SNSを中心に“虚弱”というキーワードが盛り上がりを見せています。これは、病気ではないが体力がない、体調を崩しやすい、疲れやすい…などの体質をざっくりと指す言葉で、「自分も当てはまる」「同じような人がほかにもいることがわかって嬉しい」などの反響が相次いでいます。


虚弱体質のリアルをつづったエッセイ『虚弱に生きる』を出版した絶対に終電を逃さない女さんと、「自分も幼少期、虚弱だった」という文筆家のひらりささんが対談。なぜ今虚弱という言葉が受けているのかや、欲望と体力の関係などについて語りました(この記事は、12月7日に大盛堂書店で行われたトークイベントの内容を再編集したものです)。

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コロナ禍を過ぎたからこそ「虚弱」が注目された?

ひらりささん(以下、ひらりさ):終電さんは大学生の頃にガクッと体力が落ちて、体力のない20代を過ごしてきたそうですが、虚弱体質であることを発信し始めたのはここ数年のことですよね。

絶対に終電を逃さない女(以下、終電):そうですね。X(元Twitter)で日々の体調不良のことをつぶやいてはいたんですけど、2024年に同じく虚弱体質のライターであるヒオカさんという方が「対談しませんか?」と声をかけてくれて。その対談記事に反響があったので、虚弱をテーマにしたエッセイを書いたらさらにバズり、単著の出版につながりました。

ひらりさ:その対談をきっかけに「虚弱」という言葉を使うようになったんですね。

終電:「虚弱」と言ってしまっていいのだろうかと思っていたんですよね。それと、体調が安定しないことを公にするのはビジネス的にも不安があって。でも発信してみたら、言ってよかったんだ、むしろこれが仕事になるんだと気づきました。

ひらりさ:2020年代序盤って、コロナ禍真っ盛りだったじゃないですか。みんなが危険にさらされていて、病気に対する危機感があったから「平常時でも具合悪い」という話が注目を集めることは難しかったんじゃないかな。でもコロナ禍を抜けて、後遺症に悩む方や、運動量が減って体調不良になる方が出てきたりして。


また働き方にも注目が集まり、「コロナ前の働き方って、そもそも無理してきたんじゃないか」という気づきが発見されたと思います。「虚弱」が今受け入れられているのは、そんなタイミングもあったのかなと感じました。

終電:鋭い分析だと思います。私にはその観点はありませんでした。

体力がなくて働けないせいで年収が100万に満たない

ひらりさ:私は会社で働いているのですが、大学生のインターンの子と喋っているときに、「今の大学生は、10代の頃コロナ禍で外に出て活動していないので、胃が弱いと思う!」という持論を披露されて(笑)。そうか、世代的な影響もあるんだなと。

なので、終電さんの発信はエポックメイキングだなと思います。「『体調悪い』って言っていいんだ」って、勇気をもらう人も多いのではないでしょうか。

終電:「自分と同じような人がいることがわかって救われた」など、予想以上に好意的な反応が多かったですね。ただ、「体調が悪いのは規則正しい生活をしてないからだ」とか、「運動をすれば治る」みたいに言ってくる人も一定数います。なので、『虚弱に生きる』では先回りして、病院の受診歴や実践している食生活や運動、体力がなくて働けないせいで年収が100万に満たないことまで、想定されるあらゆる反論に対する反論を書きました。

体力がないから「年収100万円未満」…“虚弱に生きる”30歳女性が伝えたいこと
ひらりさ×絶対に終電を逃さない女
ひらりさ:想定される反論をすべて潰しつつ、ちゃんと1冊の本として完成している完成度がすごいですよね。

ちなみに私は多動気味ですが、幼少期は虚弱だったんです。
習い事で水泳をしていたんですけど、25メートル泳ぐだけで顔が真っ赤になるので、恥ずかしくて辞めちゃって。家にある家庭の医学辞典みたいな本で調べたら、「それは虚弱です」と書いてあったのが、虚弱との出会いですね。持久力を要する運動をしないようになったんですが、大人になって振り返ると、虚弱だからこそ本当は運動しておくべきだったなと。30歳を過ぎてからパーソナルトレーニングやバレエ教室に通うようになり、試行錯誤している話を、『まだまだ大人になれません』に書いています。

