<しんどかったら、あきらめておどろ?>

 こんなメッセージではじまるエッセイ、『今日も、ちゃ舞台の上でおどる』(講談社、2025年8月)。俳優の坂口涼太郎さん(35)による初エッセイで、発売2ケ月余りで4刷が決定しているそうです。


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 最近の出演作だと、連ドラ『愛の、がっこう。』(2025年7月期、フジテレビ系)で、SnowManラウールさん演じる「カヲル」の同僚、ホストの「竹千代」役が印象的でした。前髪ぱっつんで人情派キャラの竹千代に、癒された人も多いのではないでしょうか。坂口さんはダンサー、シンガーソングライター、歌人としても活動中です。

 軟体動物のようにしなやかで不思議な動き、能面っぽい和風顔ながら変化に富んだ表情、メイクとジェンダーレスなファッション。なかなか忘れがたい存在です。

「人生あきらめが大事」うっすらメイクの個性派男優35歳が説く“らめ活”って?癒される人が続出中
『今日も、ちゃ舞台の上でおどる』(著:坂口涼太郎)/講談社

人生あきらめが大切。「らめ活」のすすめ

 エッセイは“お涼”(坂口さん)の日常がつづられています。エッセイを書くための部屋を探す中で、40万円の初期費用プラス引っ越し費用に愕然とするお涼さん。<あ、お金ないやん>という現実に気づいて元の部屋に戻れば、実はそこが大好きだったと気づくのです。

 ほしい幸せは、案外近くにありました。

<自分の性格や経済力や現実にも目を向けて、今ある環境と状態を明らかにして、手の届かない憧れをちゃんと諦めて、工夫して生活していこう。
>(同書より、以下同)

なんとまあ、潔くて真摯な言葉。

<私はこれを『あきらめ活動』略して『らめ活』と呼ぶことをここに宣言いたします。>

 ちなみに「あきらめる」とは、仏教用語では「明らめる=あきらかに観る」こと。

 坂口さんが名づけた「らめ活」は、響きもキラキラとラメが舞っていそうできれいです。あきらめるのは一見ネガティブだけど、裏返せば極上なポジティブになるのです。

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『今日も、ちゃ舞台の上でおどる』(著:坂口涼太郎)/講談社

『ちはやふる』に起用される前の、くすぶり期

 10年前、俳優としてデビューして4年たつのに鳴かず飛ばずだった坂口さん。くすぶっていた彼が京都の有名なお寺で願かけすると、約半年後にオーディションの話が舞い込み、瞬く間に決定。それが、ブレイクのきっかけとなった映画シリーズ『ちはやふる』(2016~2018年)の「ヒョロくん」役でした(この役も前髪ぱっつんでしたね)。

 普通ならここで、神頼みサイコー!となりそうですが、坂口さんの思考には絶妙なドライブがかかります。

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『今日も、ちゃ舞台の上でおどる』(著:坂口涼太郎)/講談社
<参拝して願ったから現実になった。願わなければ叶わなかった。ほんならこれから願ったことが叶わなくなったら、そこに参拝して願わなかったからだ>と、いまひとつ神様を信頼していない様子。

さらに<ど厚かましくも大いなる力に対して依存してしまいたくなるような、これこそ他力本願という状態なのではないかと思ってしまうような危うさを感じて、私は『もう神頼みはやめよう』と決めた>そうです。


 そして、自分を監視するコーチ兼相棒として坂口さんが選んだのが、だるまです。5年前に横浜の弘明寺で一目惚れしたというだるまを部屋に置き、片方の目を黒目にして<もう片方のおめめが開眼するその日まで、じっとこちらを見据えていただく>。

怠けそうな時も、くじけそうな時も、じっと目を凝らして見つめてくるだるまに励まされながら。

<あと何度自分に『ありがとう』と祈ったら、そのだるまさんのもう片方のおめめも黒くなるのか。それまで私は祈り続けたいと思います>

この心意気に、私も思わずだるまを買いに走りたくなりました。

アトピーやニキビ面で悩んだことも

 新型ウイルスが流行し、世界全体が活動休止になった2020年。<親の脛かじり虫>だった坂口さんは、ひとり暮らしをはじめます。

 家族から独立して、誰もが最初にぶつかるのが自炊じゃないでしょうか。坂口さんもそのひとり。外食ばかりしていられないと、料理に挑戦するのですが。

 超簡単だと高をくくったキャロットラペで、学んだのは無償の愛。なぜキャロットラペが愛の気づきに変換されるのか、おかしくも泣けるエピソードはぜひ、本書で堪能してほしいです。

 その他、かつてアトピーとニキビ面で悩んだこと、少し前まで困窮生活をしていたこと、自虐のどん底期、2022年頃に「このままでは死ぬ」と言われて緊急入院したことなども、ユーモラスに綴られています。


「人生あきらめが大事」うっすらメイクの個性派男優35歳が説く“らめ活”って?癒される人が続出中
『今日も、ちゃ舞台の上でおどる』(著:坂口涼太郎)/講談社

いま生きているという偶然を全力でおもしろがる

 世の中には、才能あふれる人、存在するだけで光り輝く人、生まれながらに裕福な人、さまざまいて、比較したらきりがないほどです。落ち込んだり、浮上したりを、ただ繰り返せば溺れてしまうだけ。

泣いても笑っても、人生は一度きりです。
<せっかくの一回やから、天国も地獄も行ったほうが得やん。>

 すべての経験を糧にして、自分だけの舞台、ちゃ舞台の上でおどるのです。本書に綴られたたくさんのメッセージは、独特の個性を持った坂口さんだからこその、生きる知恵に思えてきます。

「人生あきらめが大事」うっすらメイクの個性派男優35歳が説く“らめ活”って?癒される人が続出中
『今日も、ちゃ舞台の上でおどる』(著:坂口涼太郎)/講談社
<私は永遠を『らめ活』して、いま生きているという偶然を全力でおもしろがり、またなんてないことを肝に銘じて、お涼ハウスのちゃぶ台の上に『お涼理』を並べながら粛々と生活していこうと思う。>

 息切れしそうな日常で、自分だけのおどり方を見つけていく。ネガティブをポジティブに変える秘訣が、本書には詰まっています。

<文/森美樹>

【森美樹】
小説家、タロット占い師。第12回「R-18文学賞」読者賞受賞。同作を含む『主婦病』(新潮社)、『私の裸』、『母親病』(新潮社)、『神様たち』(光文社)、『わたしのいけない世界』(祥伝社)を上梓。
東京タワーにてタロット占い鑑定を行っている。X:@morimikixxx
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