新卒から18年半、テレビ朝日のアナウンサーとして、報道、スポーツ、バラエティなど多岐にわたる番組を担当してきた大木優紀さん(44歳)。

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 40歳を超えてから、スタートアップ企業「令和トラベル」に転職。
現在は旅行アプリ「NEWT(ニュート)」の広報を担当し、さらに、2025年10月にはハワイ子会社「ALOHA7, Inc.」のCEOに就任。家族とともにハワイに移住し、新たなステージで活躍している。

 第21回となる今回は、大木さんの前職、アナウンサー時代のことやそこで得たスキルについて振り返ります(以下、大木さんの寄稿)。

テレビ朝日をやめて4年。「女子アナ」という職業を振り返る

 テレビ朝日を辞めて、もう4年が経ちました。今でも、アナウンサー時代の先輩後輩、同期たちとは今でも、仕事関係なく仲良くさせていただいていて、今でも私にとって大切な友人です。

 退社して2年ほど経ったころでしょうか。「うちの会社」という言葉に象徴されるような“所属感”が、いま勤めている令和トラベルに移ったんだなと気づく瞬間がありました。

 友人たちがテレビ局の話をしているのを聞いて、「あ、私、もうそっち側の人間じゃないんだな」と感じたんです。

 彼女たちがテレビの中でキラキラと輝く姿を見ながら、少し寂しくもありましたが、本当の意味での卒業を実感しました。

 そして、家族でハワイに移住し、時間的にも距離的にも「女子アナ」という肩書きから完全に離れた今、改めて思うのです。

 世の中が「女子アナ」として捉えている職業って、いったい何だったんだろうと。


 そこで培ったスキルの本当の価値みたいなものを、勝手な立場ですので、勝手なことを書かせていただこうと思います。

一般企業に転職して「あれ、みんなこんなに喋れないんだ」

「あれ、みんなこんなに喋れないんだ」44歳・元テレ朝アナの私が転職して実感した“女子アナ”のスキル
大木優紀
 アナウンサー時代は「しゃべること」が自分のスキルだとは思っていました。でも次のキャリアを考えたとき、活かせるスキルなんて何もないんじゃないかと強く感じていました。

 だから、いま勤めている令和トラベルへの転職は、本当に勇気のいる一歩でした。

 ただ、入社してすぐに驚いたことがあります。今の同僚のみなさんには申し訳ないんですが、「あれ、みんなこんなに喋れないんだ」と。

 もちろん、一般企業の方々はみなさん優秀です。

 特にプレゼンなどは、ビジネスパーソンの必須スキルとして、世の中に認知されているので。しっかりと準備しているし、そもそものtipsなどを学び、身につけている方も多い印象でした。むしろ、「あれ、みんなこんなに喋れないんだ」と特に感じたのは、ランチの時間やなんとなく雑談を楽しむ場でした。

 今までアナウンサー同士で話ているときには感じなかった違和感。話している割合が悪かったりとか、微妙な間が生まれてしまったりとか。とにかく、基本的なコミュニケーションのスキルが大きく違うと感じました。


アナウンサーの持つ「空気を読む力」の価値

 例えば、アナウンサー仲間4人で集まったランチなどは、もしかしたら、ちょっと異様な光景なのかもしれません。会話のパス回しがとにかく華麗で、不自然な間が一切ない。4人それぞれが話したいことを、キャッチーなワードを入れつつ、絶妙なタイミングで差し込んでくる。

 しかも、それを誰も意識していないんです。ベテランになればなるほど、そのスキルが体に染みついていて、“いま誰がどれくらい話しているか”“トピックを変えるタイミング”――そんなものを無意識に全員が把握している。誰か一人が話し続けてしまったり、誰かが消化不良になることはありません。

 辞めてから気づいたんですが、アナウンサーって「空気を読む力」の解像度が本当に高いんですよね。いわゆる“わかりやすく話す力”だけでなく、“心地よく聞く力”がものすごく鍛えられている。

