毎週水曜よる10時から放送中のドラマ『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』(フジテレビ系)は、三谷幸喜にとって25年ぶりの民放GP帯連ドラマ脚本作である。

 1984年の渋谷が舞台。
熱い演出家役の菅田将暉が、太鼓持ち的に本作の物語展開を活気づけ、盛り上げる。

 男性俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、本作の時代背景を読み解きながら、菅田将暉の演技を解説する。

なぜ1984年の渋谷なのか?

三谷幸喜脚本に豪華セット…フジ新ドラマで菅田将暉が見せた“新...の画像はこちら >>
 1973年、渋谷パルコが開業した。新たな文化発信地の誕生に合わせて、渋谷の区役所通りは公園通りに改名された。渋谷パルコ開業の仕掛人である増田通二がパルコ社長に就任したのが、本作『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』が舞台を置く1984年だった。

「劇場の中にパルコがある」という増田の名文句がある。渋谷の文化を発信するパルコ(イタリア語で公園を意味する)を中心に渋谷の街自体を劇場として捉えたのだ。

 そして1985年、パルコ内の西武劇場が現在のPARCO劇場に名称を変えた。PARCO劇場は独自のプロデュース公演を打った。

 三谷幸喜の代表作『笑の大学』は、パルコプロデュース作品として1996年に初演。「PARCO劇場開場50周年記念シリーズ」作品としても再上演した。

 所縁の演劇人である三谷幸喜が、25年ぶりに民放のGP帯連ドラ脚本を手がける作品舞台として、豊穣な文化の土台があった1984年の渋谷そのものを舞台に見立てたのだろう。

主演俳優の表情を際立たせる仕掛け

 SNS上では第1話放送時点で、それほど好評だったわけではない。鳴り物入りの三谷ドラマへの期待値が大き過ぎたせいもあるが、豪華出演者が演じるキャラクター紹介で30分拡大放送尺を使いきる展開の遅さが、視聴者の集中力を削いでしまったきらいがある。


 とはいえ、物語構造上、やや入り組んででもすべてのキャラクター紹介と状況説明を一通り済ませ、土台となる舞台を整える必要性がどうしてもあった。何より本作は1984年の渋谷を再現するため、千葉県に大がかりなオープンセットを組んでいる。

 豪華なセットをフル活用するためにも物語の導入を丁寧に説明することで、令和の2025年でも41年前の世界観に丸ごと浸ってもらいたいという工夫と意図がある。そうして展開を遅らせ、引っ張りに引っ張った先で、第1話ラスト、主演俳優である菅田将暉の表情をドドンと際立たせるという仕掛けだ。

タイムマシンで走り抜けるような表情

 本作の主人公・久部三成(菅田将暉)は、演劇界の巨匠・蜷川幸雄を心の師とあおぐ若手演出家。エキセントリックな演出力に対して劇団員たちが抗議するものなら、俳優に灰皿を投げたと伝説的に語られている蜷川の身振りをなぞろうとする。

 久部が熱くなればなるほど劇団員たちはついてこない。自分で立ち上げた劇団だからといって私物化と独裁化が過ぎている。彼は完全にふてくされて夜の渋谷に飛び出す。

 八分坂という商店街で行き着いたのは怪しげなスナック。そこで店番する倖田リカ(二階堂ふみ)に不満話を聞いてもらうが、不明瞭会計でぼったくられる。

 会計の代わりに人質になった宝物のシェイクスピア全集を何とか取り返す久部が、迷い込んだのはスナックと同経営のWS劇場だった。袖から舞台をのぞく。
リカが踊っている。でもピンスポットライトが足りない。

 久部は自然と身体が動く。気付けば照明機器を操り、リカをピンスポで照らしている。「これだ!」という興奮の表情は、まるで1984年の渋谷に向かってタイムマシンで走り抜けるような勢いがある。

三谷幸喜脚本を得た菅田将暉が太鼓持ちに

 菅田将暉の勢いを推進力として、本作はぐんぐん展開していく。第2話から久部はWS劇場の照明技師になり、もう一度自分の劇団を旗揚げしようと野望を温める。

 風営法の取り締まり強化で、あれやこれや劇場の営業危機に巻き込まれながら、日々の業務に熱を込める。

 所属するダンサーの中ではそれなりに勉強熱心らしいリカが、新しい振付を練習しているところを久部が見つめる場面がいい。かぶりつきで釘付けになる。

 ややローアングルのカメラが、菅田を斜めの構図で収める画面。エキセントリックな彼の演技から新たな表情を引き出している。


 菅田演じる久部視点でWS劇場の内幕を垣間見るうち、視聴者は遠い過去に時代設定を置く本作の世界観にどっぷり浸りはじめている。

 劇場の経営難を打破するための改革案として、シェイクスピアの『真夏の夜の夢』を旗揚げ公演にしようと決起する展開にはワクワクする。

 三谷幸喜脚本を得た菅田将暉は、やりたい放題でドンドコ太鼓持ちになって本作をどんどん盛り上げる。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修
俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu
編集部おすすめ