あなたは、公共の場で“空気を読まない人”に遭遇したことがありますか? ただでさえ疲れている移動中にそんな場面に出くわすと、心がどっと重くなりますよね。

 さて、そんな時に空気を変えてくれた、意外な人物とは……。


バスの中に響く、男性の怒鳴り声

 関谷沙織さん(仮名・32歳/会社員)は、最近仕事に追われていてかなり疲れていました。

「しばらく残業続きでグッタリしていたのですが、久しぶりに定時に帰れることになり、都営バスに乗り座席に沈み込んで、深く息をつき『1秒でも早く帰ってソファーに倒れ込みたい』と思っていたんですよ」

 そんな矢先に「だから言っているだろ! それはお前の責任で俺には関係ないって! ふざけるな!」と響く大声が……。声の方に目をやるとスマホ片手に怒鳴る中年男性の姿がありました。

バスで怒鳴る迷惑おじさんに困っていたら…小学生が“あるモノ”...の画像はこちら >>
「バスの中で通話するだけでも相当迷惑なのに、そのおじさんはまるで不機嫌という名の毒を吐き出して車内を汚染しているかのようでした。ただでさえ疲れていた私は“もうマジで勘弁して”と両耳を塞ぎながら耐えていました」

 車内にピリッと冷たい空気が走り、乗客たちがうんざりしつつ“こいつとは関わりたくない”と思っているのが伝わってきたそう。

ランドセルの男の子が差し出したものは

「そしたら前の席に座っていた小学生の男の子が、大きな紙袋をゴソゴソと探りはじめると、立ち上がり、大声通話をしている男性のところにトコトコと歩いていったんですよ」

 沙織さんは「一体なにをする気? 大丈夫かな?」とドキドキしながら見守っていたといいます。

「すると男の子が『これ、今日、学校の行事で掘ったやつ。おじさんにもあげる』と、紙袋から泥のついた立派なさつまいもを1つ、差し出したんですよね

 おじさんは面食らった様子で「え? いや、いいよ、そんなの」ともごもごしていると、男の子が「これを持ってると、食べるのが楽しみでニコニコになれるよ」とさつまいもをギュッと押し付けました。

「車内が静まり返る中、前の方の座席から吹き出してしまった声が漏れてきて、伝染するようにあちこちから笑い声がし、私も思わず口を押さえました。

 おじさんは呆気にとられたような表情で『まいったな、ありがとうな』とスマホをしまい、裸のままのさつまいもを手に握りしめたまま、居心地悪そうに次の停留所で降りていったんですよ」

本当に器が大きくて、視野の広い子

 車内はすっかりあたたかい雰囲気になり、沙織さんはその光景を見ていたら不思議と身体が軽くなり元気がでたそう。

「あの男の子は、乗客の大人たちが見て見ぬ振りをしていた“大声通話おじさん”に、食べるのを楽しみにしていたさつまいもを分け与えた。そうすることで、おじさんに自ら通話を止めさせ、乗客たちの気持ちまでも救ったんです。本当に器が大きくて視野の広い子だなって感心してしまって」

バスで怒鳴る迷惑おじさんに困っていたら…小学生が“あるモノ”を出して事態が一変! 車内はニコニコが止まらない
※画像はイメージです
 沙織さんは、疲れていたからといって自分のことでいっぱいいっぱいになっていた自分を恥じ、そしてあの男の子から出ていた清らかな波動みたいなものにとても癒されたといいます。

家に帰ってからも笑顔が止まらない

「最寄りの停留所でバスを降り、私はそのままコンビニに行きスイートポテトを買いました。どうしてもさつまいもが食べたくなってしまったんですよね(笑)」

 沙織さんは家に帰るとソファーでリラックスしながらスイートポテトを頬張り「あの男の子は、どうやってあのおいもを食べたかな? お母さんが天ぷらにでもしてくれたかな?」と妄想したそう。


「そして同時に、あの大声通話おじさんも、ちゃんと美味しくおいもを食べているかな? 奥さんがいるとしたら、どう説明したんだろう? と考えたら、おかしくてつい、1人で吹き出しちゃったんですよ」

“もしかしたら、今日バスに乗っていた全員が、夕食にさつまいもを食べていたりして……”とクスクス笑いながら、沙織さんはスイートポテトの最後のひと口を味わいながら食しました。

「あの男の子がくれたのは、さつまいもだけじゃなく、“笑顔の連鎖”だったんじゃないかな? と今でも思い出すたびに心が温かくなるんですよね」と微笑む沙織さんなのでした。

<文・イラスト/鈴木詩子>

【鈴木詩子】
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:@skippop
編集部おすすめ