終電さんは運動が苦手なのに、体力をつけるためにラジオ体操や卓球など小さなことを積み上げていく様子がこの本には書いてあって、成長ストーリーみたいな面白さもあります。

終電:本当に運動は嫌いなんです。子どものころ、体育の授業でみんなに笑われたりして、運動が恥と結びついてしまったので。でも、追い込まれて仕方なく運動するようになって、少しずつ持久力がついたりして、小さな積み重ねが大事なんだってことは実感しています。

体力がないと、そのときの気分で動くことができない

ひらりさ:普通の人ならくじけそうなところを、淡々と積み重ねていく。運動への向き合い方といい、自炊への向き合い方といい、終電さんのストイックさはすごいと思います。

終電:本の中でもストイックという言葉を使ったし、人にもストイックと言われることが多いんですけど、多分厳密な意味では、私はストイックではないんですよ。無理に禁欲してるわけじゃなくて、そもそも欲があんまりないんです。
『まだまだ大人になれません』で、ひらりささんがマンションを買ったり、突発的に旅に出たりしている姿を読むと、そんなふうに活動的で欲があるのがうらやましくて。

ひらりさ:じっとしていられないんですよ。私の友だちで、「待てば無料」の漫画アプリを、毎朝朝7時から無料で読めるように常にマネジメントして、絶対に全部無料で読んでるという人がいて、そんな話を聞いただけでムズムズする! 私はまったく待てなくて、漫画アプリは絶対にすぐ課金しちゃうし、なんならその漫画アプリの広告で出てくるゲームにも結局課金してしまうという(笑)。

終電:私は集中力が基本ないし、何かに夢中になることがないので、待てるタイプですね。ドラマを一気見しちゃうとか、映画を夜通し見るとかもわからない。そもそもそれをやる体力がないから。

ひらりさ:体調優先で、家に帰って寝るために、絶対に終電を逃さない。それがペンネームに繋がってくるんですね。

体力がないから「年収100万円未満」…“虚弱に生きる”30歳女性が伝えたいこと
ひらりさ×絶対に終電を逃さない女
終電:ひらりささんの“今を生きている”感って、体力がある人ならではだと思います。体力がなくて体調を崩しがちだと、先のことを考えなければいけない。勢いで今の気分で動けない。だからこそ、勢いのある生き方をしている人に憧れます。


ひらりさ:そうですね。ただし、世間にインストールされた欲に振り回されている部分もあると思います。

終電:欲がないと、他人の欲に振り回されて生きることになりがちなんですよ。身近な人に「こうしたい」って言われて、それに付き合って…みたいな。でも、ひらりささんが言うように、一見欲のある人も、自分の欲じゃなくて、他人の欲に振り回されてるのかもしれませんね。

ひらりさ:ちなみに、本が売れて何か状況は変わりましたか?(※『虚弱に生きる』は2025年12月時点で累計2万部を突破)

終電:多少収入を得たので、スーパーでの買い物でそんなに値段を気にせずに済むようにはなりました。こないだ、鯛の刺身を買ってみたんです。健康のためには魚を食べたほうがいいけど、刺身は高くてあんまり買えなかったから。そしたらアニサキスに当たったような症状になって、死ぬかと思いました(笑)。

やっとちょっと収入が入って、ちょっと贅沢しようと思って鯛の刺身を買っただけなのに、なんでこんな目に合うんだ、なんて理不尽なんだろうって。蕁麻疹も出たりして、それから調子が悪いですね。

ひらりさ:つらい! けど、作家としての運がある(笑)。


【絶対に終電を逃さない女】
1995年生まれ。大学卒業後、体力がないせいで就職できず、専業の文筆家となる。様々なWebメディアや雑誌などで、エッセイ、小説、短歌を執筆。単著に『虚弱に生きる』、『シティガール未満』、共著に『つくって食べる日々の話』がある

【ひらりさ】
平成元年、東京生まれの兼業文筆家。オタク女子ユニット「劇団雌猫」メンバーとしてデビュー。女オタク文化からフェミニズムまで、女性と現代社会にまつわる文章を執筆する。最新刊に『まだまだ大人になれません』。12/27に本屋B&Bにて歌人・穂村弘との刊行記念トークイベントを予定

<撮影・文/女子SPA!編集部>

【女子SPA!編集部】
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