あれは10年くらい前のことだったろうか? 全国有数のパワースポットである北海道神宮に五つある鳥居のうち、第二鳥居近くの横断歩道をクマが渡っていたというニュースが札幌市内を駆け巡ったのは……。

「熊の脅威をフィクションのように捉えている」札幌・東京2拠点...の画像はこちら >>
 札幌出身の筆者は当時、埼玉県に住んでいたが、首都圏の友人たちにそのニュースを教えても誰も信じてくれなかった記憶がある。


 それがどうだろう。2025年秋の札幌は一部地域でヒグマ警報やヒグマ注意報が発出されている前代未聞の事態だ。北海道神宮に隣接する円山公園が完全閉鎖された数日前には、今季初の積雪があった。11月前半に積雪が10センチを超えるのは2016年以来9年ぶりのこと。

 十年一昔。異例のクマ出没と記録的な積雪が札幌のリアリティなのだ。秋から冬に突入しようという中、今年のクマは冬眠しないという専門家の意見まである。今、札幌市民はどれほどの不安を抱いているのか? 東京・札幌間を行き来するコラムニスト・加賀谷健がリポートする。

全国的に人気の動物園でヒグマの足跡

「熊の脅威をフィクションのように捉えている」札幌・東京2拠点の筆者が体感する“認識の落差”とは
11月10日午前に円山動物園内で見つかったヒグマの足跡(札幌市提供)
 東京と札幌で二拠点生活をする筆者にとって、札幌の市街地はもはや安全な場所とはいえない……。9月26日午後8時頃、札幌市西区の平和丘陵公園で男性がヒグマに襲われた。北海道庁は即日で西区を対象に「ヒグマ警報」を発出。現在のところ、11月25日まで警報が延長されている状況だ。

 西区は特に三方が山林で囲まれたエリアであり、札幌市が更新しているヒグマ出没情報マップを見ると、クマの個体や足跡マークがびっしり付いている。
さらに西区以外でも出没が頻繁な市街地を中心に「ヒグマ注意報」が発出中である。

 中央区ではほとんど毎日出没情報が更新され、駆除件数も増えている。たとえば11月9日、旭山動物園と並んで全国的に人気の円山動物園内で足跡が発見された速報には激震が走った。

 円山動物園は、まさに筆者が札幌の拠点を置くエリア・円山公園徒歩圏内に位置する。過去には『出没!アド街ック天国』(2007年8月18日放送回)でも特集された有名エリアで、標高226メートルの円山(動物園でクマの足跡が発見された場所は円山と隣接する)近辺は、全国有数のパワースポットである北海道神宮や市民にとって憩いの場である円山公園など、自然豊かな環境だ。

 動物園のバス停裏にはユースの森という自然林が広がり、キツネが歩道を歩いていることはあっても動物園にヒグマが侵入するというのは聞いたことがない。

玄関先にヒグマがいても不思議ではないリアリティ

「熊の脅威をフィクションのように捉えている」札幌・東京2拠点の筆者が体感する“認識の落差”とは
11月10日夜に札幌市中央区宮の森の道路で見つかったヒグマの足跡(札幌市提供)
「熊の脅威をフィクションのように捉えている」札幌・東京2拠点の筆者が体感する“認識の落差”とは
11月10日夜に札幌市中央区宮の森の道路で見つかったヒグマの足跡(札幌市提供)
 速報が流れた翌日の11月10日には、北海道神宮の駐車場付近の道路上でヒグマが目撃され、防犯カメラが個体を確認した。おそらく動物園内に侵入したクマと同じ個体だと考えられる(このクマと見られる個体は11月12日に円山動物園内の箱わなで捕獲後、駆除)。

 それを受けて札幌市は11月11日から円山公園を全面閉鎖。閉鎖は2週間程度と予定されている。北海道神宮は個体が確認された駐車場を終日閉鎖し、円山公園口鳥居と第三鳥居も通行止めにしている。円山動物園もまた一時的に閉園。

