髙石あかり主演の朝ドラ『ばけばけ』(NHK総合・毎週月~土あさ8時~ほか)の放送が始まったが、第2週まで見て、思わず見惚れる存在がいる。

 小泉八雲をモデルとするレフカダ・ヘブン(トミー・バストウ)の妻となる主人公・松野トキの遠戚にあたる名門の当主、雨清水傳役を演じる堤真一だ。
ディープな低音ボイス、ダイナミックな佇まい、そしてなで肩。本作は堤真一の魅力を丁寧にはめ込んでいる。

 男性俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、なで肩名優としての風情をたたえる堤真一を解説する。

堤真一に見惚れるための要素

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 今田美桜主演の前作『あんぱん』(NHK総合、2025年)を見終え、今回の朝ドラ『ばけばけ』主題歌「笑ったり転んだり」を聞くと、なかなかいい余韻だなと思う。ハンバート ハンバートによるなごやかな夫婦デュオ曲が、ゆったりした朝の空気感そのもの。たまにはこういうスローナンバーで始まる朝ドラもいい。

 SNS上では「朝ドラらしい雰囲気」というように、主題歌とオープニング映像に対する高評価コメントが散見される。主人公・松野トキ役を演じる髙石あかりの表現力はもちろん、松野家3世代の面々を岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世の芸達者で揃え、貧乏だが笑ってばかりいる団らんの様子にもほっこりする。

 笑っているといえば、トキの遠戚である雨清水傳(うしみず・でん)の堂々とした高笑いが印象的だ。

 第1週第2回で初登場する傳はふすまを開けて入ってくるなり、明治時代の風俗を代表する散切り頭で一堂を驚かせる。演じるのは、堤真一。本作はひたすら堤真一に見惚れるための要素が丁寧にはめ込まれている。

「へ」から「ふ」に切り替わる笑い声

 最大の要素として初登場場面からまず強調されるのが、ディープな低音ボイスの魅力。散切り頭に様変わりした傳は、「お、今日もやってるな」と豪快に言う。
名門の当主である格式ある響き。なおかつどこか人懐こい。

 堤真一の声は、包容力ある大きな身体に比例している。ダイナミックでディープなトーンが安心感を与える。さらにユーモアもある。散切り頭を照れくさそうになでる傳が低音から翻り、「へへっ」と高笑い。

 そうかと思えば、「フッハハハ」と深みある低音に戻る。笑い声一つとっても、この場面では、高音の「へ」から低音の「フ」に瞬時に切り替わり、堤特有の声の技法が視聴者の耳をくすぐる。

シンプルな動きを仕上げる佇まい

朝ドラ『ばけばけ』61歳俳優が“圧倒的に良い”ワケ。なで肩と低音ボイスに注目
NHK『あんぱん』© NHK
 包容力ある身体がどっしり支える佇まい自体も声と同様に魅力的な要素だ。時代は江戸から明治に変わった。松江随一の名門とはいえ、何かしら商売をしなければならない。そこで傳は織物業を始め、困窮する松野家からトキを雇い入れる。

 度々、工場の様子を見に来る傳が、長い通路をいったり来たりする。
一歩ごとに主人の風格を刻みながら、とにかくいったり来たりする。第2週第6回から第7回にかけて、ほとんどこの移動だけを繰り返している。

 雨清水傳役の威厳と風格、少しお茶目な雰囲気を醸す佇まいが、シンプルな動きをとびきり見惚れる要素に仕上げる。第7回では「ランデヴー」だと言ってトキを連れだす。ゴツゴツした石段を上がる場面で、引きの位置のカメラが、ここぞとばかりに堤の佇まいを際立たせる。

なで肩名優としての風情

 石段を上がる引きの画面ではもう一つ目を引くものがあった。カメラがハイアングルで向けられていてもわかる、なだらかな肩のライン。堤真一は、なで肩の俳優なのだ。

 ただのなで肩俳優ではない。なで肩は、スーツなどの洋装より、俄然、和装でくっきり浮きでる。そのしなやかなラインは、たとえば、東映任侠映画で活躍した大スター、鶴田浩二のなで肩にも比肩すべきものだろう。

 同回、トキのお見合い場面で両家の仲人役を引き受ける傳をカメラが画面中央に捉える。
ものすごくなで肩。ディープな声色を持ち、ダイナミックな佇まいを備えた魅力を丁寧にはめ込みながら、本作の堤真一はなで肩名優としての風情を湛えていている。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修
俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu
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