元恋人たちの恋愛ドキュメント『ラブ トランジット』シーズン3が10月16日からAmazonPrimeで配信開始され、変わらずの人気で話題になっています。

AmazonPrimeでは、他に『バチェラー』『バチェロレッテ』シリーズ、ABEMAでは『今日、好きになりました。
』、Netflixでは『あいの里』……など、恋愛リアリティ番組が隆盛を極めている配信業界。

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地上波でも、『マツコの知らない世界』(TBS系)や『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)での婚活密着が放送されるたびにSNSのトレンドをにぎわせ、このことからもリアルな恋愛ドキュメントものは老若男女問わず視聴者の関心をよぶコンテンツであることが垣間見えます。

そんな新しい恋愛密着番組が人気となる一方で、かつて存在した“ガチの素人参加型の婚活番組”は久しく放映されていません。

ガチ素人の婚活番組はなぜ消えた?

以前、高視聴率を獲得していたとんねるず司会の『ねるとん紅鯨団』(フジテレビ系)は一大ブームを巻き起こし、その後も婚活番組『沼島の春よ再び!』や『ナイナイのお見合い大作戦!』(TBS系)などが人気を誇っていました。

なかでも、『ナイナイのお見合い大作戦!』は、放映のたびにSNSなどで話題となっており、「いつかは出てみたい」という男女も当時は多かったはずですが……。

人気だった『ナイナイのお見合い大作戦』が放送されなくなった理由。「恋リア」は好評なのに“ガチ素人の婚活番組”はなぜ消えた?
画像:「ナイナイのお見合い大作戦!」TBS公式サイト
この番組は、20代から50代までが幅広く参加し、本気で結婚を考えている多くの女性たちが全国各地から地方の町にやって来て、もてなしを受けながら、婚活パーティーさながらのお見合いが繰り広げられる人気特番でした。

参加者がガチの素人で、なおかつ本気度が高いだけあって、婚活のリアルがそこに凝縮されていました。

イケメンで結婚適齢期の男性には女性たちが群がり、人気のない高齢男性はあからさまに誰も集まらず、会場で暇を持て余して男同士で談笑して固まっていたりなど、そこには現実が可視化された残酷な光景がありました。

「結婚」が全てじゃない? 価値観の変化が与えた影響

なかでも、結婚を見据えたお見合いだからこその、気に入った男性の自宅に訪問するいわゆる“お宅訪問”のコーナーは一番の見もの。

高齢の母とたくさんのごちそうを用意したのに女性が誰も訪ねて来なかったり、せっかく前向きな女性がひとり来てくれたのに、もてなしがスーパーの小さなパック寿司のみという独居男性、一方、たくさんの訪問女性に囲まれて、シャンパンにイチゴを浮かべる地元の豪邸の男性……。

女性側も、何度も参加しているレギュラーメンバーもいたり、お互いバチバチな姉妹など、素人ならではの個性的な方々が多く、毎回見どころがあり、固定ファンも多くいた印象でした。

人気だった特番だったにもかかわらず、2019年から一切放映されなくなったのは、その後に発生したコロナ禍の影響もあるでしょうが、やはり価値観の多様化の影響は否めません。

『お見合い大作戦!』が放映されていた頃は、ギリギリまだ女性が男性の家に“嫁に行く”という価値観があり、その前提で番組を制作することができていました。しかし、今。
選択的夫婦別姓制度の議論も高まり、同性婚をはじめとする様々な愛の形が浸透し、ぐっと時代の意識が多様性を認めようという方向に変わってきました。

すなわち、従来の価値観に沿った、結婚をゴールとしたお見合い番組が地上波で放映されるのは支持を集めにくくなっている――嫁に行くために女性たちが田舎に乗り込み、男性に選ばれるのを待つ(回によっては例外もありますが)なんて、もってのほかです。希望者を集めることも難しいでしょう。

思えば、冒頭にあげた最近の人気恋愛リアリティ番組は、すべてが“見たい人が選んで見る”配信です。ゴールも結婚ではなく「結ばれる」ことです。中には「誰とも結ばれない、けどハッピー」という結論の番組もあります。

マチアプの一般化とネットで特定されるリスク

また、お見合いサービスやマッチングアプリが一般化してきたこともあげられます。アプリなどの出会いに抵抗がない男女が増え、テレビのお見合い番組に頼らずとも気軽に婚活できるようになったことも地上波お見合い番組が減った要因としてひとつあるでしょう。

人気だった『ナイナイのお見合い大作戦』が放送されなくなった理由。「恋リア」は好評なのに“ガチ素人の婚活番組”はなぜ消えた?
※写真はイメージです(以下すべて)
顔や名前、年齢、素性が全国にさらされることは、目立ちたいという意識の人でない限り抵抗感が強いものです。

しかも現在は、ネットなどで個人特定のリスクが高くなっています。結婚というライフイベントに真面目に向かおうとする姿が、テレビのフィルターを通して曲解され、炎上したりネットのおもちゃになってしまうこともあるでしょう。

まだネットの広まりが今ほどではなかった時代の『お見合い大作戦』でも、そんな事例が少なからずありました。

時代遅れ感のある、熱心な男女への“出演者イジリ”

もうひとつの理由としては、“出演者イジリ”中心の演出の時代遅れ感です。

婚活をテーマにした番組は、建前上は「結婚に向かう男女のリアルドキュメンタリー」「結婚を応援する」などという前向きなテーマであることが多いですが、結果的に、熱心に婚活する男女をバカにしたり、冷笑するエンタメになっている部分があります。


かつてテレビに出た素人の方々は、意図しないとりあげられ方をしても、直接抗議あるいは泣き寝入りするしかありませんでした。しかし、今ほどSNSやネットで広く自分の思いが表現できるようになり、少しでも制作者に不義理があると、広く拡散される時代になりました。

このように参加者側、制作側、双方にリスクが生じることが、新規の婚活番組制作に局側が及び腰となっている理由なのかもしれません。思えば『マツコの知らない世界』(TBS系)の婚活の世界に出演する婚活希望者は、番組内でも出演者が「エキストラ事務所に所属」旨の注釈があります。

最後に一回だけでも…復活を望むファン

人気だった『ナイナイのお見合い大作戦』が放送されなくなった理由。「恋リア」は好評なのに“ガチ素人の婚活番組”はなぜ消えた?
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「人が集まらない」そして「番組の演出や意図を納得してくれる」この2点をクリアするにはこうするしかないのでしょう。制作者側の苦労が察せられます。

めっきり少なくなった“ガチ素人の婚活番組”。時代の変化や風潮的に難しいのかもしれませんが、いちファンとして、例え最後の1回でもいいから、地上波で復活されることをひそかに願うのみです。

<文/小政りょう>

【小政りょう】
映画・テレビの制作会社等に出入りもするライター。趣味は陸上競技観戦
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