秋ドラマが続々と始まり、さまざまな役者が個性的な演技を披露しているが、『ぼくたちん家』(日本テレビ系、日曜よる10時30分~)に出演中の手越祐也も存在感を発揮している。

「何されても許せちゃう…」37歳なのにあどけなさ爆発!バラエ...の画像はこちら >>
 本作は、ゲイの動物飼育員・玄一(及川光博)と、母親が失踪中で玄一と同じアパート「井の頭アパート」で暮らす謎多き中学3年生・ほたる(白鳥玉季)、そしてほたるの担任を務めるゲイの中学教師・索(手越祐也)の奇妙な共同生活を描いたヒューマンドラマだ。


車中泊する、ホームレス中学教師

 索は、演じる手越本人(37歳)とほぼ同い年の38歳という設定。もともと同棲していた恋人と別れたことをきっかけに車中泊を始め、玄一の働きかけもあって「井の頭アパート」の敷地内に車を停めて寝泊まりするようになる。

 正直、中学校教師が車中泊しているというのは、保護者からすれば衝撃的な事実だ。今のところ、“ホームレス中学教師”である事実を保護者に知られている様子はないが、ばれたら「担任を変えてください!」というクレームが入ってもおかしくはない。

どう見ても怪しい“親子”を疑わない、索という男

 また、ほたるの母親・もえ(麻生久美子)は会社のお金を横領して失踪しており、離婚した父親・市ヶ谷仁(光石研)も再婚して別の家庭を持つ。そのためほたるは、母親の帰りを1人で待つことを選択している。

 もえが残したお金があるため、ひもじい思いをすることはないが、中学生が親のいない状態で平穏に生活するのは難しい。そこで、もえは玄一に父親代わりを演じてもらうように頼み込み、玄一は渋々受諾する。

 その後、玄一とほたるは索との三者面談に臨むが、急ごしらえの親子のため明らかに2人の態度が怪しい。にもかかわらず、索は違和感こそ覚えるものの、2人が親子であることを疑わない。

 さらには、ほたるの父親として玄一が学校に呼び出され、警察官・松梅子(土居志央梨)からほたるの生活状況を確認されるのだが、その際にも玄一は終始しどろもどろ。その場に索も同席していたが、やはり不自然さを感じながらも、父親であることを信じていた。

「も~仕方ないな~」と言わせる手越祐也の可愛さ

 年齢的にも職業的にも、しっかりとした大人でいてほしいが、このように索はかなり抜けている。「こんなんで教員採用試験に受かるのか?」とリアリティのなさすら感じるが、どうしてか索に厳しい視線を向ける気は起きない。

 それは、手越が放つ独自の可愛さとポップさが影響しており、玄一とほたるの“ニセ家族”を見抜けなくても「も~仕方ないな~」と許せてしまうからだ。


 やはり手越と言えばバラエティ番組の印象が強い。これまで数々の“手越語録”を残し、中にはナルシシズムに満ちたものも少なくない。ただ、それらに目くじらを立て批判する人はいない。それは、手越祐也という人間性が周囲を受け入れらさせる力を持っているからだ。本作にもおいてもそのカリスマ性により、索の天然さを受容させられているのだろう。

役者としてのポテンシャルを見せつける

 また、“役者・手越”として強く記憶に残っているキャラとして、2006年放送のドラマ『マイ☆ボス マイ☆ヒーロー』(日本テレビ系)で演じた桜小路順が挙げられる。順は初々しさ全開の高校生役だったが、索にも順のような可愛さが重なる。ただ、決して“ぶりっ子をしている痛いアラフォー”という雰囲気ではない。

 本作のストーリー上、ほたるの担任教師はある程度天然でなければいけない。しかし、天然すぎると作品のノイズになる。視聴者に違和感を覚えさせず、高校生のようなピュアさを持った大人、つまり“あどけないアラフォー”を演じきっているところは驚きだ。バラエティタレントとしてだけではなく、役者としてのポテンシャルをここに来て見せつけている。

ストーリーで“モヤっとする点”がありつつも

 本作のストーリーについても触れておきたい。第1話序盤、公園のベンチのぐらつきに困る玄一に、索は元恋人と記した婚姻届を渡して、ベンチの隙間にかませるように提案するシーンがある。


 索がゲイであることを玄一に知らせるための展開のように思う。ただ、索にとっては無価値な紙切れなのかもしれないが、婚姻届を見ず知らずの人間に気軽に渡すものなのか。

 また、同じく第1話序盤で、玄一はパートナー相談所に足を運び、カウンセラーの百瀬まどか(渋谷凪咲)から説明を受ける。その際、登録者のプロフィール写真を見せられるが、顔にモザイクがかかっていることに違和感を示す。その後、索と2人で話しているとき、「(モザイクは)すごくありがたいんですけどね、何ていうか、結局俺たちっていない者にされて、隠されて、そういうふうに生きていくしかないのかなって」と語る。

 セクシュアルマイノリティが“いない者”にされていることへの切なさを吐露する胸に刺さるシーンではあるが、まどかは「詳細情報は基本的に入会後にお見せすることになっているので」と説明している。決してセクシュアルマイノリティを“いない者”にしているわけではなく、ただの配慮ではないか。

 もちろん、そういった細かいことにも迫害を受けたように感じるほど、世間との隔たりを覚えている部分を描きたかったのかもしれない。ただ、「すごくありがたいんですけどね」というセリフを言わせたいがため、の展開にも感じた。

及川光博のフィット感、白鳥玉季の光る演技

 現時点では正直、モヤっとする部分も少なくない。ただ、手越の可愛らしさに加え、不器用ではあるが根っからの善人である玄一の姿は不快感がなく、及川のフィット感が心地良い。

 小生意気でありながらどこか放っておけない少女を演じる白鳥の演技力もドラマ『いちばんすきな花』(フジテレビ系)や『水平線のうた』(NHK総合)などと同様に相変わらず光っており、メインキャストの演技には安定感がある。


 今後、どのようにストーリーが展開していくのか期待したい。

<文/望月悠木>

【望月悠木】
フリーライター。社会問題やエンタメ、グルメなど幅広い記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。X(旧Twitter):@mochizukiyuuki
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