 こういったスキルは、数字では測れず、キャリアシートには書きにくいこと。アナウンサーであれば、どんな番組に出ていたのか、どんな取材を行ったかというのが、キャリアとして残りやすい。

 でも、そういう目に見えるキャリアではなくても、アナウンサーは非常に高いコアなスキルを身につけている人材なんです。

「しゃべれる」「聞ける」「空気が読める」。これらは、実は、ビジネスシーンでも非常に応用が効くスキルなのではないか。
アナウンサーの現場を離れた今だからこそ、それを、改めて感じています。

時代とともに変わってきた「女子アナ」の役割

「あれ、みんなこんなに喋れないんだ」44歳・元テレ朝アナの私が転職して実感した“女子アナ”のスキル
大木優紀
 私がテレビ朝日に入社したのは、もう20年ほど前のことです。当時の「女子アナ(あえて、典型的なワードとしてこう書かせてください)」といえば、男性司会者の横で“花を添える存在”というのが一般的なポジションでした。

 でも、この20年で空気はガラリと変わりました。今では、女性アナウンサーがキャスターとして自分の意見を発信したり、バラエティでも単なる“アシスタント”という枠を超えて番組の軸を担うようになっています。

 それは、「女子アナ」自身が立場を変えていったというよりは、正直、社会が求めるものが変わってきたことが大きいのではないかと思っています。女性総理が誕生した今の時代に象徴されるように、「女性とはこうあるべき」という固定観念が、少しずつ溶けてきたのではないかと思います。

 女性アナウンサーも、“花を添える存在”から“番組を成立させる存在”へ。この変化は、テレビ業界だけでなく、社会全体のジェンダー意識の変化と深くつながっている。そんなふうに、客観的に見て感じています。

 私は正直、この時代の変化についていくことができなかった。

 時代のせいにするつもりではないのですが、もう一歩、枠を超えた存在感を作れなかったという悔しさは残っています。アナウンサーとして、もっとできたことがあったのかもしれないという後悔がないといえば嘘になります。


 だけど、今の時代の女性アナウンサーたちをみていると、あそこを超えていくんだなって、すごくまぶしく、たくましく感じています。

アナウンサーは「ビジネスパーソン」として、ますます広がる

「あれ、みんなこんなに喋れないんだ」44歳・元テレ朝アナの私が転職して実感した“女子アナ”のスキル
大木優紀
 アナウンサーという仕事は、18年半やっても飽きることがない魅力的な仕事でした。常に新しい刺激があり、緊張感があり、本当に楽しい仕事でした。

 もちろん、ときに批判を浴びることもあります。けれどその場の空気を読み、番組を進行し、ときにチーム全体をコントロールする立場として、“画面の中に存在する意味”を常に自分に問い続ける日々でもありました。

 今でも、多くの方が憧れをもってくださる職業であり続けてほしいと思います。

 そして、元アナウンサーが男女問わず第二のキャリアで活躍し始めている。それはごく自然なことのように感じます。なぜなら、アナウンサーが培ってきた「伝える力」「聴く力」「空気を読む力」は、極めて汎用性の高いスキルだからです。

「女子アナ」という言葉で一括りにされがちですが、実際には一人ひとりがまったく違う個性と専門性を持っています。だからこそ、「女子アナ」というだけで批判することはとてもナンセンスだと私は思っています。

 誰かの隣で“花を添える”だけの存在ではなく、それぞれがその個性と高いスキルで勝負するプロフェッショナルとして、キャリアを築いている。


 アナウンサーという仕事を離れた今だからこそ、心から思います。アナウンサーは、ただ「伝える人」ではなく、「人と人、社会をつなぐ力を持ったビジネスパーソン」。

 AIでは読みきれないその機微を読み、コントロールする存在として、もっとその活躍の場は広がるのではないかと、私は感じています。

<文/大木優紀>

【大木優紀】
1980年生まれ。2003年にテレビ朝日に入社し、アナウンサーとして報道情報、スポーツ、バラエティーと幅広く担当。21年末に退社し、令和トラベルに転職。旅行アプリ『NEWT(ニュート)』のPRに奮闘中。2児の母
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