その木村拓哉の配役に対しては「こんな運転手いないでしょ」「もっと渋いおじさん俳優がやったほうがいいのでは」といったネット上でのツッコミも見受けられた。
確かに見た目からして「カッコ良すぎだよ」と思う部分もあれど、「いや、木村拓哉が、“普通の人”を演じているからこそいいんだ」となる場面も多々あった。映画の特徴や魅力を記しつつ、その理由もまとめていこう。
生々しいDVの描写に注意
先に注意点を記しておくと、蒼井優と迫田孝也が出演する過去の物語において、DVおよび性暴力の描写がある。表現はやや間接的で、G(全年齢)指定の範疇ではあるのだが、かなり生々しくショッキングでもあるので、ある程度は身構えておいたほうがいいだろう。もちろん、それは物語全体を振り返れば、間違いなく必要だと思えるものだった。なお、インティマシーコーディネーター(性的なシーンの撮影において、監督や関係各所との仲介や調整、俳優の精神的なケアを行う職業)の西山ももこがクレジットされている。
笑顔のニュアンスが変わっていく木村拓哉
木村拓哉はカリスマ性があったり、威圧感もある役柄のイメージも強いが、今回は打って変わって、クタクタになって早朝に帰宅する、経済的な悩みもあるが妻と娘との仲は良い、個人経営のタクシー運転手という庶民的な役柄に扮している。特に素敵だったのが「照れくさそう」な様子と、笑顔のニュアンスが変わっていくことだ。
たとえば、序盤に倍賞千恵子から「あなた客商売なんだから、もうちょっと愛想よくしたらどうなの?」と言われると、すぐに「ふっ」と笑いつつ「どうもすみません」と謝ったりもする。
さらには、「運転手さんの初恋はどんなだったの? お相手はどんな人?」と聞かれると「覚えてませんよ、そんなの」と返して、さらに「ああ、つまんない。照れてるのね?」といじられると「いやいや」とはぐらかして、やはり「ふっ」と笑うのだ。
厳格なマダムかと思いきやいたずらっぽい面を見せる倍賞千恵子がとても愛らしいし、彼女にたじたじな自分にも思わず笑ってしまうような木村拓哉、そんな2人が会話をしていくうちに打ち解けて、いつしか気の置けない友人のようになっていく様が尊い。
実際に山田洋次監督は、制作発表の場では「木村くんの素の魅力を盗み撮りたい」と、さらに撮影中にも「木村くんの笑顔を引き出したい」とずっと言っていたそうで、そのために台本を書き直したシーンや、何度もテイクを重ねて撮ったカットもあったのだという。初めは笑い方に自虐なニュアンスがあると思えた木村拓哉が、心からの笑顔を浮かべるのがどんなときであるかにも、ぜひ注目してほしい。
木村拓哉の表情が一変、その「迷い」の先の言葉に感動がある
そして、倍賞千恵子が重く苦しい過去の物語を話し、現在のパートに戻ると、それまで笑顔だった木村拓哉の表情が一変している。とても真剣で、相手を慮りつつ、どう言葉を選べばいいか迷っていることが伝わるだろう。
さらに、過去の物語を一通り語り終えた後に、木村拓哉は「聞いてはいけないこと」を聞いてしまう。その間違ってしまったことへの焦りを経て、彼女が「こうして今も生きて、自分とこうして話していること」を肯定する言葉。その1つ1つが愛おしい。
その愛おしさは、これまでの「俺様」的な役柄も演じてきた木村拓哉のイメージとの良い意味でのギャップがあるからこそではないか。だからこそ、それまでの迷い方と、その末に口にした優しい言葉が、より感動的になっているようにも思えたのだ。
実際に木村拓哉の衣装合わせを行ったとき、山田洋次監督は「人当たりがいいわけではないが家族思いの優しい男」というイメージを伝え、木村本人の意見も聞きながら、キャラクターが際立つジャンパー姿のメイン衣装が決まったのだそうだ。その甲斐もあって、演技はもちろん、その佇まいからも「いい人」であることが伝わるだろう。
原作『パリタクシー』から変わったことは
『TOKYOタクシー』の大筋の物語は『パリタクシー』に忠実だが、娘の進学にまつわる事情や、昔の日本における女性の抑圧にまつわる事情など、細かなアレンジが効いている。
さらに、『パリタクシー』では「成長した息子の姿がはっきりと映像で見える」のに対し、『TOKYOタクシー』では「顛末が言葉だけで語られる」ことが、より切なさと苦しさを際立たせる効果を生んでいた。だからこそ、前述した木村拓哉が「自分とこうして話していることを肯定する」様も、より尊く感じられるようになったといえる。
さらに、ネタバレになるので詳細は秘密にしておくが、終盤の重要な場面でも大きな変更点がある。それは大きな後悔と反省であると同時に、「1日の寄り道」がよりかけがえのないものにも思えてくる改変であり、だからこそ最後の木村拓哉の表情にも、とてつもない感動があったのだ。『パリタクシー』と『TOKYOタクシー』の違いを見比べてみるのも、また一興だろう。
<文/ヒナタカ>
【ヒナタカ】
WEB媒体「All About ニュース」「ねとらぼ」「CINEMAS+」、紙媒体『月刊総務』などで記事を執筆中の映画ライター。Xアカウント:@HinatakaJeF
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