2017年、ドラマ『コウノドリ』で俳優デビューを果たした宮沢氷魚さん(31)。

「常にいい人でいなきゃ」メンノン出身・31歳俳優が明かす、長...の画像はこちら >>
その後も映画『his』『エゴイスト』、NHK連続テレビ小説『ちむどんどん』、大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』など話題作に次々と出演し、俳優デビューから10年足らずとは思えない活躍を見せています。


現在は、岸井ゆきのさんとW主演を務める映画『佐藤さんと佐藤さん』が公開中です。カップルが夫婦となり、家族として暮らす中で生まれる変化を丁寧に見つめた本作で、宮沢さんは不器用にもがきながら歩むタモツを熱演。作品についてはもちろん、家族を描いた物語にちなみ、お父様との子ども時代の思い出についても伺いました。

「常にいい人でいなきゃ」メンノン出身・31歳俳優が明かす、長男としての葛藤と“初めてやりたいと思えた”俳優への道
1211_宮沢氷魚さん④

いろんな可能性を生み出せる作品だと感じた

――佐藤サチ(岸井)と佐藤タモツ(宮沢)のカップルが歩んだ年月を見つめる物語です。弁護士志望だったタモツは司法試験に受からず、応援のために共に勉強したサチが合格。サチの妊娠をきっかけに結婚するも、すれ違っていきます。本作への出演を決めた理由を教えてください。

宮沢氷魚さん(以下、宮沢):映画というと、大きな出来事が起きて、それに伴って人々が動いていく、という作品が多いですよね。でもこの作品は、とても日常的で登場人物もごく少なく、家族の中で起こり得るちょっとしたハプニングやすれ違いにフォーカスしています。

すごく小さな世界ですが、そこから感じ取るものは観る人によってさまざまで、いろんな解釈が生まれる。そんな多様な可能性を秘めた作品だと感じ、その一部になりたいと思いました。

「常にいい人でいなきゃ」メンノン出身・31歳俳優が明かす、長男としての葛藤と“初めてやりたいと思えた”俳優への道
1211_宮沢氷魚さん⑦
――特に思い出深いシーンを教えてください。

宮沢:喫茶店のシーンです。
ふたりで受けた司法試験の結果、サチの受験番号はあって、僕はなくて……。そのまま向かった喫茶店で、ケンカにつながっていく。あのシーンは何度も撮り直しました。

タモツとしては「まさか」という思いがまずあって、サチが受かっていて「おめでとう」と言いたい気持ちもある。でも同時に、恨みというか妬みの感情がどうしても湧いてしまうし、そんな自分がカッコ悪くて嫌になる。それに、これからどうやって一緒に生活していくのかという不安もある──そうした感情が全部凝縮されているシーンなんです。

セリフ自体は多くなく、むしろ沈黙が多いんですけど、その沈黙をどう埋めていくかを、監督や岸井さんと話し合いながら何度も重ねました。

実年齢より上に見られがち。でも、自分の中では24歳くらい(笑)

「常にいい人でいなきゃ」メンノン出身・31歳俳優が明かす、長男としての葛藤と“初めてやりたいと思えた”俳優への道
1211_宮沢氷魚さん⑨
――喫茶店のシーンでは、感情を大きく揺さぶられました。タモツの心の内は、本当にぐちゃぐちゃだったと思います。宮沢さんは普段、なんでもできるスマートな印象がありますが、タモツのようなネガティブな感情も含めた、複雑でごちゃごちゃした気持ちに共感は。

宮沢:今おっしゃっていただいたように、割とスマートなイメージを持たれることが多いのですが、実際はできないことも全然あります。
タモツにはそうした自分の不器用さみたいなものを応用していったところもあります。

感情面でも、普段はあまり表に出しませんが、もちろん僕もイライラすることがありますし、悲しくなることもあります。それを隠しているので、常に落ち着いて冷静だと思われがちですけどね。

――英語を話される姿もスマートなので、実年齢の31歳よりも、上に見られそうです。

宮沢:そうですね。でも中身は24歳くらいですよ(笑)。

自分の本当にやりたいことを抑えてしまっていた子ども時代

「常にいい人でいなきゃ」メンノン出身・31歳俳優が明かす、長男としての葛藤と“初めてやりたいと思えた”俳優への道
1211_宮沢氷魚さん③
――タモツはサチと自分の現状を比較して、揺らいでいたと思います。宮沢さん自身が、他人と比較して揺れた時期などはありましたか?

