かるた部の顧問・奏(上白石萌音)との出会いを通して、心が動かされ、葛藤し、自己と向き合おうとする彼女の不器用な瑞々しさが眩しかったからです。
何かを頑張ることから逃げてきた彼女が、ゆっくりでも、少しずつでも自分の殻を破り、前に進んでいく姿には勇気をもらいました。まだ自己が確立していない10代らしい繊細な心の機微を、丁寧に演じた當真の高い演技力には脱帽です。
しかも彼女はまだ18歳。10月17日は主演映画『ストロベリームーン 余命半年の恋』(しかも本作で共演した齋藤潤との恋物語!)の公開も控えており、これからも瑞々しい演技で多くの作品で輝いてくれることでしょう。
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良質な学園ドラマが多く、フレッシュな俳優陣の演技が楽しめた夏クール。彼女らのますますの活躍を、これからも楽しみたいと思います。
<文/鈴木まこと>
【鈴木まこと】
日本のドラマ・映画をこよなく愛し、年間でドラマ・映画を各100本以上鑑賞するアラフォーエンタメライター。雑誌・広告制作会社を経て、編集者/ライター/広告ディレクターとしても活動。