なぜ、今「虚弱」という言葉がこんなにも注目されているのでしょうか。その背景を、著者の絶対に終電を逃さない女さんにうかがいました。
記事の後半では『虚弱に生きる』収録の「二十一歳で身体にガタが来た」の試し読みをお届けします。
「『虚弱』って言っていいんだ」と気づいたきっかけ
――まずは「絶対に終電を逃さない女」というペンネームの由来から教えていただけますか。絶対に終電を逃さない女(以下:終電):大学時代によく遊んでいた男の先輩がいるんですが、その人がよく終電を逃していたんです。つまり「絶対に終電を逃す男」で、私は普通に終電で帰っていたから、じゃあ「絶対に終電を逃さない女」だという話になって。そこで、その場でTwitter(現X)を開いてプロフィールの名前欄をそれに変えて、現在に至ります。それが2015年の秋でした。
――10年前の友人間のノリから生まれたペンネームだったんですね。てっきり、「体力がないから終電を逃してまで遊ぶ余裕がない」みたいな話なのかと……。
終電:私としてはその意味はまったく意識していなかったんですけど、SNS上での反応を見ると、そういう意味だと思った方が多かったようですね。
終電:きっかけは、同い年のライターのヒオカさんと「虚弱体質」について対談した2024年の「mi-mollet(ミモレ)」という媒体の記事です。私は昔からよくTwitterで「体調が悪い」だとか「体力ない」、「膝が痛い」といった、体の不調にまつわる投稿をしていたんです。
――この本の「はじめに」冒頭に紹介されている、「最近、首と肩と背中と腰と膝と左足首が痛い。もう全身じゃん」、「今年こそ人並みに健康になりたい。もうこれから毎年の目標は“健康”でいい。私はもう健康があれば他に何も要らない」のような。
終電:ヒオカさんとは元々相互フォローだったので、そういった私の投稿を見て「すごく共感します。虚弱体質対談をやりましょう」と声をかけてくれて。こんなの自分だけだと思っていたから「私以外にも20代で膝が痛い人がいるんだ!」って嬉しかったです。同時に、それまで私自身は「虚弱」という言葉を使ったことがなかったので、「虚弱」と名乗っていいのかなという迷いはありました。
Xがなかったら虚弱エッセイは生まれなかった
――みんな言わないだけだったと。終電:その対談を読んだ「現代ビジネス」の編集者の方からエッセイの依頼があって、その記事も「虚弱エッセイ」と呼ばれ、人生初バズを経験しました。
―― SNSのように自分の状態を「つぶやき」で実況できるツールがあったからこそ、なのかもしれませんね。
終電:たしかにそうですね。私も当初は(自分の身体の不調を)エッセイなどの長い文章にしようという発想がなくて、Xのような短文を投稿できる場所だからこそ書いていたところはあります。もしかすると、Xがなかったら虚弱対談もなかったし、虚弱エッセイも生まれなかったかもしれない。
――さらに発展して、今回一冊の本になりました。どのように単著の依頼がきたのでしょうか?
