『ザ・ロイヤルファミリー』(TBS系、日曜よる9時~)や『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(TBS系、火曜よる10時~)など、注目度の高い秋ドラマは多いが、『小さい頃は、神様がいて』(フジテレビ系、木曜よる10時~)も話題を集めている。とはいえ、決して前向きな声ばかりではなく、批判的な意見も少なくない。


“子どもが20歳になったら離婚したい母親”に賛否。「ワガママ...の画像はこちら >>
 連続テレビ小説『ちゅらさん』(NHK総合)や『ビーチボーイズ』(フジテレビ系)などを手がけた岡田惠和が脚本を担当するヒューマンドラマだ。小倉渉(北村有起哉)はある日、妻・あん(仲間由紀恵)から、19年前にかわした約束──「子どもが20歳になったら離婚する」──がまだ生きていることを聞かされる。

 渉はすっかり“時効”になったものと思い込んでおり、なんとか説得を試みるも、あんの意志は固い。次女・ゆず(近藤華)の20歳の誕生日まで2か月を切り、離婚へのカウントダウンが進む中、小倉家がどのような未来をたどるのかを描いていく内容になっている。

仲間由紀恵“あん”の離婚理由はワガママ?

 あんは第2話で離婚したい理由として、「私は母という存在以外、何もなかった」「私は母として生きるためだけに生まれてきたわけじゃない」「『子どもが大人になったら自分に戻るんだ』って決めて、だから生きてこられて、呼吸することができた」といったことを渉に説明している。

 渉をはじめ、家族のことが嫌になったわけではない。“母親として”だけではなく、“自分の人生”を歩みたいという気持ちが背景にあることを語っていた。

 正直、あんが離婚を望む理由はドラマにしては抽象的だ。渉はマイペースな性格ゆえに周囲をイラッとさせる部分もあるが、DVや浮気をしたわけではない。家族のために働き続ける“良き夫”だ。もし渉がクズ男であれば、あんの選択に共感する人は多かったと思うが、渉に明確な非はない。なにより、あんは今日まで安定した生活を送り続けてきた。そのため、離婚願望を口にするあんには「ワガママだ」というSNSでの批判的な声が目立つ


 また、長男・順(小瀧望)は消防士として立派に働いており、現在は実家を出て寮生活を送っている。その一方で、大学生で19歳のゆずは実家暮らしのため、経済的には自立していない。ゆずの今後を案じてか、はたまた子ども2人の思いを察してか、「子どもがかわいそう」という声も散見された。

批判が的外れである理由

 しかし、あんに対するこうした批判は的外れではないかと思う。

 長女出産後にあんは、母親という役割が自分自身のすべてであるかのように思わされ、“母親としての幸せ=自分の幸せ”という図式に自身の価値観を押し込められることへの苦悩を吐露している。

 そして、夫や子どもが嫌いになったわけではないものの、それらを“苦悩”と認識している自分自身に対する強い嫌悪感を覚えている様子が、仲間の演技や岡田の脚本からひしひしと伝わってきた。そんなあんを見て「ワガママ」とは到底思えない。

 また、あんはゆずが成人するまでは子育てを全うしようとしている。もちろん、20歳という節目の誕生日が両親の離婚のトリガーになっていることは、ゆずにとって気分の良いものではない。加えて、両親が離婚することは子ども視点で見れば辛いことではある。

 それでも、「子どもがかわいそう」と考え、子どもが成人した後も、あんに“母親であり妻”としてだけ生きることを望むのは、酷な話ではないだろうか。

「離婚したい」「逃げ出したい」と思う自由

 こうした批判が出てくる背景としては、やはり離婚願望を持つには、それ相応の決定的な理由がほしいのだろう。先述の通り、渉は浮気もDVもしていないのだから、納得できない人が一定数いるのかもしれない。
言い換えれば、あんのように抽象的な理由では、なかなかその人たちの賛同を得られないのだと思う。

 とはいえ、理由があろうとなかろうと、離婚願望を持つことは個人の自由ではないか。家族のことが嫌いではない、むしろ好きであっても、今の生活や役割から逃げ出したいという思いを抱くのは決して特別なことではない。しかし、浮気やDVといった被害に遭っていない場合、離婚願望を持つことは“後ろめたいこと”とされがちだ。

 あんは離婚の約束を胸に約20年呼吸をしてきたが、実際に離婚するかどうかは別として、「離婚」という希望が支えになるケースは決して珍しくない。親が抱える言語化の難しい葛藤を、あんのセリフや表情から丁寧に描写し続けている本作ではあるが、「離婚願望は誰でも持っていい」というメッセージも示しているように感じた。

 あんという1人の母親が、1人の人間としてどのように歩き始めるのかを、今後見届けたい。

<文/望月悠木>

【望月悠木】
フリーライター。社会問題やエンタメ、グルメなど幅広い記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。X(旧Twitter):@mochizukiyuuki
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