久しくテレビ業界から遠ざかっている印象のあった、お笑いコンビ・キングコングの西野亮廣さん。彼のテレビ露出がこの夏以降、目立つようになりました。


7月13日放送『日曜日の初耳学』(TBS系)、8月18日・25日放送『大悟の芸人領収書』(日本テレビ系)、9月7日放送『突然ですが占ってもいいですか?』(フジテレビ系)、9月10日深夜放送『キングコングのオールナイトニッポン』(ニッポン放送)など……。

なぜ今、西野さんが引っ張りだこなのでしょうか?

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実力者でありながら稀代の嫌われ者・西野亮廣

キングコングと言えば、M-1決勝進出3回を誇る実力派漫才師です。養成所時代から脚光を浴び、『はねるのトびら』(フジテレビ系)などの番組で世間にその名が浸透。ダウンタウン、ナインティナインに続く次代のスターとして、業界内外から期待されていました。

しかし、その反面、芸人仲間などからの嫉妬も含んだ酷評もあり、それに追随するアンチも多数生まれました。次第に、勢い任せの芸風や、偉そうで鼻につく言動、「ひな壇には座らない」などという西野さんの生意気な発言が視聴者たちからも反感を買うように……。

まるで治外法権?「嫌われ者・西野亮廣」が今テレビで求められる3つの理由。炎上する“いじられ”との境界線
『新世界』(KADOKAWA)
2010年に入ったころから、山里亮太さん、ダイアンさんなどのような反キングコングの芸人さんが台頭し、その妬み恨みを表面化させたことで、キングコングは嫌われ者芸人として地位を確立することになりました。

中でもコンビの手綱を握っている西野さんは、芸人以外の活動で醸し出す“うさん臭さ”や、自己肯定感強めで上からものを言う振る舞いが人々の気分を苛立たせ、さらに嫌われることに。稀代の嫌われ者として、おなじみとなってしまいました。

『ゴッドタン』などの西野いじり企画が話題に

ですが、いつごろからか“嫌われ”を逆手に取った、西野さんをいじる企画が好評を博すようになってきました。代表的なのが『ゴッドタン』(テレビ東京系)です。

ゴッドタンのプロデューサーは言わずと知れた佐久間宣行氏。ともに若手時代、『キンコンヒルズ』(テレビ東京系・2006年)を手掛け、キングコングとは旧知の仲です。その関係性もあり、番組では劇団ひとりさんとの対決企画など、本人が出演依頼を「赤紙」と呼ぶほどの「いじられ企画」で“公開処刑”されています。


「世のヘイトを全部集めてくれる」という無敵さ

また、『アメトーーク』(テレビ朝日系)での東野幸治さんにオモチャにされているような絡みも秀逸で、見ていて爽快感をおぼえるほど。

佐久間氏も9月に放映された『人間研究所』(日本テレビ系)にて、西野さんについて「あれはね、“何をやっても怒られない”キングコングの西野(亮廣)っていう人がいるの。数年かけて、世のヘイトを全部集めてくれるから。無敵なの」と言うほど、嫌われキャラとして信頼を置いていることがわかります。

西野氏本人もYouTubeチャンネル『佐久間宣行のNOBROCK TV』にて「お笑いのお仕事もやらせていただく状況を作っていただいた」と佐久間氏に感謝する通り、自ら嫌われ者を自覚し、いじられも正面から受けて立っているような状況です。

いい「いじられ」と悪い「いじられ」の違い

近ごろ、様々な番組において出演者同士の軽いノリのいじり・いじられがSNS上で賛否を呼ぶことがあります。

いじりというのは毒薬で、簡単にその場で笑いが生まれますが、一歩間違えれば「いじめ」「パワハラ」などと呼ばれかねない。昨今の風潮では、後者で炎上する割合が増えてきています。

しかし、佐久間氏が言うようになぜか西野さんのいじりだけは別格として扱われています。まさに時代から治外法権をうけているような状態です。

彼へのいじりが世間から許される理由は主に3つあります。ひとつは「誰もが認める嫌われ者」であること、ふたつめは「相手との関係性」が見えること、みっつめは「世間的な成功者」であること。

ひとつめの「誰もが認める嫌われ者」かどうかは、前述したとおりで説明不要でしょう。

信頼できる関係性で繰り広げられる安心感

ふたつめの「相手との関係性」は、重要です。西野さんも、佐久間さんや吉本の先輩・東野さんのもとで安心して身を委ねているのがわかります。
大声で「嫌だ」という意志表明ができる相手(番組)だということも重要で、嫌がっている姿もエンタメとして楽しむことができます。

かつては、関係性もなく雑なイジリをする番組に西野さんが怒って途中退席をしたこともありました。

そんなことがあってもなお、西野さんイジリの番組があるということは、現在放映されているいじられ企画は西野さん自身、きちんと線引きをしながら、心を許す制作者や出演者のもとでうま味を感じながらやっているということなのでしょう。

いじられても許される存在感と才能

そして、3つ目の「成功者」か否か。じつはこれが一番重要なのかもしれません。味方が少ない人、立場が低い人に対してのいじりは、ただの弱いものいじめとなります。

西野さんは絵本『えんとつ町のプペル』では78万部突破、映画『えんとつ町のプペル』では日本アカデミー賞優秀アニメーション賞受賞などの輝かしい実績を持つ自他ともに認める成功者です。

まるで治外法権?「嫌われ者・西野亮廣」が今テレビで求められる3つの理由。炎上する“いじられ”との境界線
『えんとつ町のプペル』(幻冬舎)
同じ理由で、品川庄司の品川さんも監督業が順調で、業界からの評価も高い勝ち組です。彼もまた、西野さんと並び、過剰なイジリが許される稀有な存在として異質な立ち位置を保っています。

これからも西野さん、そして品川さんは、いじられ芸人としてお茶の間を楽しませてくれるでしょう。ただ、この「いじられても許される存在感と才能」は、彼らだけのものであることを、私たち視聴者は理解しておかければなりません。

<文/小政りょう>

【小政りょう】
映画・テレビの制作会社等に出入りもするライター。
趣味は陸上競技観戦
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