ここ最近、岩手県がホームページ上で公開していた婚活に関するアドバイス資料『いわてでステキな出会い「叶えるBOOK」~婚活スキルアップしたいあなたへ』がSNSで物議をかもしている。もともとは2021年7月に公開されたもので、「なぜ今さら?」と疑問符がつく。


「清楚じゃないと結婚できないの?」岩手県の“婚活BOOK”が...の画像はこちら >>
 しかし資料の中身を見ると、4年前に公開されたものだとしてもツッコミたくなる内容だ。なにより、これが婚活アドバイザーが書いたnoteではなく、“地方自治体が公に発表しているもの”と考えると実に感慨深い。

 今回はその内容を振り返っていくが、強調したいのは「これは岩手県だけの問題ではない」ということだ。いまだ多くの場で見られる“婚活アドバイスの時代錯誤な傾向”について考えてみたい。

 なお、この資料は10月28日には岩手県のホームページで閲覧できなくなり、「不快感を与えてしまう表現があるとのご意見を頂いたことから、ホームページでの公開を取りやめることとしました」との説明が添えられている。

“清楚至上主義”が色濃い婚活アドバイス

 資料は男女別になっているが、いずれにも婚活スペシャリストによる外見に関するアドバイスが記されている。女性編では、まず清潔感や美しさを意識した髪型を推奨。とはいえ、あくまで「自分に似合う髪型」であることを強調しており、揚げ足を取れる部分はない。

「清楚じゃないと結婚できないの?」岩手県の“婚活BOOK”が炎上したワケ。時代錯誤なアドバイスはいつまで続くのか
清楚な服装の女性
 しかし、メイクに関するアドバイスから雲行きが怪しくなる。「婚活では、ナチュラルで上品に見せるメイクがおすすめです」と記されている通り、派手さよりも控えめで、清楚な印象を与えるメイクを提案。ファッションについては、“清楚至上主義”がより色濃くなる。首や手首、足首などが見えることで可憐な雰囲気を演出できるため、パンプスやスカート・ワンピースをファッションポイントに据えていた。

結婚後の息苦しい生活は想定外?

 婚活における清楚さとは、言い換えてしまえば“夫に逆らわない従順さ”を指す。「男性にとって都合の良いお人形さんを演じることが結婚の近道」という、ミソジニー臭たっぷりの昭和堅気な価値観が透けて見えるアドバイスだ。


 仮にこのアドバイス通りに振る舞って結婚できたとしても、結婚後も“清楚系”と思い込んでいる夫に合わせて自身を偽る必要があり、かなり息苦しい結婚生活を送ることになる。もちろん、個性を小出しにしていけば良いのかもしれない。ただ、“作られた清楚”にあっさり騙されるような男性と結婚した場合、「猫を被っていたのか!」と逆上され、面倒な事態に発展しかねない。

 結婚後の生活を度外視し、「結婚すること」そのものを目的化しすぎていないだろうか。こうした傾向は何も、岩手県のパンフレットだけの話ではない。大手結婚相談所でも、仲人が婚活女性に向けてこうしたアドバイスをすることは決して珍しくないという。

清楚系の服装は、おばさん感が出るリスクあり

 そもそも論になるが、ナチュラルメイクやパンプス・ワンピースのファッションが男性ウケが良いのかもわからない。むしろ「ダサい」と思われる可能性もある。清楚系は“古き良き”とイメージされがちだが、メイクやアイテム選びを誤ると急に“おばさんっぽく”なる。比較的落ち着いた年齢の女性が清楚系を目指すと、より年増感がマシマシになりかねない。

「清楚じゃないと結婚できないの?」岩手県の“婚活BOOK”が炎上したワケ。時代錯誤なアドバイスはいつまで続くのか
女性のファッション
 この資料同様、「おしとやかに思われる外見を作れ!」というアドバイスは、かなり昔から繰り返されてきたが、結局のところ清楚系もファッション系統の1つにすぎず、誰もが似合うわけではない。あまり周囲のアドバイスを鵜呑みにしないほうが賢明だろう。

 もちろん、ある程度の清潔感はマストであり、この資料から取り入れたほうが良いアドバイスもないわけではない。
ただ、自分が好きな外見でいる方が落ち着いて楽しく話すことができ、笑顔も自然と増えていくのではないか。その結果、相手に好印象を与えることにつながるかもしれない。

「多様性の時代だから」というよりも、男性ウケを気にしない“自分らしい外見”でいることが、むしろ結婚への近道になるのではないか。

男性へのアドバイスに拍子抜け

 この調子なら男性編も、さぞかし女性ウケに特化した提言があるのかと思いきや、女性編を見た後だとかなり拍子抜けする内容だ。

 ヘアスタイルには「寝起きのままのボサボサヘアになっていませんか?」、ファッションには「自分に似合う服で、体型に合ったサイズを選ぶことが大切です」、さらには「体臭や口臭、爪の長さも大切なポイントです」など、中高生が親に言われそうな一般的な指摘が並ぶ。

「清楚じゃないと結婚できないの?」岩手県の“婚活BOOK”が炎上したワケ。時代錯誤なアドバイスはいつまで続くのか
洗面所で身だしなみを整える男性
 女性編では具体的な指示が多く、「自分の顔の中でどのパーツを目立たせて魅力的に見せたいかを考えながら、メイクを研究してみましょう」と面倒なミッションも課していただけに、かなり甘口のアドバイスに映る。

「男性の容姿」を重視する女性が増えている

 とはいえ婚活の場には外見に無頓着な男性が少なくないため、こんな当たり前のことしか「書けなかった」可能性もある。

 一定数いる「女性の外見には厳しいが、自身の外見に対する評価は甘い」男性が、外見について指摘されるとシュンとしてしまいかねない。そして「そこまでして結婚したくねえし!」と強がって婚活から遠のく……といったことを懸念したのではないか。あえて具体的なことは言わず、男性の婚活熱を冷まさないように慎重に言葉を選んでいるのかもしれない。

 それでも、女性編との比較が露骨で、女性がいかにルッキズムに晒されているのかを実感する。そして、「地方の男女観は未だに旧態依然としているのだな」という感想まで持ちたくなる。

 とはいえ、国立社会保障・人口問題研究所が2022年に発表した「第16回出生動向基本調査」によれば、結婚相手に求める条件として「容姿」を重視・考慮する女性は増加中だ(1992年調査の67.6%から2021年調査の81.3%)。
その影響からなのか、ヒゲ脱毛やスキンケアは男性の間で定着しつつある。爪を切るかどうかのアドバイスしている場合ではない

 最新版を制作する場合には、女性に清楚系を押し付けず、なおかつ男性の容姿にも具体的かつ率直な表現を用いることを期待したい。

<文/浅村サルディ>

【浅村サルディ】
芸能ネタ、炎上ネタが主食。好きなホルモンはマキシマム ザ ホルモン。
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