 一連の閉鎖と前後して、つい最近、円山公園近辺の住宅街でもクマ騒動があったばかりだ。
10月16日、庭仕事中の住人が、自宅敷地内に侵入していたヒグマを発見。すぐに警察が周辺を封鎖し、猟友会が囲い込み作戦で駆除した。詰めかけた各局のテレビカメラがクマの姿をはっきり捉え、全道で報じられた。そのとき筆者はちょうど東京にいたのだが、市街地でクマを駆除したというニュースを聞いてもさすがにリアリティがなかった。

 東京出身者や都内在住者ならなおさらだろう。11月4日に江戸川区でイノシシが目撃されたが、X上ではまるでフィクションの世界での出来事のように捉えたポストが散見された。当たり前だが、首都と地方都市ではあまりにも認識に落差があり過ぎる。大袈裟に聞こえるかもしれないが、玄関先にヒグマがいても不思議ではない。それが今の札幌のリアリティなのだ。

今年のクマは冬眠しないのか問題

 ヒグマ警報、注意報が発出されている札幌市街地で、市民生活に大きな不安があるのは言うまでもない。市民たちは特にクマが多く目撃される時間帯である早朝と夜にそんな恐怖を抱いて神経質にならざるを得ない。朝の通勤、通学も徒歩では不安だし、視界がはっきりしない夜はうかうか散歩もできない。


 少しでも不安を払うために、登山時に携帯するクマ避けの鈴を住宅街を歩くときでさえ身につけ、大きく音を鳴らしている人も見かけるくらいだ。

 では、日中や夕方なら安全かというとそうとも限らない。実際、上述した猟友会による駆除は昼下がりのことだった。こうした不安と隣り合わせの生活をいったい、いつまで続けたらいいのだろう? クマの冬眠期までかと思えば、どうやら今年のクマは冬眠をしないかもしれないという専門家の意見まである。

 一般的にクマの冬眠は12月から翌年2月までといわれているが、昨年の大晦日や今年1月の道内では冬の市街地にもヒグマが出没した。

 クマが冬眠する理由について酪農学園大学の佐藤喜和教授は「エサが十分取れない時期に、エネルギー消費を節約するため」と解説している。大晦日の出没は昨年のどんぐりの豊作でクマが「エネルギー消費を節約する」必要があまりなかったためと考えられている。

 逆に今年の秋はどんぐりが不作。これはこれで空腹のクマが冬眠中に起きて出没する可能性がある。地球温暖化の影響もあるという指摘もある。円山動物園内にヒグマが侵入した前日(11月8日)の朝にかけて、札幌では今季初の積雪があり、。路面に積もる雪がクマの足跡をくっきり際立たせている。
北海道の長い冬の間中、それが常態化するのは恐怖でしかない。

<文/加賀谷健>

「熊の脅威をフィクションのように捉えている」札幌・東京2拠点の筆者が体感する“認識の落差”とは
円山動物園で発見された熊の足跡(札幌市提供)


11月10日午前に円山動物園内で見つかったヒグマの足跡(札幌市提供)

「熊の脅威をフィクションのように捉えている」札幌・東京2拠点の筆者が体感する“認識の落差”とは
11月10日夜に札幌市中央区宮の森の道路で見つかったヒグマの足跡(札幌市提供)


11月10日夜に札幌市中央区宮の森の道路で見つかったヒグマの足跡(札幌市提供)

「熊の脅威をフィクションのように捉えている」札幌・東京2拠点の筆者が体感する“認識の落差”とは
11月10日夜に札幌市中央区宮の森の道路で見つかったヒグマの足跡


11月10日夜に札幌市中央区宮の森の道路で見つかったヒグマの足跡(札幌市提供)

「熊の脅威をフィクションのように捉えている」札幌・東京2拠点の筆者が体感する“認識の落差”とは
宮の森で見つかった足跡


【加賀谷健】
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修
俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu
編集部おすすめ