でも部下思いでいい人ではあるのだろうと思っていたら、実は黒幕だった。本作の玉山鉄二は、コミカルな名調子で、最終的にこの役を愛嬌のある悪役に仕立てた。
男性俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、“コミカルダンディ”俳優・玉山鉄二を解説する。
「構わないよぉ~?」とにやける警察官僚
森川葵主演ドラマ『スティンガース 警視庁おとり捜査検証室』(以下、『スティンガース』)で、玉山鉄二が演じる警察庁審議官・西条巧が、やたらにやけている。第1話序盤で初登場する西条は、警視庁内に新たに創設する囮捜査検証室、通称スティンガースについて説明している。警察幹部相手に最初は官僚的な人物かと思った。
ところが、スティンガースの必要性を力説する西条がやや大げさにジェスチャーし始めると、何だか一気に胡散臭い。幹部の一人がおとり捜査が犯罪を誘発するのではないか懸念すると、「だから日本の警察はダメなんですよ」と語気を強める。そして人差し指で相手を牽制する。
西条はスティンガースの室長としてFBIで優秀な実績を上げた二階堂民子(森川葵)を抜擢する。審議官室にきた二階堂が、捜査資料を貸してほしいと頼むと、西条は「構わないよぉ~?」と語尾をやけに伸ばしてにやける。
キャラに忠実な西条役
警察庁の審議官というと、警察組織のトップエリートである。にもかかわらず、こんなににやけていていいのか。というか、どうしてこんなににやけてばかりいるのか? 答えは簡単。自分のキャラに忠実な西条は、上述したジェスチャー以降、全然キャラがぶれない。それどころか、どんどんコミカルにおどけてばかりいる。二階堂とはどうも阿吽の呼吸らしい西条が、捜査一課から異動した乾信吾(藤井流星)の働きぶりをたずねる。
二階堂が「文句言いながらもがんがん動いてくれてます」と言う。西条は「あいつも学生時代ラグビーやってたから」と返して、ラグビーボールをエアーで思いきり蹴り上げる動きをする。
さらに二階堂が「乾さんすごいバックスだったみたいで」と言うと、西条は「えええ」とあわあわするが、すぐにハッとしてボールを放る。真面目モードへの切り替え、そのしなやかな緩急も西条役のキャラの特徴だ。
新旧“コミカルダンディ”キャラの魅力
第1話ラスト、初おとり捜査を成功させたスティンガースのメンバーたちを西条が祝福する。審議官室に響くやや大げさでいんぎんな拍手の音。第2話で再度審議官室。捜査費の高額な箇所について西条が確認する。二階堂が必要経費だと笑顔を向けると、西条が「構わないよぉ~?」とニヤリ返答。
ほんとぶれない人。大学時代はラグビーで鍛えた身体が逞しい。見た目は清潔感ある髭もダンディなイケオジ。それでいて、中身は“コミカルダンディ”。今の玉山鉄二にはぴったりはまる。
昔の玉山鉄二はどうだったか。警察官役としてはまだ抜擢される側だった『BOSS』(フジテレビ系、2009年)。
天海祐希演じるアメリカ帰りの警部・大澤絵里子が、警視庁に創設された特別犯罪対策室の室長になるという同作の発端が『スティンガース』と似ている。
さらに大澤を抜擢する・野立信次郎(竹野内豊)が、軽妙な警察官僚であることも近似値。玉山が演じる片桐琢磨は捜査一課から異動してきた刑事で、『スティンガース』乾に相当する役柄か。
そして興味深いのは、野立と片桐が髭面ビジュアルであること。ここに新旧コミカルダンディなキャラの魅力がある。
新たなコミカルダンディ俳優として

『BOSS』放送当時は29歳だった玉山鉄二が現在45歳。『BOSS』から打って変わり、『スティンガース』は、新たなコミカルダンディ俳優としての位置付けを確かなものにした作品だと考えてみる。
第3話では、まことしやかに噂される最強の殺し屋を審議官自らが変装して演じてしまう。ここまでコミカルだと大真面目にも見えてくる。
だから最終回となる第11話で西条が黒幕だったと明かされても全然驚かない。薄ら笑いが張り付いたようなにやけ面は全て本性を隠すための厚い仮面だったんだよなと。
西条の逮捕場面で二階堂が聞く。
本作の玉山鉄二は、黒幕役をこんなに愛嬌たっぷりキャラに仕立てられる。流石のコミカルダンディ芸当だ。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修
俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu