第24週第118回で、主人公である妻・柳井のぶ(今田美桜)が『アンパンマン』の読み聞かせをしているところをのぞく場面は、あぁこういう動作のおじさんいる! と、思わず膝を打った。
北村匠海が表現する初老感が、とてもリアルなのだ。男性俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が解説する。
フラットな状態で名演が湧きでる
今田美桜主演の朝ドラ『あんぱん』に出演する北村匠海は、どの場面でもいちいち非の打ち所がない演技をする。もちろんこれ見よがしなところは全然ない。常時フラットな状態で画面上に名演が湧きでる、この感じ。これはいったい、どういう演技の仕組みになっているのか。是非とも北村匠海本人に、柳井嵩役の演技プランを開示してもらいたいところでもあるのだが、実際の画面上から北村匠海の演技を分析してみる他ない。
本作を戦前、戦中を描く前半部と、戦後を描く後半部に大きくわけてみる。するとこの前半部と後半部で、(どちらもフラットながら)彼の演技にはっきりコントラストをつけている動作と仕草がそれぞれあることがわかる。
北村匠海の演技プランとは?

嵩は自分の前を通り過ぎて走っていくのぶを見て「俺はのぶちゃんが元気ならそれでいいんだ」と言った。そのとき、立ち上がった状態の嵩は、少し身体をのけ反らせていた。当時の嵩が繰り返していたこの動きは、彼の呑気な頼りなさを象徴する微動だった。
一方、のぶと夫婦になった後半では、腕組みをするようになる。のぶのことも外では「カミさん」と呼ぶようになり、腕組みの仕草が、少なからず嵩の威厳みたいなものを醸した。というように、おそらく本作の北村は前半と後半で動作を使い分けて、明確な演技プランを組んでいたのではないかと思う。
前半部と対照的な挙動
後半部もクライマックスになるにつれ、今度は前半部ののけ反りと対照的な動きをするようになる。挙動といった方がいいかもしれない。「あんぱんまん誕生」とタイトルが付いた第24週第118回を確認してみよう。やっと雑誌に掲載され、世にでたものの、『アンパンマン』の人気と話題性は今一つ。そこでのぶが少しでも興味を持ってもらおうと、子どもたちに読み聞かせをする。その部屋の前を嵩がふと通りかかる場面だ。
廊下の角をまがってきた嵩を手持ちカメラが後退しながらフォローする。相変わらず頼りない挙動。でものけ反ってはいない。むしろ前屈み(年のせいかな?)で歩いている。
27歳が表現する初老感

あぁ、こういう動きするおじさんいるよね。みたいに、ものすごくリアル。時代は1973年。柳井嵩役のモデルであるやなせたかしは当時、54歳。現在27歳である北村匠海は、ひたすら芸が細かい。
第25週第124回では、『アンパンマン』のミュージカル版『怪傑アンパンマン』を上演する。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修
俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu