今期の連続テレビ小説『ばけばけ』(NHK総合)主人公・松野トキ(髙石あかり)のお見合い相手・銀二郎が、借金を抱える松野家に婿入りした。

 演じるのは、寛一郎。
父は佐藤浩市。祖父は三國連太郎。サラブレッド俳優の朝ドラ登場にネット上がわいた。

 男性俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、本作の寛一郎を解説する。

寛一郎の横顔が素晴らしい

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 髙石あかり主演の連続テレビ小説『ばけばけ』第2週第9回、主人公・松野トキが再度お見合いに挑戦する。江戸から明治になったばかりのお見合いは、格式張っていて嫁側にとって心地がいいものではない。

 ところが、婿候補の銀二郎(寛一郎)は、トキと同じ大の怪談好きとあって、お互いの緊張が自然とほぐれる相手だった。とはいえ初対面の瞬間は前回のお見合い同様にガチガチになるトキ。人数分のお茶をお盆に乗せて運ぼうとするが、対面する部屋の前で硬直してなかなか中に入れない。

 銀二郎の方もどうやら緊張している様子。室内に据えられたカメラが、ピントが合っていない銀二郎を前景に捉え、後景に動けないで座っているトキの影が襖に写る。襖が開く。入り口に座るトキと目が合う銀二郎。
伏し目がちで頭を下げ、横を向いてしまう。カメラがじっくり捉える寛一郎の横顔が素晴らしい。

白目を動かすことで性格を表現

 第10回冒頭、お見合いの席の卓上にトキがお茶を置く。そして固まる。場も固まる。ポン。と、ししおどしの音。研ぎ澄まされた一音を呼び水として、銀二郎が「あのぉ」と恐る恐る言う。その場の誰もがトキの言葉を待つ。

 銀二郎はまた伏し目がちになるが、少し間を置いて斜め上、トキのほうへもう一度視線をやる。このとき、パッと白目が動く。お見合いで一目見ただけの相手と結婚するのが怖いと告白するトキの言葉に真剣に耳を傾ける。

 トキの言葉を目で聞いているようにも見える。
それくらい銀二郎の目と視線の動きは真剣そのもの。寛一郎は銀二郎という人物の誠実で真面目な性格を本能的に白目を動かすことで即座に表現している。

名優二人による贅沢な読み聞かせ時間

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連続テレビ小説『ばけばけ』©︎NHK
 松野家が抱える多額の借金を返済するため、銀二郎は身を粉にして働く。借金をこさえた張本人であるトキの父・司之介(岡部たかし)は銀二郎を盛んに「婿殿」と呼ぶが、借金取りからは「馬車馬殿」というあだ名でからかわれる。

 自分は馬車馬になって働くために婿入りしたのか。何だかなぁと少しは思ったかもしれないが、銀二郎は懸命に働き、松野家を支え、妻であるトキにも優しい。みんなが寝静まった夜な夜な、銀二郎はトキに怪談を聞かせる。

 優しい婿殿の読み聞かせ時間。そういえば、寛一郎が小学校を卒業する謝恩会で、祖父・三國連太郎と父・佐藤浩市が朗読劇を披露したらしい。名優二人による何と贅沢な読み聞かせ時間なのだろう。

所属事務所ユマニテの戦略

 SNS上でも「お父さんに似てきた」といったコメントがたくさんある。確かに目鼻立ちは佐藤浩市、顔形は三國連太郎の面影がある。寛一郎は父と祖父のハイブリッドである。
第3週第12回にそれを強く思わせる場面がある。

 トキの祖父・勘右衛門(小日向文世)に武道の稽古をつけてもらった銀二郎が、水辺に座り込んでいる。眉間に皺を寄せる表情は佐藤浩市っぽい。そこへきたトキを見上げる笑顔には三國連太郎の色っぽい優男感が宿る。

 こうしたハイブリッドな魅力は、寛一郎の大きな強みではあるが、一方で彼独自の存在感をあぶり出すため、所属事務所ユマニテは戦略的に出演作を采配しているように思う。

 俳優デビューの翌年に出演した瀬々敬久監督作『菊とギロチン』(2018年)、北野武監督作『首』(2023年)、カンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞した『ナミビアの砂漠』(2024年)など、作家性が強い映画作品への出演を着実に重ねている。

 その上で今回の朝ドラ主人公の最初の相手役をベストなコンディションで演じている。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修
俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu
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