見る人を笑顔にするこのチャンネルは、現在総フォロワー数90万人を誇る人気コンテンツとなっています。
コロナ禍に見つけた趣味から始まった
──原田さんは、元テレビ東京アナウンサーという経歴をお持ちですが、「実況ベイビー」を始められたきっかけは何だったのでしょうか。原田修佑さん(以下、原田):「実況ベイビー」を始めたのはコロナ禍でした。当時、担当していたスポーツ実況の機会が激減し、アナウンサーとして言葉を届ける場が大幅に減ってしまったんです。
──当時は、エンタメ業界そのものが止まっていた時期でしたよね。
原田:はい。様々な番組が止まってしまって、「実況の練習をしないといけないな」と考えていました。ちょうどその時、妻が妊娠中だったこともあり、「赤ちゃんを実況したらかわいいだろうな」とふとした瞬間にひらめいたんです。さらに、地元の友人の多くが子どもを産んでいる時期だったので、動画をたくさん送ってもらえました。
僕は子どもが大好きなので、最初は趣味と実況の練習も兼ねて、赤ちゃんの動画に実況をつけて許可を得た上で公開していました。
──趣味と練習を兼ねて、赤ちゃんに実況をつけていたんですね。
原田:そうですね。あとは、当時はコロナ禍で辛いニュースが多かったので、下を向いていたみんなが動画を見て「ふふっ」と笑ってくれたらいいな、という思いもありました。「多くの方に見てほしい!」というよりも、動画を送ってくれた親御さんや、見てくれた方が少しでも元気になってくれればいいなという気持ちが強かったんです。
──動画を公開した当初の反響はどうでしたか?
原田:赤ちゃんに実況をつけるという動画コンテンツは世の中になかったので、公開した当初は見ている方も、「この動画は何?」という感じだったと思います。でも、動画を公開していくうちに「おもしろい」「かわいい」というコメントが増えていって、「うちの子の動画にも実況をつけてください」と親御さんから連絡をいただくようになったんです。
みなさんの反応を見ていくうちに、この動画チャンネルに価値があるのかもしれないと感じました。ただ、当時はあくまで趣味の範囲でやっていたので、このチャンネルがここまで大きくなるなんて、夢にも思っていませんでしたね。
顔出しなし、匿名でインタビューに答えたのに身バレして
──「実況ベイビー」は、5本目の動画でバズっていますよね。原田:僕自身も驚きました。投稿を始めて5本目で、ある媒体の記者の方が取材をしてくださったんです。記者の方が子ども好きで、動画を見てくださっていたようです。その記事がYahoo!ニュースのトップに掲載され、それをきっかけに、民放とNHK合わせて12番組から出演オファーが来ました。
当時はアナウンサーとして、テレビ東京の社員だったのでチャンネルの運営も匿名でやっていたんです。
──反響はいかがでしたか。
原田:日本テレビの『ミヤネ屋』に10分以上も取り上げていただいたんですが、顔出しをせず匿名で出たものの、僕の声がかなり特徴的なので、すぐに社内や他局のアナウンサーたちに「あれ、原田じゃない?」とバレて連絡がきました。声でわかってもらえるのはすごく光栄でしたが、これ以上出すぎるのも良くないな……と思って、当時は少し更新を抑えました。
──予想もしない形で注目を浴びて、当時はどんなお気持ちでしたか。
原田:ありがたい気持ちでした。ただ、正直なところ、当時は「事業」にしようという意識は全くありませんでした。取材をしていただき、注目を浴びた直後から本業のアナウンサーの仕事が忙しくなったのと、子どもが生まれたことで動画にさける時間もなくなり、更新をほぼ止めていました。
当時は育児に専念しつつも、『WBS(ワールドビジネスサテライト)』という報道番組の担当にもなっていたタイミングだったので、取材にも集中していたんです。そのため、実況ベイビーは一旦動かさず、温めておくことにして。せっかく注目を浴びたのに、更新が止まっているという複雑な状態だったと思います。
子育て×エンタメの力で世の中を明るくしたい
──どのようなきっかけで更新を再開されたのでしょうか。原田:更新は止まっていたものの、メディアに取り上げられたことで、より多くの方が動画を見てくださり、育児に悩む親御さんから「育児に前向きになれた」「大変な子育てだけど報われた気がする」といった温かい声を数多くいただくようになったんです。
何気なく始めた実況が、人々の心を動かしている。みなさんのコメントを見ていくうちに、極端に言えば「人の命を救うんじゃないか」とさえ感じたんですね。
──コンテンツを必要としている方に届いていたんですね。
原田:あわせて、『WBS』で熱い信念を持って事業に向き合う経営者の方に取材をする中で、「エンタメの世界でさらに世の中に貢献できる仕事がしたい」という思いが強くなっていきました。
──動画の更新を止めていても、情熱が高まっていったのですね。
原田:はい。もともとエンタメの力で子どもたちを笑顔にしたいという思いからテレビ局に入りました。だからこそ、視聴者の方からのコメントが胸に響いたんです。その声を受けて、「実況ベイビー」のように子育てとエンタメを組み合わせ、社会にインパクトを与えたいという思いが強くなりました。そこから、このコンテンツを本格的に育てようと決心し、会社を辞める準備を進めていきました。
家族を相手に、パワポで起業プレゼンを
──安定したアナウンサーの仕事を辞めて事業を始めることに、ご家族はどのような反応でしたか?原田:妻は案外驚いていませんでした。
──すごいですね。
原田:妻に告白した時よりも緊張しました。結果、妻もちゃんと納得してくれたので起業に至り、「株式会社Nicoli(ニコリ)」という会社を立ち上げました。アナウンサーを辞めてすぐに会社を立ち上げたわけではなく、退職後に一度スタートアップの会社で働かせていただいて、事業を学んだりと準備はしていました。実況ベイビーを含め、子育てとエンタメをかけ合わせて世の中を楽しくするのが願いです。エンタメの力で世界中の親子をニッコリさせる。親子の幸せな時間を増やしたいですね。
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コロナ禍の「赤ちゃんに実況をつけたらかわいいだろうな」というひらめきで始まった、実況ベイビー。
【原田修佑】
1993年生まれ、愛知県豊橋市出身。二児の父。元テレビ東京アナウンサーとして『WBS(ワールドビジネスサテライト)』やスポーツ実況を担当。現在は株式会社Nicoliの代表として、YouTubeチャンネル「実況ベイビー」をはじめ、親子が安心して楽しめるエンタメコンテンツを企画・制作している。
<取材・文/大夏えい>
【大夏えい】
ライター、編集者。大手教育会社に入社後、子ども向け教材・雑誌の編集に携わる。独立後は子ども向け雑誌から大人向けコンテンツまで、幅広く制作。