橋田壽賀子脚本の人気長寿ドラマシリーズ『渡る世間は鬼ばかり』(TBS系)で10歳から12年間、“加津ちゃん”こと野々下加津役を演じていた宇野なおみさん(36歳)。かつて“天才子役”と呼ばれた宇野さんは現在、フリーライターとして活動中です。


 そんな宇野さんが30代女性として等身大の思い、ちょっとズッコケな日常をお届けるエッセイ連載。今回は「一人旅」をテーマに綴ります。

20年間、ずっと一人旅が好き

「飛び降りないか見守られたことも…」36歳・元子役が感じた“...の画像はこちら >>
 一人旅が好きです。

 初めてひとりで旅をしたのは16歳のとき。夜行バスで京都に桜を見に行きました。今思うとなかなか無謀。母はよくどっしり構えて送り出してくれたものだと思います……。

 それから、かれこれ20年、嘘、20年も経っているんですか? 怖。ずっと一人旅が好きです。

 皆様ご機嫌よう、今日も夕飯のメニューを自作の鼻歌で歌っているわたくしです。今日の~ご飯はっ茄子の煮びたしの残りと♪ 車麩とじゃがいもの煮物♪ しらたき入り♪(本当にこんな感じで歌っています。人に見られるとだいぶ恥ずかしい)

 そうそうこのたび、「話そ、お茶しよっ元気出そ」としてエッセイを連載させていただく運びとなりました。皆様の応援のおかげです。


 本当にありがとうございます! 引き続き、どうぞよろしくお願い申し上げます。絶対夕飯の鼻歌より先に言うべきことでしたね。粗忽ものでお恥ずかしい限り……。

かつては少々奇異の目で見られし女一人旅

 子役は高校生になると、舞台にシングルキャストで出られるようになります。私は16歳のとき、大阪松竹座(閉館が決定しました……)と名古屋名鉄ホール(閉館済)の舞台に出ることが既に決まっていて、大阪と名古屋で一人ホテル暮らしを経験しました。

 ちなみに翌年も11月に名鉄ホールにて、三田佳子さんたちと舞台に出ていました。自分で書いていてよくわかりませんね。何、三田さんと共演していたって?

 閑話休題。

 そんなわけで、一人で行動することにまったく抵抗がなく、しかも昔はマイペースすぎて、「人様に迷惑をかける」という理由でソロ旅行ばかりでした。渡る世間は一人旅ばかり。

 今でこそ、おひとり様プランという最高のものが増え、津軽海峡だろうが備前長船刀剣博物館だろうが女ひとりで行っても誰も気に留めません。しかし、私が若いころは割と奇異な目に見られることもしばしばでして……。

 例えば、京都に夜行バスで行くと、朝が大変に早い。
当時はマクドナルドすら開いておらず、朝6時から開門している清水寺に向かいました。若かりし私はコインロッカーに預ける発想がなく、リュックサックを抱えたまま……。

 せっせと坂を上り、すぐさま本堂へ。朝ぼらけとでも申しましょうか、霧がかすかにかかった清水寺はすがすがしい空気に満ちて大変心地良かったです。また誰もいないため、くつろぐことができ、霞の向こうに見える山々の稜線も美しいこと!

 と、すこぶるのんびりしていたのですが、どうも清掃の方の様子がおかしく、私の周りを付かず離れず、で。

 清水寺に行ったことのある方ならおわかりでしょうが、いわゆる“清水の舞台”はだいぶ広々としています。お掃除するならば結構な時間がかかるはず。なのに、そのおじいさんは、私の視界から離れない。

 どうしてかしらと思いながら、清水の舞台の縁に行こうとしたときに気づきました。

「あぁそうか、飛び降りないか見守ってくださってるのか……」

 朝っぱらからひとりで荷物を抱えて現れ、ボケ~っと景色を眺めている若い女が(夜行移動でむくんだ顔で)いたら、そりゃ心配にもなりますよね。それはそう……。当人はたっぷり観光するぞー!と生きる気力に満ち満ちていたのですが。