宮沢:揺れるというか、「常にいい人でいなきゃ」と思っていた意識がありました。僕は3人兄弟の長男で、弟と妹がいるのですが、トラブルを起こさないお兄ちゃんでいるようなところがあったんです。弟と妹がケンカを始めたら仲裁したりして、親や兄弟に対してバランサーの役割を担っていたんです。

その結果、自分の本当にやりたいことや見せたい一面を抑えていた部分もあったと思います。弟や周りの友達が自由にしているのを見ると「いいな」と思っても、自分にはできませんでした。でも、それをできなくしていたのは、結局、自分自身なんですけどね。


「常にいい人でいなきゃ」メンノン出身・31歳俳優が明かす、長男としての葛藤と“初めてやりたいと思えた”俳優への道
1211_宮沢氷魚さん⑧
――では、芸能界に踏み出したときは、「これをやりたい」という自分の意志を初めて出せた瞬間だったのでしょうか。

宮沢:そうですね。それが親への反抗というわけではなく、たしかに自分が挑戦したいと思ったことに、初めて思い切って動いた瞬間だったと思います。家族も周りも驚いていましたね。

大人になり、父への感謝の気持ちが増している

――ご両親との子ども時代の思い出や、抱いていた思いはありますか?

宮沢:家族の時間を優先してくれたことに、とても感謝しています。父は、休みの日など家にいるときは、おそらく疲れていたはずなのに、起きてきてごはんを作ってくれていました。

「常にいい人でいなきゃ」メンノン出身・31歳俳優が明かす、長男としての葛藤と“初めてやりたいと思えた”俳優への道
1211_宮沢氷魚さん②
――お父様がごはんを?

宮沢:はい、作ってくれました。それだけでなく、一緒に釣り堀に行ったり、遊園地に行ったりもしました。子どもながらに感謝はしていましたが、今思うと、余計にすごいことだったなと感じます。

子役たちとカメラの外でもコミュニケーション

「常にいい人でいなきゃ」メンノン出身・31歳俳優が明かす、長男としての葛藤と“初めてやりたいと思えた”俳優への道
1211_宮沢氷魚さん⑤
――本作にはサチとタモツとの間に生まれた子ども・フクちゃんとのやりとりが登場していました。

宮沢:長い年月を描いた作品なので、3人のフクが登場しています。みんなかわいかったですよ。一番小さなフクは、カメラが回っていないときには僕も抱っこさせてもらって、慣れるようにしていました。
とても穏やかでよく寝る子で、起きてもほとんど泣かないんです。

3人それぞれに、カメラが回っていない瞬間からも得るものがたくさんありました。子どもは1分後に何をしているのか誰にも予想できません。そのリアリティがあったからこそ、タモツとしても自然に呼吸して演じることができました。

「常にいい人でいなきゃ」メンノン出身・31歳俳優が明かす、長男としての葛藤と“初めてやりたいと思えた”俳優への道
1211_宮沢氷魚さん⑥
この作品は短時間を描くものではなく、サチとタモツの出会いから別れまでという長い時間をかけた物語です。画面で観る部分には描かれていない時間も、ふたりには当然あって、そこを監督や岸井さんとクランクイン前のリハーサルで丁寧に埋めていきました。

なので、描かれていない部分も自分たちの中では年月を一緒に過ごしたと消化して演じています。こうしてきちんと流れを作ることで、物語が自然に進んでいく──そこがこの作品の見どころのひとつだと思います。

<取材・文・撮影/望月ふみ>

映画『佐藤さんと佐藤さん』はは全国公開中
(C) 2025「佐藤さんと佐藤さん」製作委員会

【望月ふみ】
70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビューを中心に活動中。
@mochi_fumi
編集部おすすめ