SNSのDMを通じて企業やブランドを名乗るアカウントから「商品PRの依頼」を受ける――。そんな“案件詐欺”の被害が、インフルエンサーの間で多発しています。
実在する企業の社名やロゴを使い、もっともらしい契約書まで用意されていることもあり、「まさか詐欺だとは思わなかった」と被害に遭うケースが相次いでいるのです。

 こうした詐欺で狙われているのは、インフルエンサーだけとは限りません。「副業募集」や「アルバイト募集」をうたう詐欺でも、案件詐欺と同様の手口が使われるケースがあります。

インスタDMで“PR案件”を受けた女性が「これ詐欺だ」と気づ...の画像はこちら >>
 今回、「途中で詐欺だと気づいたけれど、あえて気づかないふりをして最後までやり取りをしてみました」と語るインフルエンサーの女性・あやねさん(仮名・30歳)に取材しました。

 あやねさんは総フォロワー数約4.7万人のインフルエンサー。普段からSNS上で案件を受けているからこそ、DMが来た際には必ず、返信する前に企業情報を調べるようにしているんだそうです。そんな中で届いた案件詐欺DMの、実際のやり取りとは?

とあるスキンケアブランドからの案件依頼

インスタDMで“PR案件”を受けた女性が「これ詐欺だ」と気づいた瞬間とは。あえて乗っかってみた“興味深い結末”
PR詐欺
――どのような案件の依頼が届いたのですか?

「“フォロワー数×2~5円”という、スキンケアブランドの案件でした。商品を送っていただき、実際に使用してみた感想をInstagram上で発信するといった内容です。アイコンには依頼元のブランドロゴを使用していて、公式のアカウントとは別のPR用アカウントのようでした。

 私のアカウントもよく見た上で依頼していただいたのを感じて嬉しく思いました。私自身も興味がある商品だったため、すぐに案件を受ける旨の返信をしたんです」

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PR詐欺
――“フォロワー数×2~5円”といった価格帯自体は、好条件すぎるというわけではないのでしょうか?

「私の場合、今回は“6か月契約でPRコンテンツ6本作成”といった条件で報酬70万円を提示していただきました。好条件すぎるというわけではなく、よくある案件といったイメージでした。なにより依頼元の方のメッセージの文章がとても丁寧で、本当に良い印象だったんです」

インスタDMで“PR案件”を受けた女性が「これ詐欺だ」と気づいた瞬間とは。あえて乗っかってみた“興味深い結末”
PR詐欺
――この時点では、何も違和感はなかったのですか?

「やり取りもとても丁寧でスムーズで、詐欺のニュースでよく見るような“メールの文章がおかしい”といったこともなく、違和感は全く覚えませんでした。
しかしその後、電子契約書での契約も済ませたあとに、ある違和感に気づきました……」

やり取り途中で覚えた「2つの違和感」

インスタDMで“PR案件”を受けた女性が「これ詐欺だ」と気づいた瞬間とは。あえて乗っかってみた“興味深い結末”
PR詐欺
――契約後のやり取りについて教えてください。

「まず契約後に別のサイトに誘導され、先方が報酬をそのサイトに振り込んだのちに、私が自分でそのサイトを通じて出金申請をする、というシステムに違和感を覚えました。

 さらに、6か月契約で約70万円の報酬を、前払いで一括振り込みだということにも驚きました。これまで受けてきた案件は、こちらがSNSで投稿したのを確認したのちに報酬が振り込まれていたため、『これは詐欺かもしれない』とこの時感じたんです。

 ですがここで、興味本位で『この詐欺に乗ってみたらどんな手口でお金を取ろうとしてくるのか知りたい』と思い、気づかないふりをして乗ってみることにしました」

インスタDMで“PR案件”を受けた女性が「これ詐欺だ」と気づいた瞬間とは。あえて乗っかってみた“興味深い結末”
PR詐欺
――投稿前に70万円前払いの一括振り込みは確かに怪しいですね。

「これまでにないケースだったので詐欺だろうと思ったのですが、2~5時間以内に即口座に振り込まれるということで、指示された通り誘導されたサイト内で出金申請ボタンを押してみることにしたんです。」

口座が“凍結”されていて出金できない?!

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PR詐欺
――ボタンを押して、70万円は振り込まれたのでしょうか?

「ボタンを押した瞬間に、画面上に『口座残高:0円、凍結:705,000円』と表示され、お金が振り込まれることはありませんでした。

 まだ商品も手元にないのにお金が振り込まれるほうが怖いので、『こういう手口かぁ』くらいにしか思わなかったのですが、その後、凍結していることを依頼元に伝えてみることにしました」

インスタDMで“PR案件”を受けた女性が「これ詐欺だ」と気づいた瞬間とは。あえて乗っかってみた“興味深い結末”
PR詐欺
――依頼元の反応はどうだったのですか?