 また別の機会では、本で読んで憧れた、お寺の宿坊に泊まったことがあります。お手頃価格で、貴重な体験ができる、と大学生の私は喜んでいたものですが、何やら宿の方がきめ細かなお心配りをしてくださって。あらご親切に、と思ってぐっすり眠りました。あれも今思うとカウンセリングされていたのではないかしらん……。

一人旅は「with己」の旅

「飛び降りないか見守られたことも…」36歳・元子役が感じた“女一人旅への奇異の目”と、楽しむために心掛けていること
今年8月には京都と大阪へ
 そんなこともありましたが、今はかなり時代が変わり、私もだいぶ大人になりました。もう飛行機も新幹線も使えますので、「ずらし旅プラン」などを活用しつつ、折に触れて旅行しています。

 最近気づいたことなのですが、私、どうも人より考えている量が多いんですね。京大の山中教授のごとく理論が溢れかえっているというわけではないです。

 しかしてバスや電車に乗っていても気づいたこと、思い出したこと、考えついたことがドバドバと脳内をめぐります。また、言語化もかなり早い。

 私と同じくらいマシンガントークの、よく遊ぶ仲良しのお姉さま(※実姉ではない)なら問題ないんですけれども、時折人様を疲れさせてしまうのです。ちなみに、そのお姉さまとは遊ぶと朝から晩までずっと喋っています。

 一人旅だと当然その感想を口に出すことはありません。
人に話すときはある程度、話をまとめることになる。これがちょうどいい塩梅であり、今このようにエッセイを書いたり、記事を書いたりするのに役立っている気もいたします。

 最近は、思ったこと、感じたことはメモを取るようにしました。昔は旅行の内容を全部時系列で頭の中に残っていたものですが、書くと整理されることに気づきました。遅い。

「飛び降りないか見守られたことも…」36歳・元子役が感じた“女一人旅への奇異の目”と、楽しむために心掛けていること
好きすぎてグッズのうちわを買った人
 一人旅とはwith己、の旅です。旅の間は考えごとが多くなります。その結果、新たな取材の企画を思いついたり、自分の進むべき道が見えてきたり、会いたい人を思い出したり。

 実は日常で一番忘れがちな、「私」に出会えるのが一人旅の醍醐味かなぁと思います。

 好きなのはわかったけど、楽しみ方がわからない、とたまに言われるので、私が一人旅をエンジョイするために心掛けていることもお話しておきましょう。

1.迷い道も楽しむ(だって自由だから)

「飛び降りないか見守られたことも…」36歳・元子役が感じた“女一人旅への奇異の目”と、楽しむために心掛けていること
一人で行った京都鉄道博物館。大はしゃぎした
 普通に人と遊んでいても、フラフラあちこち行きたくなってしまう私。先ほど話したお姉さまなどには、しょっちゅう首根っこをつかまれています。クーン(犬?)。


 1人だとまったく問題なし。これが大変に楽しい! 予定がずれることなんかしょっちゅうですが、予約している予定がなければ問題ないのです。だって一人だから!

 ほとんどの場合道に迷いますが、それもまた楽しみ。そこで出会ったパン屋さんや和菓子屋さんがとてもおいしかったり、素敵な建物を見つけたりと、棚からの“ぼたもち”を楽しむのもまた一興なのです。

2.多少治安に気を付ける

 これは、人によりけりですが。私はお酒がそこまで飲めないので、ひとり飲みはあまりしません。あ、でもお酒は好きですよ。量が飲めないぶん、日本酒やワインをこだわって選びます!

