友人から、雑誌の見出しで、SNSで……そんなフレーズを聞いたことがあるでしょう。ローンを組むことを考えると、30~40代で家を買う、という選択をすべきなのかもしれません。
そんなさまよえる我々に新たな視点を与えてくれるのは、『トッカン』『上流階級 富久丸百貨店外商部』など、次々ヒット作品を生み出し、活躍する作家・高殿円さん。
2024年4月に発行した『98万円で温泉の出る築75年の家を買った』が異例の大ヒット。ロングセラーとなり、「COMICポラリス」でコミカライズもスタートしました。
「不動産は自己肯定感を上げてくれる」と話す高殿さん。前編に引き続き、温泉付き不動産に興味津々のライター・宇野なおみが先達のお話を聞いてきました。
出産、子育て、大病とキャリア……揺れる人生で掴んだ欲しいもの

高殿円さん(以下、高殿):今でこそ「ご機嫌なおばあ」ですけど、30~40代は大変でした。
――2000年にデビュー。以来、ずっと作家としてご活躍を続けておいでです。
高殿:26年間、とにかく書いてきて、ありがたいことにオファーもあって、書き続けることもできました。ずっと自分のキャリアのことばかり考えなきゃ、と走ってきましたが、初めての出産、子育てですべてが変わって。子どもが目の離せない子で……。
さらに自分自身も腎臓病になっていわゆる「難病持ち」になってしまったんですね。自分のことだけ考えられなくなって体はぼろぼろ。だけど、そういうときにヒット作がでて「もっと働け」と言われるわけです。キャリアにはのっておくべき波があります。子育てと仕事、「自分を顧みることのない30代」を過ごしてしまいました。
――『トッカン』シリーズのヒット、そしてドラマ化。順調なキャリアの裏には、大変な思いがあったんですね。
高殿:40代になって、全部がどっと襲ってきましたね。トッカンが売れて、ドラマ化までこぎつけて。自分のキャリアの流れが落ち着いて、仕事がコントロールできるようになってきた。息子も日本語が通じるようになって(笑)。やっと、少し落ち着きましたね。
――その後、コロナ禍が始まった?
高殿:コロナ禍が来て、「無為な時間」が起きた。誰もが「明日死ぬかもしれない」という不安を抱えていたはずです。今までキャリアのことばかり考えていたけれども、「本当にそれは自分のことを幸せにしてくれるのか?」と自問自答しました。
それなりにキャリアを築いた中堅作家、こっから先はもうね、ネトフリでバズるくらいしかない(笑)。無理にバズりを目指すより、「個人的な幸せ」を突き詰めたほうが良いんじゃないかと。
――海外旅行がお好きだけど、コロナ禍では行けず。もうひとつ幸せを突き詰めたら……。
高殿:「温泉だ――!」って(笑)。明日コロナに感染して死ぬかもしれないのに、キャリアばっかり追い求めてもいいのか。みんな同じ境地だったと思うんです。年齢と、コロナ禍、両方が自分の幸せを考えるきっかけになりましたね。
「頑張っている人が社会のせいで貧乏なのが許せない」

高殿:都会で一生懸命働いている女性はたくさんいるのに、家を持っている人は少なくて、資産を持っている人もひと握り。頑張っている人がいつまでも社会のせいで貧乏なのが最近とくに許せないんですよ!
――我々も好きで貧乏をしているわけではないんですがね……。
高殿:日本円は今後、価値が揺らぐでしょうし、インフレは続くでしょう。働いている女性こそ、リスクヘッジとして不動産を持つことは大事だと思います。だって、キャリアのことを考えながら、自分の老後も考えなくてはいけない。自分の資産を運用することが必要です。
――仮想通貨や株、投資信託、いろいろな資産運用の方法はありますけれども。
高殿:不動産はなんだかんだ、今も「現物資産」です。でも、家の相談をされることが多いんですけど、どんな不動産が良いのかは、人それぞれです。温泉が出る家が、万人に必要なわけでない(笑)。そもそも必要ない人もいます。

高殿:まず、「帰る家がある人」と「帰る家がない人」で、まったく状況が違ってきます。田舎に実家の持ち家がある人は、自分の家を買わなくてもいざというときに帰る場所がある。一方、絶対に帰りたくないとか、他の家族が住んでいる人は帰れない。
――そういえば、定年後は実家に帰る、と言っている地方出身の友人もいました。
高殿:帰る家がある人は、働いている間だけ、都内の賃貸物件に住んだり、投資用を購入したり、借地権で会社の近くに住み倒したり、という選択肢が取れます。そうじゃない人は、自分の城、不動産を持つことをおすすめします。
不動産を買いたい女性に問う「あなたは何が欲しいのか」