「凍結されている事実を伝えると、依頼元は『凍結されているとのこと、大変驚きました』『初めての状況で、とても心配です!』という反応でした。そして、すでに報酬の支払いを完了しているので、オンラインサポートに凍結の原因を確認するよう言われました。

『そのサイト上でトラブルがあったのかもしれない』と言いたかったのだと思います。私としては、最初からこういったシナリオだったのではないかと思ったんですけどね」

凍結解除のために、35万円振り込んでください

インスタDMで“PR案件”を受けた女性が「これ詐欺だ」と気づいた瞬間とは。あえて乗っかってみた“興味深い結末”
PR詐欺
「依頼元の方にオンラインサポートに連絡するよう言われたので、誘導されたサイトのオンラインサポートに連絡をし、凍結の解除をお願いしました。すると、本人確認のために報酬として振り込んでいただいた70万円の50%を、私名義の口座から指定された口座に振り込むよう言われました。そうすることで凍結が解除され、振り込んだお金も即時に返金されるということでした。

 依頼元が詐欺の手口としてこのシステムを使って“凍結”させ、お金を振り込ませる手口なんだと分かりましたが、依頼元は現状では70万円振り込んでいる被害者のような立場なので、詐欺とは思いつつも“依頼元も私と同じ被害者”として接してみようと思ったんです」

インスタDMで“PR案件”を受けた女性が「これ詐欺だ」と気づいた瞬間とは。あえて乗っかってみた“興味深い結末”
PR詐欺
――依頼元の方も被害者のような立場であやねさんに接してきていたのでしょうか?

「この時点では、依頼元は70万円の詐欺に遭った被害者。そして私は報酬が受け取れず、お金を振り込むように言われているといった状況です。先方も被害者ではありますが、なぜか『長期的に契約させていただいているプラットホームなのでご安心ください』と何度も言われ、法務部門を介入させ適切に処理すると言われたことで、怪しさが増しました。


 私は次の被害者が出ないように念のためサイバー警察に連絡を入れて、誘導された振込サイトをブラックリストに入れてもらいました。電話をしながら振込用のサイトを再度確認すると、サイトの名前が変更されていることが分かりました。振込サイトの運営元を調べて電話してみると、証券会社のオペレーターにつながったので、怪しいですよね」

調べて分かった“詐欺の実態”

――色々調べた結果、詐欺だと断定したタイミングは?

「まず、そのアカウントが名乗っていたスキンケアブランドに直接連絡を取ってみました。すると、そのブランドは現在PR案件を実施しておらず、なりすましアカウントを作って同じ手口での詐欺報告があることを知りました。

 やりとりをしていたPR用のアカウントはブランドとは一切関係なく、この時にはっきりと詐欺だったことが分かりました。そしてその後、依頼元の詐欺アカウントには、ネット調査会社と法務局、警察に相談していると連絡をしてみました」

インスタDMで“PR案件”を受けた女性が「これ詐欺だ」と気づいた瞬間とは。あえて乗っかってみた“興味深い結末”
PR詐欺
「“お互い困っている”体(てい)で連絡するも、その後依頼元のアカウントからの連絡は途絶え、アカウント自体が削除されているのを確認しました。同様の手口の詐欺DMが来て実際に被害に遭った友人もいるので、これ以上被害者が出ないことを祈るばかりです」

SNSを使うすべての人が狙われる可能性

 こうした“案件詐欺”は、SNSを使うすべての人が被害に遭う可能性があります。「インフルエンサーじゃないから関係ない」と思っていても、「副業」や「リモートワーク」「お小遣い稼ぎ」といった言葉をきっかけに、同様の手口でだまされるケースが後を絶ちません。

 ブランドのロゴをアイコンに設定していたり、アカウントのフォロワーも少なくなかったりと、信じてしまいそうになるケースも。DMやメッセージで「うまい話」が届いたときは、疑うことを忘れず、一度立ち止まって相手の情報を確認する習慣を。ほんの少しの警戒心が、自分や大切な人を守る第一歩になるはずです。

<取材・文/鈴木風香>

【鈴木風香】
フリーライター・記者。ファッション・美容の専門学校を卒業後、アパレル企業にて勤務。
息子2人の出産を経てライターとして活動を開始。ママ目線での情報をお届け。Instagram:@yuyz.mama
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