 夜に出かける場合、多少治安には気を付けねばなりません。友人たちは格闘技やっていたり元ラガーマンだったりしますが、わたくしはせいぜい足が素早く上がるくらいのひよわな趣味・バレエと茶道の女ですから。

 どちらかというと、その土地のスーパーに行って、お惣菜やトマトなどのすぐ食べられる野菜などを買って宿へと帰宅。「地元感」を堪能してからのんびりするほうが好きですね。方言交じりの会話が聞こえてくるのも楽しい!かつて 商業演劇の地方公演は半月以上滞在するものでしたので、その習慣の名残でしょうか。

 ごま豆腐やたまご豆腐も、関東とメーカーがまったく違うなど、面白いですよ。
それで地元名物の乾物とか買ってしまい、荷物が増えることもしばしば。

 しかし、ある程度一人で旅ができる日本の治安に感謝ですね。

 一人旅のときはまっすぐ前を向いてサクサク歩くのがポイントです。『ハコヅメ』で読みましたが、人の顔を見ながら歩くのも、防犯上は有用なのだとか。

 夜道はスマホを手持ちにして、ライトをある程度光らせて歩いておくことをおすすめします。防犯の意味もあるんですが、私の場合、静かにしていると存在感がないらしく、昔お散歩中の犬をビビらせてしまった経験があるからです……。普通逆じゃない?

3.スマホであんまり「つながろう」としない

 スマホ自体はマップを見たり、カメラ代わりにしたりして活用しますけれども。

「ここにいる!」とか、「これ食べた!」とか、SNSに頻繁に上げたり、友人や家族に写真をバンバン送ったりはいたしません。なぜならたいていの場合、人の旅なんてすこぶるどうでもいいものですから……★

 私がブログ時代から「リアルタイムでいるところは決して上げないように」というリテラシーのもとに育ったからもあるのでしょう。

 もちろん、「無事に楽しんでいます」などの安否連絡や、「あなたを思い出しました」と一言添えて送るのはとても素敵なことです。

 しかして、いくらでも人とネットを介して24時間繋がれるこのご時世、自分の中に「ためておく」(貯めてでも溜めてでもどちらでも)のも、旅の楽しみ方かと思うのです。

 私は旅で読もうと思った本を買っておいて、あちこちで読んでいます。読み終わってしまい、地元の本屋・古本屋さんに飛び込むこともしょっちゅうです。

 スマホをしまって、石庭や青紅葉をひたすら眺めるのは、なかなか味わい深い時間ですよ。事情を抱えていると勘違いされないように、目の輝きは失わないようにしてくださいネ!

47都道府県制覇を目指して

「飛び降りないか見守られたことも…」36歳・元子役が感じた“女一人旅への奇異の目”と、楽しむために心掛けていること
山形・蔵王の樹氷にて。寒い
 旅行で訪れた場所って、自分の中で親しみがある場所に変わりませんか?

 日本で生まれた方ならば、“出身地”というものがあります。そこで、以前〇〇に行きましたと話すと、会話の糸口になることもありますし、おすすめスポットを聞かせてもらって行きたくなって、再び旅行する、なんてこともあります。

 47都道府県すべてはまだ到達できておらず。四国九州はまだわずかしか行っていません。本州はだいたい行ったことあるかな? あとは沖縄に行ってみたいですね!

 まだ全然行き足りないので、(京都に行きすぎという説もある)これからもいろいろ巡りたいです。そうそう、旅のレポート記事なども書けますよ、私!

 誰かと行く旅行は楽しい。そして一人旅が人生の選択肢にあるのも、また楽しいです。

 皆様どうかご安全に、良い旅を。ボンボヤージュ!

<文/宇野なおみ>

【宇野なおみ】
ライター・エッセイスト。TOEIC930点を活かして通訳・翻訳も手掛ける。元子役で、『渡る世間は鬼ばかり』『ホーホケキョ となりの山田くん』などに出演。趣味は漫画含む読書、茶道と歌舞伎鑑賞。よく書き、よく喋る。YouTube「なおみのーと」/Instagram(naomi_1826)/X(@Naomi_Uno)をゆるゆる運営中
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