高殿:まず、「自分にとって何が大事なのか」、己を知るところから始めてください。
――えっ、いつどんなとき幸せか、自分の幸せを考えることが、不動産への第一歩?
高殿:いろんな方とおうちについて話すと「グリーンビューでないとイヤ」、「犬猫と暮らしたい」、「散歩できるところ」とか、幸せに思うこと、外せないポイントがいろいろなんですよ。
――広い部屋が欲しい! などは、都内で叶えるのはハードルが高そうです。
高殿:でも、狭くてもいい、都会じゃないとダメ! というポリシーで物件を購入する人もいますよ。自炊をしないから、近所においしいご飯やさんがないと、とか。華やかじゃないとイヤだという人がヴィンテージのマンションを利便性最優先で買ったケースもあります。
――本当にまちまちなんですね。
高殿:目黒の駅前のタワマンとか、みんなが憧れる不動産はあるでしょう。でも、現実的には難しい(笑)。
――セルフ・コーチングのようですね。不動産を買うために、自分を見つめ直す必要があるとは思わなかったです。
高殿:言語化って本当にすごくて、ひとつ自分が賢くなれる! 私は日記を書いてアウトプットすることをおすすめしています。その結果、転職を選ぶ子なんかもいました。
自己肯定感爆上げ! 不動産を買おう

高殿:自慢じゃないですが、私や私の本の影響で家を買った女性たちが周りにたくさんいます。みんな幸せになっている(笑)。日本の女性には「自己肯定感が足りない」と常々思っていて、「持ち家はあなたをほめてくれる」と伝えたいんです。
この一文は本の帯にもしてもらいました。まず自分を知って、「これが揃っていれば自分は幸せ」を大事にしてください。情けないことに、私は45歳を超えるまで気づけなかった。て、30代でそれに気づいていれば無敵ですよ!
――「自分で家を買った」という事実が、人生を盛り立ててくれるわけですね。
高殿:最近、私の伊豆の温泉ハウスにいろんな人がいろんな相談をしに来るんですよ。尼寺システムとか、「伊豆の瀬戸内寂聴」とか呼ばれていて(笑)。みんなひとまず温泉に沈めてアイスでも食べさせると、前向きになってパワーが出てくる。温泉と海が癒してくれるんでしょうね。

高殿:実は今、夏でも比較的涼しい、「夏に住む家」を探していて。今年はあまりに暑いから、夏の家は今後ブームになるんじゃないかなと思っています。氾濫しない川の近くに土地を買って、3Dプリンターで、平屋を建てたいんです。
――大阪万博で3Dプリンターの建物が使われるなど、今注目を集めていますね。
高殿:さらに、空き家でスタートアップ(起業)しようと思って、具体的に動き始めています。いろいろやりすぎていて、本業の小説を書いてないんですけど……(笑)。
――子育てが大変だったり大病を患ったりと、壁にぶつかられたこともあったはずなのに、すごいバイタリティですね!
高殿:世の中に流されて悲観的にならないように心がけています。もうすぐ50になるから、それで吹っ切れた部分はあるかな。30代のときはまだまだ、40代超えて、子どもが落ち着いたから考えられるようになりました。元気に生きているけど、失敗もある。でも、失敗を笑って話せる人がいたら、若い人も気が楽かなと。まだまだやりたいことがたっくさんあります!
――「温泉付きマンション」による鋼の自己肯定感が、どんどん活動を後押ししてくれているんですね!
ハードな現実も、自分の力で切り開いて

不動産を含め、投資が大好きだという高殿さん。とはいえ、「手順1:小説家になって作品がドラマ化まで辿りつきます」。誰もがその手法を真似できるわけではないですが、その姿やエールに満ちた文章はいつも私たちを励まし、勇気・元気・やる気を与えてくれます。
素晴らしい先駆者である「おばあ」のエッセンスを真似ることはできるはず。私たちも、ご機嫌な「ミニ殿円」を目指して、頑張りましょう!
【高殿円(たかどの・まどか)】
兵庫県生まれ。2000年に『マグダミリア三つの星』で第4回角川学園小説大賞奨励賞を受賞しデビュー。13年『カミングアウト』で第1回エキナカ書店大賞を受賞。主な著作に「トッカン」シリーズ、「上流階級 富久丸百貨店外商部」シリーズ、「カーリー」シリーズ、「シャーリー・ホームズ」シリーズ、『メサイア 警備局特別公安五係』『剣と紅 戦国の女領主・井伊直虎』『政略結婚』『コスメの王様』『戒名探偵 卒塔婆くん』など。漫画原作も多数手がけている
<取材・文/宇野なおみ>
【宇野なおみ】
ライター・エッセイスト。TOEIC930点を活かして通訳・翻訳も手掛ける。元子役で、『渡る世間は鬼ばかり』『ホーホケキョ となりの山田くん』などに出演。趣味は漫画含む読書、茶道と歌舞伎鑑賞。よく書き、よく喋る。YouTube「なおみのーと」/Instagram(naomi_1826)/X(@Naomi_Uno)をゆるゆる運営中