みなさんこんにちは、ファッションスタイリスト&ライターの角佑宇子(すみゆうこ)です。2025年も残りわずか。
ファッション業界では、トレンドだけでなく“店と客の関係”そのものが問われた一年でした。なかでも象徴的だったのが、9月に渋谷109の人気ブランド「pium(ピウム)」が発表したカスタマーハラスメント声明文をめぐる炎上騒動です。

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 一見「店員を守るための正しい取り組み」とも思えるその発表が、なぜ多くの反発を呼んだのか――。そこには、アパレル業界全体が抱える“根深い構造”が透けて見えます。

 今回は、アパレルブランドだからこそ生まれる「勘違いカスハラ問題?!」について解説していきます。

義務化が決まったカスハラ対策、その効果はいかに?

 カスハラは2010年頃から徐々に注目された社会問題の一つで、顧客や取引先が従業員に対し、暴言をはじめとする不当な要求や迷惑行為を行うことを指します。SNSの普及により、一顧客の口コミがインターネット上で拡散され企業イメージを損なうなどの影響力を持ちはじめ、カスハラ問題はますます加速していきました。

 そして今年6月「労働施策総合推進法」が改正され、企業等にはカスハラ防止の対策や措置が義務付けられることが決まりました。施行はこれからですが、社内相談窓口やマニュアル整備など、早くも対応を進める企業が増えています。

 カスハラ対策は主に、従業員を対象とした相談窓口を設ける、カスハラに対するマニュアルを作成するなどの社内体制の見直しと、カスハラを受けた後の事実確認、顧客対応、アフターケアなどで、一貫して企業側が対応するよう求められています。

カスハラへの表明文が「逆カスハラだ!」と炎上

 今回問題となったのは、「pium」が9月28日にブランド公式X(旧Twitter)で表明した声明文です。「ブランドの利用に関するお願い」と題し、「このたび一部のお客様による過度な言動・要求につきまして、弊社スタッフや業務に重大な支障を及ぼすケースが確認されております」と表明。

アパレルの“感じの悪い接客”はブランディング? それとも逆カスハラ? ブランド炎上で見えた「90年代の負の遺産」
写真はイメージです(竹澤宏 - stock.adobe.com)
「度重なる執拗な要求や威嚇行為」「過度なサービスの要求 スタッフに対する暴言・侮辱的な発言」業務の正常な運営を妨げる行為」といった行為はカスタマーハラスメントに該当すると指摘し、これらの行為が確認された場合には「取引の停止に加え、悪質な場合は警察・弁護士等と連携し、法的措置を含めて厳正に対処いたします」と記しました。

 企業としてはあくまで、カスハラ対策の義務化に基づき、従業員を守るために必要な対策を行ったに過ぎないのですが、この声明文を受けたSNS上のネットユーザーやブランド利用者からは反論の声が相次ぎました。


そもそもスタッフの接客態度が悪すぎる」「見下されるような目つきで見られ、スタッフ同士でこそこそ話をされた」などの声が多数上がっており、「逆カスハラだ!」といった怒りの声で溢れ返っていました。

 この炎上を受けたpiumは声明文を発表したその2日後に、謝罪文を発表することとなったのです。筆者はこの一連の流れを受けて、これはpiumに限らず多くのアパレルブランドで、今後起こり得る問題だと危機感を覚えました。

一部の「カリスマ店員」が残した負の遺産

 そもそもですが、アパレルブランドはブランドコンセプトによっては、感じの悪い接客態度をされるケースが少なくありません。これはカスハラ問題が認識されはじめた2010年代よりも随分前から、水面下で広がっていた問題です。

アパレルの“感じの悪い接客”はブランディング? それとも逆カスハラ? ブランド炎上で見えた「90年代の負の遺産」
カリスマ店員
 なぜ他業種の販売・接客に比べて、アパレルブランドの販売・接客に態度が悪いスタッフがいるのか。それは、90年代頃に流行した「カリスマ店員」の影響が特に大きいのではないかと考えます。カリスマ店員といえば、そうです。1990年代ファッションの聖地である渋谷109から生まれましたね。

 当時、EGOISTという渋谷ギャルを代表するアパレルブランドで販売をしていたスタッフが、ファッション誌の特集で「カリスマ店員」と紹介されたことをきっかけに、その言葉が社会現象になるほど流行しました。

 当時のカリスマ店員は、ただの販売員にあらず。今でいうインフルエンサー的な存在でした。しかもSNSがなかった時代、その場に出向かなくては会えません。
狭い店内にファンが押し寄せ、スタッフが着たものが瞬く間に売れていくという、ファッション業界が異常なほど熱い時代でもあったのです。

「店が顧客を選ぶ」接客スタイルが目立つように

 身近に会えるちょっとしたアイドル的な存在となったアパレル販売員ですが、これをきっかけに一部で、アパレル販売員と顧客の立場が逆転。顧客が店を選ぶのではなく、店が顧客を選ぶような接客スタイルが数多くのアパレルブランドで目立っていくようになりました。

 ブランドの中には「Mサイズ以上のサイズ展開はしない」「スタイルやビジュアルが良くない客が来店すると上から下まで舐め回すような視線で見てくる」といった、意地悪な接客にもつながってしまいました。

 当然すべてのブランドがそうだとは言いませんが、1990年~2010年代に青春時代を送っていた筆者にも、アパレル販売員から冷ややかな視線を送られた経験は何度かあるので、今回のpiumの接客態度が悪いという意見に対してすぐさま否定する気にはなれませんでした。

意識を変えてきたブランドと、そうでないブランド

 もちろん、そんな上から目線な接客をするアパレルブランドばかりではありません。顧客に寄り添う接客をし続けるブランドも多数あります。そうしたブランドは時代とともに消費者ニーズを敏感にキャッチし、販売戦略もブランドコンセプトの方針も、接客スタイルも少しずつ舵取りをしています。

アパレルの“感じの悪い接客”はブランディング? それとも逆カスハラ? ブランド炎上で見えた「90年代の負の遺産」
ブランドのショップ店員
 その一方で、「うちのブランドは顧客に媚びない。ここの服を着るならば、もっと外見やおしゃれのスキルを上げてから敷居をまたぐべき」と言わんばかりに、強気な姿勢を見せるブランドも存在しているのも、また事実。

 顧客に寄り添うだけが正義・正解ではありませんが、あまり過度な強気接客は社会的ニーズにマッチせず、今回のような「逆カスハラ」と言われる問題につながってしまうのではないかと懸念しています。少なくとも、接客態度が悪いことと、ブランドとしての権威を表現することは、決してイコールにはなり得ません。

 顧客のクレームをカスハラであると捉える前に、ブランド側がルッキズムに該当する接客をしていないか、最低限の接客マナーを逸していないかなどにおいての事実確認は、とくにアパレル企業は入念に行った上での対策が必要となりそうですね。


<文&イラスト/角佑宇子>

【角 佑宇子】
(すみゆうこ)ファッションライター・スタイリスト。スタイリストアシスタントを経て2012年に独立。過去のオシャレ失敗経験を活かし、日常で使える、ちょっとタメになる情報を配信中。2023年9月、NHK『あさイチ』に出演。インスタグラムは@sumi.1105
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