NHK連続テレビ小説『ばけばけ』の放送がスタートし、もう2週目に突入しました。本作は小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)とその妻・小泉セツをモデルとしながらも、怪談を愛する夫婦の何気ない日常をフィクションで描く物語です。


放送前は「今度の朝ドラヒロイン知らない女優さん」「小泉八雲って、耳なし芳一?」「ちょっとマニアックでは?」などの声も聞かれましたが、始まってみると好意的な声の多いこと!

朝ドラウォッチャーの筆者が『ばけばけ』が高評価を集めている“おすすめの理由”を解説します。

理由1 ①:珍しい時代設定──“明治時代”を舞台にした朝ドラ

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今回の朝ドラで珍しい設定な点は二つ。まず、一つ目は“明治時代”を中心に描かれている点です。朝ドラで描かれる舞台の時代設定の多くは“昭和”、次に“大正”、“現代”。

その理由を考えると、まずヒロインとなる女性が社会に躍進した時代であることと、多くの市井の人々が苦難を経験した第二次世界大戦が起こったことが挙げられるでしょう。ドラマとしてヒロインの苦難を乗り越える人生を描きやすいのかもしれません。

近年、明治より前を舞台に描かれたのは10年前の2015年放送『あさが来た』です。江戸末期から明治の時代と、朝ドラでは珍しい時代設定でしたが、主演の波瑠はもちろん、本作をきっかけにブレイクしたディーン・フジオカや、ヒロインの夫・新次郎さんを演じた玉木宏の活躍もあり、大ヒットしました。

今回の『ばけばけ』は明治8年からスタート。時代は明治に変わるも、まだ江戸の混沌が残っていることが1週目からよく伝わってきます。時代は令和へと移り、多様な価値観のアップデートが求められる現代に通じる部分もありそうです。

理由1 ②:珍しい時代設定──朝ドラで珍しい“外国人の夫”

「名作の予感!?」朝ドラ『ばけばけ』が高評価を集める3つの理由。“今後ブレイク必至”のヒロインが凄い
画像:連続テレビ小説「マッサン」オリジナル・サウンドトラック(ヤマハミュージックコミュニケーションズ)
もう一つの稀な設定は、ヒロインの夫が“外国人”であることです。夫婦が逆ですが、これは朝ドラ史上初の外国人を起用した『マッサン』以来の試みです。『マッサン』では玉山鉄二が主演で、妻となるヒロインをシャーロット・ケイト・フォックスが演じました。


当初は違和感を覚える意見もありましたが、ウイスキーブームを起こすヒット作に。近年では海外の俳優が主要キャストとして出演することも増え、観る人たちの意識も変わっているように思います。

本作ではイギリス出身トミー・バストウが、1767人のオーディションから選ばれました。モデルは小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)。第1話でヒロインのおでこに優しくキスをするシーンや、オープニングからもなんだか微笑ましくなる佇まいで、既に視聴者の心を掴んでいるのではないでしょうか。

ちなみに、彼は映画『ジョージアの日記/ゆーうつでキラキラな毎日』(2008年)や、昨年配信されたドラマ『SHOGUN 将軍』(真田広之主演・第82回ゴールデングローブ賞作品賞受賞)などに出演しています。

理由2:ヒロイン髙石あかりの確固たる存在感

前作の今田美桜、前々作の橋本環奈と比べたら知名度は足りないかもしれませんが、ヒロインの髙石あかりは若手の中でも群を抜いて存在感のある女優さんです。

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ヒロインの髙石あかりさん画像:株式会社クラフティア プレスリリースより(PRTIMES)
初の主演(伊澤彩織とのダブル)映画『ベイビーわるきゅーれ』では、女子高生で殺し屋という主人公をキレキレのアクションとともに演じて注目を集めました。

その後も映画やドラマで、めきめき頭角を現します。彼女をよく知らない方におすすめの作品は、NHK夜ドラ『わたしの一番最悪なともだち』。主人公ほたる(蒔田彩珠)の友人・美晴役を演じ、天真爛漫に明るく個性的でちょっと身勝手な女の子を瑞々しい演技で表現しました。

一方で、今年放送の『御上先生』では、逆に目立たないクラスの優等生を演じながらも繊細な心情表現が印象的。動も静も演じ分けられることを証明しています。
『ばけばけ』のヒロインはオーディションによって髙石に決定していますが、彼女を知っている人なら納得の結果だったのではないでしょうか。

1週目の冒頭と第5話で子役からバトンを受けて登場した髙石。島根の松江藩の上級武士だったが、時代が明治となり苦しい貧乏生活を送ることになった松野家の一人娘・トキを演じています。父の事業失敗はともかく、恋占いをするも悲惨な結果を迎えるなど不運なところはありそう。

一方で、結婚相手の条件が「怪談が好きで、働き者の小豆洗い」って……ちょっと変わり者なところもありそうなヒロインです。しかし悲壮感も卑屈感も彼女からは感じられません。むしろ表情の豊かさと愛らしさに釘付けになりました。友人の結婚が先に決まったときの不自然な笑顔ったら!

髙石がこれからトキをどんなふうに演じていくのか、ますます目が離せそうにありません。

理由3:日常の描き方が愛おしい脚本家・ふじきみつ彦氏

そして『ばけばけ』が良作の予感がする一番の理由は、脚本を務めるのが『バイプレイヤーズ』や『一橋桐子の犯罪日記』などを代表作に持つふじきみつ彦氏であるということです。何気ない日常や、人の営みにこそリアルなドラマがあることを、数々の作品で物語ってきた脚本家。

例えば『有村架純の撮休』(各話異なる脚本・監督が女優有村架純の撮休を妄想して描いた作品)の、ふじきみつ彦氏が務めた第5話はとても印象的でした。「瓶の“ふた”が開かない」ただそれだけなのです。
瓶の“ふた”が開かずに苦戦したことは誰の日常にもある一コマですが、そこを切り取ろうとする脚本家はそう多くないのではないでしょうか。しかも面白い!

本作でも、第1週は“しじみの味噌汁”を軸に松野家の日常が描かれました。そんな普通の人が生きる日々を丁寧に切り取っているからこそ、手に汗握る展開は少なくとも、ちょっと笑えて心が温かくなる朝ドラが楽しめそうです。

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『ばけばけ』は始まってまだ2週目ですが、すでに名作の予感がする設定にキャラクター(演者)、展開が繰り広げられています。ハンバートハンバートが歌う主題歌『笑ったり転んだり』も物語にマッチしていて、毎朝の癒しになっている人も多いはず。いい半年になりそうな予感が、確信に変わりつつあります。

<文/鈴木まこと>

【鈴木まこと】
日本のドラマ・映画をこよなく愛し、年間でドラマ・映画を各100本以上鑑賞するアラフォーエンタメライター。雑誌・広告制作会社を経て、編集者/ライター/広告ディレクターとしても活動。X:@makoto12130201
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