TBS退社から8年経った今年、紆余曲折を経て20年生活した東京を後にして活動拠点を故郷北海道に戻したアンヌさん。
第55回となる今回は、10月4日、高市早苗氏が自民党新総裁に選出されたニュースに対する世間の反応を読みときます(以下、アンヌさんの寄稿です)。
高市新総裁の「ワークライフバランス」発言に賛否
高市早苗自民党新総裁の「ワークライフバランス」発言が話題になっております。新総裁に選出された際の挨拶の場で、自民党議員に対して「馬車馬のように働いていただきます」「私自身もワークライフバランスという言葉を捨てます」と発言したことがさまざまな形でSNSを賑わせていますが、この件について、私はニュース番組のコメンテーターをしているので、特定の政党や政治家に関して特によいも悪いも明言しません。が、自分を奮い立たせるべくこのように発言したのだろうというのは想像に難くありません。
多くの国民が裏金問題等で自民党にがっかりしたことや、さきの参議院選挙でも新興勢力に票がいったことなど、古い自民党に国民が不信感を抱いている中、仲間たちに注意喚起したかったという狙いもあるのでしょう。
「公僕」という言葉は昨今聞かなくなったものの、国会議員という存在は、国民のために東奔西走します、とそれくらいの覚悟を持っている人にやってほしいとたしかに思う部分もあります。しかし、やはり高市さんの発言に対しては賛否両論あるわけです。
2007年に取り組みが本格化

調べてみると、厚生労働省のウェブサイトにしっかりと表記がありました。平成19年「仕事と生活の調和推進官民トップ会議」が開催され「仕事と生活の調和(ワークライフバランス)憲章」およびその行動指針が策定され、これを機に日本における取り組みが大きく動き出した、ということのようです。
平成19年っていつかと思えば2007年。
個人的には私はTBS入社2、3年目くらい。一番忙しかったころ。
私より下の世代は「そんな働き方はもうやめてもよいんじゃない?」という流れが社会に生まれ、働き方、睡眠のとり方、休みのとり方ひとつとっても考え方がどんどん変わっていっています。
高市氏の発言は40代~60代の女性に刺さっている?
今回の「ワークライフバランス発言」のSNS上での受け止め方、言説を分析してみた私は、ひとつ気づいたことがあります。どうやら40代から60代の女性に特に刺さっている人が多い印象があるのです。中でも特に、自分は仕事だって、家庭だって育児だって頑張ってきた、本当に自分の時間がなかったけど、労働が好きだし、今があるのはあのときの艱難辛苦(かんなんしんく)があるからだ! と今でもバリバリなんらかの形で社会と関わりを持ち続ける女性たち。
男女の別をもうけるのはナンセンスかもですが、日本ではじめての女性総理大臣誕生かということで、これまで政治的発言から距離をとっていた人でも「女性総理が誕生して嬉しい!」「実は応援していた」とSNS上で急に表明し始めたこの世代の女性がまあ目立つ。
高市氏の言葉に自分の歩んできた人生を重ね、誤解を恐れずに言えば、共感をしている層が確かに一定数存在すると言うことではないでしょうか。
自分はずっと若いころから寝る間も惜しんで働いてきた、その中で結婚し、こどもを産み、子どもが熱を出せば会議に遅刻したこともあったし、家事の分担でもなんど夫ともめてきたことか。自分は自分の時間を削ってとにかく家族のため、もしくは社会のためにかんばってきたんだ、という思いを胸の内にこれまで隠してきた女性たち。言いたいことは山ほどある! 自分はとにかく頑張ってきたし、頑張っている!
そんな思いが積み重なってきていた中での高市さんの発言。自分のこれまでの頑張りを「今、私がまずそうだし、これまでもワークライフバランスなんてなかった! とにかく私たちはがんばりすぎてきて、今があるんだ!」という気持ちでもって受け止めた人が多かったのではないでしょうか。
過剰な労働や、私生活を犠牲することが美徳だとは思いませんし、ある種それがもてはやされる時代に逆行することも非常に危険だとは思いますが、言葉にならない熱い思いが、40代から60代の多くの女性の中にくすぶっていたのもまた事実ではとも感じるのです。
世の中はなにを女性に求めているのか

女性になにかを頑張らせる傾向はまだ目立ちます。大変なのは男も女もない、というのもわかっていますが、仕事と家事の両立、という点からみるとまだまだ女性のほうが頑張っている家庭が圧倒的に多い現実。スーパーウーマンであることを求められ続けることにみんな疲弊しています。
言葉尻をとらえてニュースにしつづけるのは時間の無駄。ですが、なぜ、高市氏の発言が一定の女性たちに響いたのかというと、それだけ多くの女性は疲れきっている、というのが指摘できやしないかと感じる私。
やっぱり介護ひとつとっても、「嫁」的存在の家庭内の女性がメインを担う仕組みはずっと基本的に変わっていない訳です。
世の中はなにを女性に求めているのでしょう。働いてほしい? 産んでほしい? 介護してほしい? 全部してほしいんでしょう。
さあ、高市総理大臣は今後どのような政治運営をしていくのか。多くの女性の負担が軽くなる抜本的な変化が日本におきますように。
<文/アンヌ遙香>
【アンヌ遙香】
元TBSアナウンサー(小林悠名義)1985年、北海道札幌出身、在住。