新卒から18年半、テレビ朝日のアナウンサーとして、報道、スポーツ、バラエティなど多岐にわたる番組を担当してきた大木優紀さん(44歳)。

小学校受験で元テレ朝アナが体験した“3つのホラー”…「あの頃...の画像はこちら >>
 40歳を超えてから、スタートアップ企業である「令和トラベル」に転職。
現在は、令和トラベルが運営する旅行アプリ「NEWT(ニュート)」の広報、まさに「会社の顔」として活躍中です。

 第20回となる今回は、大木さんが経験した、小学校受験のリアルと3つのホラーについて綴ります(以下、大木さんの寄稿)。

「ネイビーの親子」を見ると思い出す、小学校受験の記憶

 すっかり秋めいてきたこの季節、東京の都心部はこの季節になると、ある特定の装いをした親子の姿が増えてきます。

 そう、「ネイビーの親子」。

 ビジネススーツとは少し違う濃紺のスーツに身を包んだお母様やお父様。そして、可愛らしいネイビーや濃いグレーのワンピースを着たお子様。

 そんな親子を街で見かけること、ありませんか? それが「お受験シーズン」の訪れを告げる風物詩です。

 風が少し冷たくなり始める季節になると、ふとあの頃を思い出します。今日はそんな、我が家の「小学校受験体験」についてお話ししてみようと思います。

小学校受験の広がりと、受験を選ばない“3つの層”

 小学校受験、いわゆる「私立小学校を受験する親子」というのは、全国的に見るとほんの一握り。一部の都市部に限られた世界かもしれません。

 でも、私自身もその中に身を置いてしまったからこそ、そこに潜む「怖さ」や「プレッシャー」のようなものを感じました。

 ここ数年、小学校受験は以前よりも広がりを見せているように思います。最近は「子どもに合った教育環境を」という想いから、「受験」という選択を取る家庭がひと昔前より増えている印象です。


 背景には、少子化によってひとり当たりにかけられる教育費が上がったことも関係しているのかもしれません。早くから教育の選択肢を広げようとする親が増えているように感じます。

 その一方で、あえて小学校受験を選ばない層も確実に存在しています。これはあくまで私の分析結果の持論ですが、私はこの「受験を選ばない層」は大きく3つあると考えています。

 ひとつめは、「東大層」。

 ご両親が東大出身などで、最終的に日本の最高峰を目指すなら、大学受験が必要。それなら、結局大学受験が勝負なのだから、小学校で私立に入れる意味は? という考えを持っている家庭です。

 ふたつめは、「医学部層」。

 一部、医者家庭に人気があり、医学部受験者が多い学校もあるにはありますが、医学部まで内部進学できる私立校は限られています。そのため、どこかの段階で受験をすることを前提にして、小学校受験に大きな価値を感じない層です。

 そして最後は、「スーパー富裕層」。

 この層の多くは「教育はグローバルに」という考え方を持っていて、インターナショナルスクールや海外教育を視野に入れている家庭が多いように思います。


 これはあくまで私見です。この3層のあえて受験を選ばない層がいて、それ以外の層では割と広がりを見せている。それが今の小学校受験の勢力図なんじゃないかなと思っています。

 ……というように、興味を持っている層が確実に増えているようにも感じていますので、今日は、今から6年前と4年前のことになりますが、親として子どもの小学校受験を実際に経験した私が、あえてそこでの経験を「ホラー」と表現してリストアップしてみようと思います。

小学校受験のホラー①:「みんな」という存在

小学校受験で元テレ朝アナが体験した“3つのホラー”…「あの頃の私は少し異常だった」と言えるワケ
※イメージです
 まずひとつ目のホラーは、「みんな」という得体の知れない存在です。この「みんな」という名の実体のない幽霊のような存在が、一番母親を追い詰める存在なんです。

 お受験戦争真っ只中にいると、もう本当によく耳にするんですが、「みんなはもう毎日3時間ペーパーをやってるらしい」とか「みんな夏休みは隙間なく夏期講習に行ってるらしい」とか、「みんな個人の先生プラス大手塾の掛け持ちをしている」とか。

 そんな「みんな」情報が飛び交っています。

 さらに驚いたのは、ある特定の小学校を受験する子向けのキッズ美容院があり、「◯◯小学校受験する子は、みんなそこに行っている」と言われるほどに。

 さすがにそのときは、「そんな“みんな”っていないんじゃない?」と思ってはいました。でも結局、私自身もその「みんな」という言葉に負けて、今となっては必要なかったと思うような講座を受講させたり、同じようなお絵描きをやたらやらせてしまったり。

 今振り返ると、あの頃の私は少し異常でした。けれど、「みんな」という見えない圧力に踊らされ、どこにもいない「みんな」の幻影を追っていたのが、まさに「お受験戦争」の現実だったのです。


小学校受験ホラー②:「行動観察」という謎の科目

 ふたつ目のホラーは「行動観察」という謎の科目です。おそらく、小学校受験を経験したことがない方にとっては、「え、なにそれ?」という感じかもしれません。小学校受験には、筆記試験や面接、体操などのわかりやすい科目のほかに、「行動観察」という名の試験があります。

