「勝手に歌うのはご法度」な日本のライブ空間
B’zの東京ドーム公演で、後ろから低い声で歌い続ける観客に悩まされたというXでの投稿に多くの共感が集まっています。一緒になって歌うことは迷惑行為だという意見がほとんどでした。山下達郎も、歌う観客について「あんたの歌を聴きに来たわけじゃない」と、冗談まじりに語っていたことがありました。日本では、ライブで勝手に歌うことはご法度であるということが、アーティストとファンの間で一致しているように思われます。一方、海外アーティストのライブ動画などを観ていると、様子が異なります。みんな気ままに楽しんでいます。
筆者が衝撃を受けたのは、ブラジルのミュージシャン、カエターノ・ヴェローゾのコンサートです。日本では芸術性の高いシンガーソングライターとして知る人ぞ知る存在なのですが、客席にはそのような堅苦しさがない。歌い出しから観客が一体となって大合唱するのです。
先日再結成して来日を果たしたイギリスのロックバンド「Oasis」なんかは、コンサート3時間あれば何万人ものファンがずっと歌っている感覚です。さながら、巨大なイギリスのパブといった趣です。
いずれにせよ、他人がどのように振る舞っているかを気にせずに、各々が勝手に楽しんでいます。これが日本のコンサートとの差といえるでしょう。
日本人にとって音楽は「参加」ではなく「鑑賞」
例えば、海外からの観光客は日本のジャズ喫茶に衝撃を受けると言います。こだわり抜いたオーディオシステムと向かい合って、客は一言も発せずに静かにレコードの音に浸る。姿勢を正して音楽を聴く真摯な態度が、海外の人にとってはとても新鮮なのだそうです。
「動」よりも「静」に音楽の喜びを見出す感性
だから、多くの人は見ず知らずの人が歌いだすと不快になるのです。それは実際に騒音であるのと同時に、当たり前にしてきた感性や常識にも反するという意味でのノイズでもあるからです。
B’zのように派手に盛り上がる音楽であっても、居住まいを正して味わいたい。このニュースが問うのは、マナーの問題ではなく、もっと深いもの。
日本人と音楽鑑賞についての、根源的な関わり方を物語っているのです。
<文/石黒隆之>
【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。
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