菊川さんは俳優・タレントとして活躍する一方で、3児の母親として子育てにも奮闘中です。50代を前に仕事への向き合い方も徐々に変わってきたという菊川さんに現在の胸中を聞きました。
15年ぶりの映画出演にプレッシャーも
菊川怜(以下、菊川):15年ぶりということで本当に長くやっていなかったので、決まったときはうれしかったです。こんなに素晴らしい機会をいただけて「本当!?」と思って感激したことと、15年ぶりだったので「ちゃんとセリフを覚えられるかしら?」とプレッシャーもありました(笑)。
――本作は淡路島産の日本酒と、兵庫県を代表的な産地とする酒米・山田錦が題材となっていますが、日本の第一産業を応援する意味合いもあるそうですね。
菊川:わたしはこの作品の前に仕事で酒蔵に行く機会があり、漠然と酒蔵のイメージはあったのですが、初めて今回深く携わり、実感できることが多かったです。
上っ面でなんとなく知った気になるのではなく、当事者意識を持って自分も関わったかのように接すると、モノづくりの大変さを知り、いただくときの気持ちも変わってくると思いました。感謝の気持ちも出てくるし、受け継いで守ってほしいという願いも生まれてきました。
自身も日本酒好きだが「子どもが一緒にいるときは一切飲まない」
菊川:そうですね。理恵ほどじゃないですけれど(笑)。子どもが一緒にいるときはお酒は一切飲まないから、最近は飲んでないですね。若い頃は毎日飲んでましたけど、あとは正直なところ弱くなってしまって、多く飲めなくなったということはあります(笑)。役柄については、理恵のように人の心を動かせることはなかなかできることではないと思うので、本当にすごいなと思いました。
――熱心に仕事に向き合う理恵や酒造の人たちをはじめ、観る人の共感を呼びそうな人たちがたくさん登場しますよね。
菊川:日本酒造りに関わるいろいろな登場人物がいますが、たとえば清水くるみさん演じる女性蔵人の夏美は、日本酒を作りたいという情熱や志を持っています。でも実際は困難にぶつかり、葛藤する姿が描かれ、同じような境遇の人は共感できるところが多いと思います。
あとは後継者問題もありますよね、新しいものを採り入れようとする息子(金子隼也)と、伝統を守りたいお父さん(升毅)の間にはタイムラグがあり、そのことによる葛藤もあるわけで普遍的なテーマだと思いました。
――後継者問題は、日本酒産業だけでなく、日本の第一次産業全体の課題でもありますよね。
菊川:おやっさん(たかお鷹)であればベテランで長くやってきて、すごい腕を持っているけれど、感覚が衰えてしまう。そこで人生の引き際の見極める美学、そして後継者をどう育てようようか、誰もが考える問題だと思うんです。仕事で老年期を迎えて、どうしようかと考えたときに、どう引退するかが大事であり、そこにも共感して観られると思います。けっこう盛りだくさんの映画なので、共感するところは少なくないかなと思います。
事務所の先輩、草笛光子の存在がモチベーションに
菊川:そうですね。ちゃんと集中して、主演として現場に入って務まるだろうかという思いはありました。やる前にできるかなと心配になりがちですが、何事もなんとかなるという漠然とした前向きな気持ちでやらないと何も進まないという心持ちで現場に入りました。
――年齢によって仕事への向き合い方は変わりましたか?
菊川:若い頃は変なエネルギーがあり、怖いもの見たさでパワーも出ていたと思うんです。でもそれなりに年を重ねると、こんなわたしでも空気を読めるように多少はなってきまして(笑)。いろいろと経験するなかで、向き合い方などは変わってきたかなと思います。
事務所の先輩である草笛光子さんが90代で最近も主演映画をされていますが、お仕事が好きだという情熱や熱意を感じますし、健康づくり、体力づくりなど陰でとても努力をされていて、本当にすごいなと思います。それがわたしのモチベーションになっていますので、わたしも末永く続けていけたらと思っております。
我が子には「生きる喜びを見つけられるように」
菊川:もう50歳近い。早いなと思います! でも人生はわからないですよね。わたし自身はこれからの時期も大事で、時間はあっという間に過ぎていくので、その貴重な時間をどういうふうに過ごしていこうかと思っているところです。ただ、まだ小さい子どもの子育ての真っ只中なので、手探りでいろいろなことをしている段階なんです。
人によってはいくつまでに何をするなど、はっきりした目標があるのかもしれないですが、わたしは今をひとつひとつ乗り越えてくという状態です。もう少ししたらいろいろなものが見えて、いろいろと思い描けるようになるのかもしれないですが。
――また、物事が急速に変わっていく時代ですが、お子さんたちにはどう生きていってほしいですか?
菊川:どんな時代でも平和であることが大前提で、そうあってほしいと思いますけど、生きる喜びを見つけられるようになってほしいです。
仕事でもなんでも好きなものを見つけてほしいですが、それは自分にしか見つけられないものじゃないですか。親がどうこういうものではない。自分で切り開いていくものですよね。失敗もしながらたくまくしく生きていく力は、どの時代でも普遍的に必要な力、スキルかなと思うんです。それさえあれば、適応して変化していけるはずですし。
――親の理想を押しつけない考え方は素敵ですね。
菊川:子どもたちのほうがわたしたちの世代より新しい感覚ですから、今も変化し続けていて、彼らから教えてもらうこともたくさんあります。親の先入観で押し付けてしまってはダメだなと思いますね。
<取材・文/トキタタカシ 撮影/塚本桃>
【トキタタカシ】
映画とディズニーを主に追うライター。「映画生活(現ぴあ映画生活)」初代編集長を経てフリーに。故・水野晴郎氏の反戦娯楽作『シベリア超特急』シリーズに造詣が深い。
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