(本書の担当編集):終電さんの代わりにお答えします。終電さんの虚弱エッセイを拝見したとき、「なるほど、そうだったのか!」と目が開かれる思いがありました。というのも、私自身はすごく丈夫なんです。
「虚弱」の二字熟語を得たことで、楽になれた
――「虚弱」のバズによって、感じたメリット・デメリットはありますか。終電:まず、メリットは説明がしやすい。この二字熟語を得たことによって、かなり楽になれたと思います。
――たとえば「持病や原因不明の不調があって、常にどこか具合が悪くて、体力がないので、日によってコンディションにムラがあります」くらいの情報を説明するのに、「虚弱」で済む。
終電:デメリットは、「虚弱」って定義が曖昧なので、説明しきれない部分もあれば、自分の実態とは違う意味が含まれてしまうことです。たとえば、私はおそらく胃腸は強いほうなのですが、ネット上の感想を見ていると、「虚弱」という人に胃腸が弱い方は多いようです。人によって弱点が違うんだなと。そういった個人差はどうしても生まれますし、中には「この程度で虚弱ではない」みたいな声も出てくる。「虚弱」の定義が曖昧だから、「この人は虚弱か虚弱じゃないか」のジャッジが始まってしまいかねないリスクがあるなと思いました。
終電:「虚弱」に限らず、自分の苦労を語った人に対して、似たような経験のある人が「私のほうが大変だったのに」となる現象はよくあることですよね。また、本書の告知投稿がバズったときに感じたことのひとつに、この著者は自分よりは「虚弱」ではないかもしれないという不安を覚える当事者の方がいる、ということです。
「わかってもらえると思ったのに、わかってもらえなかった」という辛さってあるじゃないですか。「虚弱」のイメージや範囲が固定されてしまうと、そこからはみ出すような「虚弱」の人は、「自分がいないことにされている」と感じてしまう。そういう心理の不安なのかなと想像しています。この本を読んだ人が「『虚弱』の人はみんなこうなんだ~」と思ってしまったら私も困るので、なるべく自分の話だけを書こうと意識しました。
――「虚弱」とひとことで言っても、本一冊分になるくらいの事情を抱えているし、あくまでこれは一例であって、「虚弱」な人の背景にはそれぞれ同じくらいの事情があるかもしれない、と想像することで、相互理解が深まるかもしれません。また、エッセイは自分のことを書くものですけど、この本には体調にまつわる情報以外にも、大学進学の経緯、年収を含めた経済状況など、さまざまなことがつまびらかにされています。正直抵抗はありませんでしたか。
終電:書かずに済むのであれば書きたくないんですけど(苦笑)。たとえば、大学時代から同じ名前でSNSをやっているので、少し調べたら「早稲田大学卒」という経歴はわかってしまいます。
――読み手に対して誠実ですね。すごく情報が詰まっていて、実用書としても役に立つと感じました。
終電:誠実というか、単純にあとから色々言われるのが嫌なだけです(笑)。自分ではあまり実用的と思わずに書いていたので、役に立つと言っていただけるのはよかったです。
<取材・文/藤谷千明 撮影/山川修一>
※次ページより、『虚弱に生きる』収録の「二十一歳で身体にガタが来た」の試し読みができます
【二十一歳で身体にガタが来た】
巷でよく言われる「中年になるとガクッと体力が落ちる」というやつが、二十一歳で来てしまった。
それ以前も人と比べれば体力がなく疲れやすいほうだったとはいえ、身体の不調はまだ少なかったし、最低限の日常生活に支障をきたすほどではなかった。
大学三年の秋頃から、一日十二時間くらい眠ってしまうようになったのが始まりだったと思う。
やがて入眠困難と過眠が併発するようになり、もともとは規則正しかった生活リズムが崩壊した。思春期から続いていた倦怠感や抑鬱も悪化し、何をするにも動作が重く、動き始めるまでに信じられないほど時間がかかるようになった。睡眠中の食いしばりと歯ぎしりも酷くなり、顎が痛んだ。
全身の筋肉が凝りすぎて、毎日背中の痛みとともに起床するようになった。
