2025年秋クールはとにかく良作が多く生まれました。そんななかで、ひと際その演技が印象的だった俳優がいます。
今クールも全ドラマをチェックしたアラフォー筆者独自の目線で選んだ、秋ドラマベスト俳優をご紹介します。
※一部作品のネタバレを含みます。

手越祐也『ぼくたちん家』

「存在感がエグい…」秋ドラマで視聴者を釘付けにした俳優3選。...の画像はこちら >>
まず紹介したいのが『ぼくたちん家』(日本テレビ系)に出演した手越祐也です。及川光博が演じる心優しき飼育員・波多野玄一と、トーヨコで生きる15歳の少女・ほたる(白鳥玉季)との共同生活を送ることになる中学教師・作田索を演じました。

人生にも恋にも冷めきったようなクールなゲイ。そんな、これまでの彼自身のパブリックイメージとは真逆ともいえるキャラクターを、静かに、そして熱く演じました。

パブリックイメージを脱却した繊細な演技

今作での手越は、トレードマークともいえる華やかな“陽”のオーラを封印。目線や間、言葉の温度で“諦め”を表現。その完成度は非常に高いものでした。目線や間、言葉の温度で表現した“諦め”が驚くほど秀逸でした。ふとした瞬間に見せる、世の中への期待を捨てたような冷めた眼差しや、誰にも踏み込ませない距離の取り方がリアル。

索は、玄一の不器用な優しさやほたるの飄々とした孤独感や懸命さに触れることで変化していきます。頑なだった索の内面が揺れ動く様子や、知らないうちに人を守りたいという気持ちが芽生えるさまを表情ひとつで納得させる手越祐也の演技力に驚かされました。

“アイドル”という枠を軽々と越え、俳優として新たな顔を提示した今作。
次はどんな役で新たな魅力を発揮するのか、期待が高まります。

竹内涼真『じゃあ、あんたが作ってみろよ』

「存在感がエグい…」秋ドラマで視聴者を釘付けにした俳優3選。最も心を揺さぶったのは“平凡”を絶妙に演じきった45歳俳優
画像:TVerより
次にご紹介したいのが、『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(TBS系)で主人公・勝男を演じた竹内涼真です。外見はハイスペックなのに、中身は「男は外、女は家庭」という昭和的価値観を引きずる、いまの時代で嫌われやすいタイプの男性。

自分では“完璧”に演出したプロポーズを、恋人・鮎美(夏帆)にこっぴどく断られたことをきっかけに、価値観が崩れ、自分の未熟さと向き合っていく物語を背負いました。

“ダメさ”を引き受けてこそ生まれる、人間の愛おしさ

この役の難しさは、ハイスペック男子として“完璧”さを体現しながらも欠点をさらけ出し、愛されるキャラクターに仕上げるところです。そんな難役を、竹内は持ち前のスタイルと演技力でまさに“完璧”に演じ切りました。

料理を通して自分の無知と向き合いながら、みっともなく転び、再構築をくり返していく。スマートなイメージの強い竹内が、傲慢さも無知も不甲斐なさもためらいなくさらけ出すから、勝男の痛さがちゃんと痛い。

なのにどこか憎めないのは、負けを認めた瞬間の“人間らしさ”を竹内が絶妙に表現しているからです。笑えるのに胸が熱くなる、滑稽なのに切実。そんな勝男をチャーミングに創り上げた竹内はまさに主演男優賞級といえるでしょう!

本作で改めて竹内の演技に魅了された方は、配信されたばかりのNetflix映画『10DANCE』も必見です。全く違う魅惑的なラテンダンサー役で新境地を開拓しています。竹内涼真……恐るべし。

妻夫木聡『ザ・ロイヤルファミリー』

「存在感がエグい…」秋ドラマで視聴者を釘付けにした俳優3選。最も心を揺さぶったのは“平凡”を絶妙に演じきった45歳俳優
画像:TVerより
最後に紹介するのは、今さら紹介するのも恐縮な実力派のベテラン俳優・妻夫木聡です。この秋、日曜劇場『ザ・ロイヤルファミリー』(TBS系)でもっとも心を揺さぶる名演を見せてくれました。


振り返ってみると2025年はまさに“ブッキー”イヤー。朝ドラ『あんぱん』では、漫画家・やなせたかしをモデルにした柳井嵩(北村匠海)が軍隊で出会う上官の一人・八木信之介を演じ、戦後の沖縄を舞台にした映画『宝島』では刑事・グスク役の主演を務めています。両作品とも戦争の悲惨さを役柄を通して鮮烈に描き出し、観る者に強い印象を残しました。

受けと嘘のない涙で魅せる、妻夫木の真骨頂

『ザ・ロイヤルファミリー』では、税理士の仕事を通じて馬主・山王耕造(佐藤浩市)と出会い、彼の専任秘書として競馬事業を支える栗須栄治を演じました。先述した2作品の役柄に比べると少し地味な役どころかもしれません。しかしある意味で、この役は妻夫木にしか演じられなかったのではないでしょうか?

“平凡”という演技はある意味難しいものですが、妻夫木はその“平凡”を絶妙に演じ切り、周囲の個性的なキャラクターたちを受け止めつつ物語を進めました。40代になり酸いも甘いも経験してきた彼自身の度量の深さが「受けの芝居」として秀逸に光りました。また、彼が流した解像度の高い“涙”に、もらい泣きした方も多いのではないでしょうか。

彼の“涙”は演技であることを感じさせません。山王をはじめ多くの仲間の感情を受けとってきた栗須としての“涙”。まさに本物であり、何度も心を揺さぶられました。妻夫木の受けと涙があったからこそ、壮大な“継承”の物語が成立したといっても過言ではないでしょう。
俳優としての円熟味が増した妻夫木聡の真骨頂を、この秋クールは存分に堪能させてもらいました。

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2025年の秋クールも、多くの俳優たちがそれぞれの“イメージ”を更新し、演技で作品の体温を上げてくれました。そんな彼らの熱演を振り返りながら、改めて作品を見返してみるのも贅沢な時間の過ごし方かもしれません。

<文/鈴木まこと>

【鈴木まこと】
日本のドラマ・映画をこよなく愛し、年間でドラマ・映画を各100本以上鑑賞するアラフォーエンタメライター。雑誌・広告制作会社を経て、編集者/ライター/広告ディレクターとしても活動。X:@makoto12130201
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