 この科目をわかりやすく言うと、数人のグループに分けられた子どもたちが自由に遊ぶ様子を、先生が観察して採点するというもの。そこで見られるのは、指示を聞く力や、友達と協力する姿勢、我慢する力、リーダーシップなど、いわゆる「非認知能力」と呼ばれる部分です。

 ……と、ここまで聞くと「いい試験じゃない?」と思うかもしれません。実際に、その子の本質を見極める方法として、実施する学校も増えているそうです。でも、行きすぎた「訓練」の世界を目の当たりにすると、ちょっとホラーなんです。

 例えば、昔話の絵を描くというお題がだされると、どこからともなく訓練された子どもが「桃太郎がいいんじゃない?」と言い出して。すると、もうひとりの子が「浦島太郎がいいんじゃない? だって海の生物がたくさん出てくるから」ってまるで演劇のセリフみたいに言うんです。

 そうすると周りの子が「いいね、そうだね」って賛同する。もちろんそれも練習しているから「そうだね」って言えるんです。

 さらに驚くのはその後。
最初に「桃太郎」と言った子が、みんなが賛同した瞬間に、「僕もいいと思う。譲るよー!」って言うんです。

 ……譲るよ?

 就学前の子どもがそんなセリフ、自然には言わないですよね。幼児教室の参観でその光景を見たとき、私はさすがに「ホラーだ」と思いました。
 本来、この「行動観察」という科目の目的は、子どもが持つ「その子らしさ」を見極めること。けれど、親たちはそこを逆手にとって、「いい子」に見えるための演技を、徹底的に訓練してしまう。

「えっ?」とは思っていても、私もやっちゃっていたんですよ。

「あそこは譲りなさい」とか、「自分の意見を言うときはコンパクトにわかりやすく言いなさい」とか。アナウンサーをしていた当時、コンパクトにわかりやすく言うことなんて自分自身もできないのに、あれは完全に親の性(さが)でした。

 あの行動観察という名のホラーは、今思い出しても少しぞっとします。

小学校受験ホラー③:我が子にバツがつくという現実

小学校受験で元テレ朝アナが体験した“3つのホラー”…「あの頃の私は少し異常だった」と言えるワケ
大木さんの2人の子ども
 そして、3つ目。これが、私にとって最大にして、いちばんリアルなホラーです。それは、「我が子にバツがつく」というホラー。


 初めて「我が子」と呼べる存在を腕に抱いたとき、この世にこんなに愛おしいものがあるのかと心から思いました。

 これまで、唯一無二の存在として、まさにオンリーワンのかけがえのない存在として大事に育ててきた我が子。それが、お受験で初めて自分の子に順位とかマルバツ、合否がつくんですよね。

 その残酷さにはじめは耐えられないと思いました。唯一無二だった我が子が他人の子と比べられて、優劣をつけられるなんて。我が子の可能性にバツをつけられてしまうような気がして母親として、どうしても耐えられない。

 でも一方でどこかでわかっているんですよね。この受験は子どものためというよりも、親の自己満足の受験に子どもを巻き込んでしまっている。

 その負い目があるからこそ、余計に「バツをつけちゃいけない」と思ってしまう。この強烈な親の心理こそが、一つ目や二つ目のホラーをさらに増幅させていたのかもしれません。

 私自身も冷静でいられなかったように、小学校受験というものには一度そのレールに乗ってしまった親の我を忘れさせてしまうところがあるなと、今になって感じます。

そして、ハワイで始まる家族のこれから

小学校受験で元テレ朝アナが体験した“3つのホラー”…「あの頃の私は少し異常だった」と言えるワケ
大木優紀
 とまあ、大変なことも多かった小学校受験ですが、今振り返ってみると、親子で、家族で過ごした本当に濃密な時間だったなと思います。


 受験には、家族での体験を絵に描くような課題もありました。そのために果物狩りに行ったり、海や山に出かけたり。「受験のため」ではあったものの、あの時間の中でたくさんの思い出を作ることができました。あの時間は間違いなく、家族の宝物です。

 我が家の場合、最終的にはふたりとも私立の小学校に入学しました。けれど、親が勝手に乗せたエスカレーターではないか。そう自問自答した時期もありました。

 そして結局今回のハワイ移住(2025年10月、出向に伴い家族でハワイに引っ越しました)に伴い、エスカレーターに乗せたはずだった娘を日本の私立学校から退学させ、自らの手で降りるという大きな決断もしました。本当にこれが親としての責任の取り方として正しかったのかどうかというのは、今はまだわかりません。

 でも、たとえ道を変えたとしても、娘が「自分の人生が楽しい道のりだった」と将来言ってもらえるよう、ハワイで新しい家族の景色を楽しみ、切り開いていきたいと思っています。

 小学校受験という、あのネイビーに包まれた日々。あの頃は我を忘れて夢中に走っていたけれど、今はまったく違う風の中にいます。

 ハワイの海を見ながら、あの日々の、全然違う結末や未来があるんだなと、そんなふうに思ったことを今日は振り返ってみました。

<文/大木優紀>

【大木優紀】
1980年生まれ。2003年にテレビ朝日に入社し、アナウンサーとして報道情報、スポーツ、バラエティーと幅広く担当。21年末に退社し、令和トラベルに転職。旅行アプリ『NEWT(ニュート)』のPRに奮闘中。2児の母
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