毎日湯船に浸かるようにしたところ、上を向いた時の背中の痛みは消えたものの、整骨院に行ってみたら「筋肉が硬すぎる。ちゃんと毎日お風呂に浸かって」と言われ、「浸かってるんですけど……」と返すと「浸かってこれ⁉」と驚かれた。首に至っては、「硬すぎて木みたい。もはや人間の首じゃない」とまで言われた。
ほぼ毎日毎食後腹痛があり、お腹がギュルギュル鳴って、下痢を繰り返し、痔になった。食事中に吐き気を催すこともしょっちゅうだった。謎の微熱、発熱も多かった。二時間以上パソコンの画面を見ると頭痛や腰痛がするようになった。
注意力や集中力が下がって物忘れなども酷くなり、日常でのケアレスミスが頻発してますます体力を消耗する悪循環に陥っていた。
友達とお茶をしたり飲み会に参加したりすると、二時間くらいで首や腰が痛くなった。そんな日の夜は決まって眠れなかった。疲れれば疲れるほど眠れなかった。翌日も食事と睡眠以外何もできないくらい疲れが残るようになった。
以上のような慢性的な不調に加えて、あらゆる不調が次から次へと襲いかかってきた。
手首や股関節などの軽い関節痛は子供の頃からよくあったが、ある時猛烈に手首が痛くて整形外科に行ったら、軽度の頸椎椎間板ヘルニアと診断された。
病名のつかない、原因のわからない不調も絶えなかった。
眠れなくなった時期からなぜか耳垢が異常に増え、突然耳が聞こえにくくなって耳鼻科に駆け込んだところ、耳垢が詰まっていただけだったことがある。ほぼ毎日耳から少量の出血があったので、ついでにそのことを相談したが原因はわからなかった。耳鳴りが止まらなくなって受診した時も原因不明だった。
突然蕁麻疹と熱が出て何か恐ろしい感染症なのではないかと慌てて病院に行ったら、熱はただのインフルエンザで蕁麻疹は原因不明だったこともある。
二十代前半にして高齢者さながらの頻度で病院にかかっていた。中年どころか老人のような身体だった。喫茶店などで聞こえてくる高齢者同士の、身体のあちこちが悪くなって大変、というような会話に、深く共感した。
二十三歳頃から希死念慮が生じるようにもなった。具体的に何かが苦痛だから死にたいという理屈があるわけではなく、ふとした瞬間になぜか「死にたい」という発想が浮かぶ。私は死にたいと思っていないはずなのに、脳内のどこからか悪魔の囁きめいた「死にたい」という声が聞こえる。走行車を見たり高いところから地上を見下ろしたりすると、自殺を連想してしまうことも日常茶飯事だった。
常時ネガティブ思考で不安に支配され、些細なことが引き金になって鬱状態になり、しばしば涙が止まらなくなった。
当時心配した母が、息抜きに二人で旅行でもしようと提案してくれたことがある。私は断った。夜は眠れず、朝は起きられず、昼は眠く、何かを食べれば吐き気や腹痛を起こす。旅行なんてできる自信がなかった。
ただ生きているだけなのに身体も精神もボロボロだった。食べて寝ることすらも満足にできないなら、もはや生きることに向いていないと思った。一般社会で生きることに向いていない、という自覚は幼少期からあったものの、最低限の日常生活すらもままならないとは、想像だにしなかった。
何かの病気なのか、体力がないのか、疲れやすいのか、身体が弱いのか、精神的ストレスに弱いのか、ホルモンバランスのせいなのか、生い立ちのせいなのか。何が根本的な原因なのかわからなかったし、究明する余裕もなければ改善する意欲も湧かなかった。
背中の痛みとともに死にたいと思いながら昼間に起きて、起きても半分寝ているように眠く、食べると吐きそうになるし、食べ終わればお腹が痛くて、仕事をしているとすぐに頭が痛くなって、やるべきことが終わらないまま、力を振り絞ってお風呂に入れる時は入って、半分起きているみたいに浅い眠りに落ちていく。
毎日ほぼ何もしていないのに、ほぼ何もしていないからこそ時間が過ぎるのが速く感じて、信じられないスピードで日々が過ぎていった。そうして私の二十代前半は終わった。
【絶対に終電を逃さない女】
1995年生まれ。大学卒業後、体力がないせいで就職できず、専業の文筆家となる。様々なWebメディアや雑誌などで、エッセイ、小説、短歌を執筆。単著に『シティガール未満』(2023年、柏書房)、共著に『つくって食べる日々の話』( 2025年、Pヴァイン)がある。
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