先日、スタートアップ支援やグローバル人材の育成、ベンチャー企業の海外ビジネス支援などを手がける企業「グローバルパートナーズ株式会社」の総務部が公開した動画が話題になりました。

動画では同社の社員と思われる30代くらいの男女が社内での飲み会でコールをしながら楽しそうに歌って踊っている様子が映されています。
10月23日時点で5000万PVを上回る閲覧数に達しています。なぜここまで拡散されたのでしょうか。

「ゾス飲み」動画が5000万回再生 社内ノリがネットで炎上

“社内でコール&ダンス”動画が大炎上──批判殺到の裏で好意的...の画像はこちら >>
話題となった動画は10月18日に公開されました。同社の表彰式で撮影されたものと見られ、一番奥にはコールの音頭を取っている山本康二社長の姿も確認できます。映っている人たちはみな笑顔で楽しそうに歌って踊り、コールの最後には「ゾス飲み~」と言いながら同じ決めポーズをしていました。

こうした飲み会でのコールやダンスは同社内では「ゾス飲み」と呼ばれ、お馴染みになっているそう。「ゾス」とは、気合を入れるための挨拶や上司への返事として使われている同社の合言葉で、山本社長が新卒で入社した光通信時代から使っていた言葉とのこと。

この動画が広まると、「こんなふうに飲み会で踊らされる会社入りたくない」「大学生みたいな内輪ノリと空気間は辛い」「なんか洗脳されてやりがい搾取させられてそう」「今の時代に合っていない」など批判の声が殺到。良くないことをしているわけでもないにも関わらず、ネガティブな意見とともにたくさんの人が自身の感想を公開し、その結果動画がさらに拡散されていきました。

“やりがい搾取”か“熱意の文化”か 分かれる世間の評価

“社内でコール&ダンス”動画が大炎上──批判殺到の裏で好意的な声も集まったワケ
画像はイメージです。
また、一部のユーザーが公開した同社の求人広告の内容には、さほど高くない年収や40時間を超えるみなし残業時間などが記載されていたことから、「成長、やりがい、仲間みたいな聞こえのいい言葉で社員をコキ使っているだけでは?」「こんな会社で絶対働きたくねぇ」という意見も散見されていました。

こうした企業風景は昭和の時代であれば珍しくなかったのかもしれません。しかし現代ではコンプライアンスやハラスメント防止、ワークライフバランスが重視されています。動画を見た人たちは「こんなハイテンションの同調圧力で飲み会やコールを強制するなんてブラック企業では?」という印象を強く持ったのも仕方ないでしょう。

ただし、動画に映る社員たちは嫌そうではなく、むしろ全員がノリノリで楽しんでいる姿が確認できます。


また同社社員や同社と仕事で携わったことがある人たちが揃いも揃って、今回批判している人たちに対して「私はここに入社して一切の後悔はありません!」「こういう場に何度か行ったことがあるけど強制はせず、ひとりひとりが積極的に盛り上がっていた」「みんな同じ熱量で同じベクトルに向かってる本当に良い会社」といったコメントを寄せていました。これにより、外部の批判的な反応と内部の反応の違いも明確に。

“ホワイト離職”時代にあえて“熱血指導”を貫く

“社内でコール&ダンス”動画が大炎上──批判殺到の裏で好意的な声も集まったワケ
画像:株式会社ジョイカルジャパン プレスリリースより(PRTIMES)
実際に山本社長はコンプライアンスやハラスメントを過剰に気にする企業の在り方に疑問を投げかけ、企業や個人の成長のために熱く厳しい指導を行っていることでも有名。本気でやる気のある若い社員に昭和気質のやり方を貫き、社員たちもそれを求めているのでモチベーション高く働いているのでしょう。実際に同社の離職率は低いことでも知られています。

近年、コンプライアンスやワークライフバランスが重要視される風潮の一方で、若者が逆に仕事のやりがいや目標を見出せずに離職してしまう現象、“ホワイト離職”という言葉が聞かれるようになっています。この現象の背景として、「働きやすいけれどホワイトすぎてつまらない」「この会社にいても成長できない」「上司からの指導もなく関係性が希薄で面白くない」といった理由が挙げられます。

こうした若者にとっては、同社のような社風の企業のほうが魅力的である可能性もあり、同社のやり方が時代に逆行しているようでむしろ令和の新しい働き方を提示しているとも言えるのではないでしょうか。

批判が逆に追い風に?話題動画が採用に効く理由

“社内でコール&ダンス”動画が大炎上──批判殺到の裏で好意的な声も集まったワケ
画像:株式会社ジョイカルジャパン プレスリリースより(PRTIMES)
また、この賛否を巻き起こした現象そのものも好意的に捉えられることがあります。今回の動画の公開によって社内の雰囲気を広く伝え、本当に同社で働きたい人を選別することが可能になったという意見がありました。

「ここに行きたい人だけが行くから採用の効率がいいし、離職率低下にも繋がるのは納得」「これにアンチコな人はグローバルパートナーズも採用したくないからブランディングとしても成功」「この会社のノリが嫌いな人が文句言いながら拡散してるけど、社員は皆この会社のこのノリが好きで入社してるからまた同じノリの優秀な社員が増える」といった肯定的なコメントも相次ぎ、企業戦略として成功していると見る向きもあります。

また批判的なポストが殺到してしまっても、それが決して自分の会社のマイナスにはなっていないことを社員の多くが自覚していることも印象的でした。社員の多くがアンチコメントをしている人とレスバトルするわけでも攻撃的な反論をするわけでもなく、あくまで「他人がどう思おうと自分はこの会社にいられて幸せ」というスタンスを貫いているのです。


「こんな会社で働きたくない」というアンチコメントが殺到した結果、大きく拡散された今回のゾス飲み動画。飲み会でコールをして士気を高める企業文化を公開し、「これはうちの会社のスタイルだから、来たい人だけ来てほしい」と明確にアピールすることで、入社後のミスマッチを防げる企業モデルと言えるのではないでしょうか。

<文/エタノール純子>

【エタノール純子】
編集プロダクション勤務を経てフリーライターに。エンタメ、女性にまつわる問題、育児などをテーマに、 各Webサイトで執筆中
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