大森元貴の演技力に映画監督も注目?
ファンたちは正真正銘、最後の『あんぱん』となるエピソードを噛み締めながら視聴しているはずだ。中でも、10月1日放送の「男たちの行進曲」の注目度は高い。同エピソードは、名曲『手のひらを太陽に』の作曲を担当するなど、生涯で1万5000曲以上を手がけた作曲家・いずみたく氏をモデルにした「いせ たくや」のメイン回だ。
ダダ漏れしている面白オーラ
福田氏が絶賛したくなるほど、大森のコミカルな演技は光っていた。まず縁が異様に太く麦茶のような茶色のレンズをしたサングラスをかけ、鋭い襟が特徴的なシャツを毎回着るなど、見た目の雰囲気から、ついつい注目したくなるオーラを放っている。ミセスではクールかつチャーミングな印象が強く、その普段とのギャップもあって余計に面白い。見た目だけでなく演技でも魅せてくる。第112話では、嵩(北村匠海)と喫茶店で話している際、たくやが「仕事も恋も全力投球で頑張るのみです」と言うと、嵩に「恋って、結婚してるじゃない」と返される。すると、ピースサインを嵩の前にかざし、ばつの悪そうな顔を浮かべて「2回、離婚しました」と答える。サングラス越しでも切なそうな表情がうかがえるが、むしろサングラスをかけていることで愛嬌が生まれていた。
残念そうな笑みがたまらなく好き
また、個人的には漫画懸賞で大賞を受賞した嵩のお祝いを、嵩とのぶ(今田美桜)の家で行ったシーンでの、たくやが醸し出す空気が好きだった。たくやは「僕は本当に感動してます。“ファイティングやない”とは、嵩が仕事を断らずに引き受けることから、健太郎の勤務先・NHK内で広まっていた嵩の“勲名”で、健太郎はしきりにこの言葉を口にしていた。言い換えれば、健太郎くらいしか使っていなかった言葉を、たくやがあえて使ったものの、健太郎はスルーして普通に喋り出す。その時のたくやは「ちょっと待ってくださいよ!」と言い出しそうな、残念そうな笑みを浮かべたが、その表情がたまらなく好きだった。
大森元貴の驚くべきバランス感覚
そんな微笑ましい場面もある『あんぱん』だが、戦争を経験して傷を抱える登場人物が多いのも本作の特徴。戦争が残した一生癒えない傷跡は頻繁に描かれ、各人物にはどこか影が差している。その一方で、たくやは登場から終始明るい。とはいえ、ただふざけているわけではなく、空気感を壊さずにユーモラスに演じており、大森のバランス感覚に驚かされる。とはいえ、決して三枚目キャラというわけでもない。第99回では『見上げてごらん夜の星を』をアカペラで、第101回ではピアノを伴奏しながら『手のひらを太陽に』を歌っていた。やはりミセスという巨大バンドのフロントマンを務める大森が音を奏でると、独特の緊張感と高揚感が生まれる。この空気感はたくやにしか作り出せないもので、作品にまた違った風を吹き込んでいた。
スピンオフでも『あんぱん』とはまた違った味わいを表現してくれるかもしれない。なにより、大森の本業はミュージシャンだ。次に演技を見せてくれるのがいつになるかはわからない。大森のレアな演技を目に焼き付けるためにも、「男たちの行進曲」を楽しみに待ちたい。
<文/望月悠木>
【望月悠木】
フリーライター。社会問題やエンタメ、グルメなど幅広い記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。X(旧Twitter):@mochizukiyuuki