2010年にTBSに入社し、『朝ズバッ!』『報道特集』などを担当したのち、2016年に退社したアンヌ遙香さん(40歳・以前は小林悠として活動)。

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 TBS退社から8年経った今年、紆余曲折を経て20年生活した東京を後にして活動拠点を故郷北海道に戻したアンヌさん。
アラフォーにして再スタートを切った「出戻り先」でのシングルライフの様子や心境をつづる連載です。
 第65回となる今回は、アンヌさんが年末年始におすすめしたい映画について綴ります(以下、アンヌさんの寄稿です)。

ぜひ観てほしい! 映画『サブスタンス』

「女ばっかり年齢と戦わせられて、やってられねーよ!」40歳・元TBSアナが傑作映画から受け取った“強烈な”メッセージ
映画『サブスタンス』DVD(ギャガ)
 年末年始、今年は人によっては9連休ということで、おうちでゆっくりされる方も多いのではないでしょうか?

 私は個人的に『スター・ウォーズ』シリーズを公開順に見ていくチャレンジをしたいなぁなんて漠然と考えていましたが……私がぜひ皆さんに推したいのは、Prime Videoでも配信が始まったデミ・ムーア主演の『サブスタンス』(監督/コラリー・ファルジャ)。

 あまりの、いろんな意味での「傑作」ぶりに、みんなに観てほしい! と鼻息を荒くしておる私なのです。

 主人公は50歳の誕生日を迎えた元人気女優のエリザベス(デミ・ムーア)。再生医療“サブスタンス”に手を出します。薬を注射するやいなやエリザベスの中から上位互換体「スー」(マーガレット・クアリー)が出現。若さと美貌だけでなく、エリザベスの経験を武器にスーは、スターダムを駆け上がっていきます。

 一つの心をシェアする2人には、「1週間ごとに入れ替わらなければならない」という絶対的なルールが存在していましたが、しだいにスーはルールを破り始めていく……という話。

 新感覚のホラーでもあり、しかし女性監督ならではの、「女ばっかり年齢と戦わせられて、やってられねーよ!」という強烈なメッセージもあり、これまでなかったまったく新しい映画体験を与えてくれる作品です。

とある映画サイトの一文に強烈な違和感

「女ばっかり年齢と戦わせられて、やってられねーよ!」40歳・元TBSアナが傑作映画から受け取った“強烈な”メッセージ
アンヌ遙香さん
 実は本作品を紹介しようと思いたった際、ある映画サイトでこの作品のあらすじを参照したときに「若さと美に執着するトップ女優の狂気」との紹介文があり、私はこの一文に強烈な違和感を覚えたのでした。

 エリザベスは元トップ女優で現在は朝の番組でエアロビのインストラクターとして活動しており、はっきり言ってスタイル抜群。お顔も美しく、こんなに素敵な50歳、あこがれて仕方ない! と私なら思うのですが、彼女に年齢を理由にして「降板」をせまり、町中の若い女を集めて彼女の代わりになる女を探せ、と騒ぎ立てたのは男性起用者。

「若さと美に執着」「狂気」という表現は、まあ当たらずといえども遠からずですが、しかし彼女に「より若い肉体を」「より美しい自分を」と思わせてしまった原因は何なのかといえば、それは周囲が、社会が、そうさせてしまったわけです。


必ずしも美しさ=若さとはならない

 時折彼女のエイジングを重ねた肌や、骨っぽい筋張った背中を強調するショットが入りますし、それと対比させるかのようにいわゆる「より若く、より美しい」自分であるスーの、パンっと内側からはるような肌の美しさ、さわりたくなるような魅力的な肉体、かわいらしいお顔が延々と映し出されるのも印象的。たしかに若さは美しいですが、美しさ=若さ、とは必ずしもならないはず。

 それを印象付けたシーンが、街中でたまたま再会した学生時代の同級生との場面。

 事故を起こし、身も心もほとんどボロボロの状態で病院からでてきたエリザベス。そこに、にこやかに心から嬉しそうに声をかけてきた男性、彼は「久しぶり! 学生時代以来だね、君はあの時からずっと変わらなくて、世界で一番美しくて魅力的な女性だね」と、「今の、50歳の彼女」のありのままに対して深い愛情に満ちた言葉をかけてくれるのです。

 彼のような「50歳になった自分」そのものを愛してくれる存在が身近に早い段階からいたのなら、もしかしたら彼女はサブスタンスを選ぶこと、なかったのかもしれません。しかし一部の心無い人の辛辣な言葉は大きな重しとなり彼女の日常を黒く塗りつぶし、結局は、仕事のためにも、自分の承認欲求のためにも「より若い美しい肉体を手に入れたい」という気持ちが勝ってしまうのでした。

ただの「狂気」で済まされない強烈なメッセージ

「女ばっかり年齢と戦わせられて、やってられねーよ!」40歳・元TBSアナが傑作映画から受け取った“強烈な”メッセージ
アンヌ遙香さん
 SF要素もあり、ポップに描かれている部分もありますが、女性も、男性も、この作品を観れば絶対に何か所かドキッとするタイミングがあるはず。

 パッと聞いたらひどい暴言だけど、これに近いこと、女性のみなさん言われてきませんでしたか? もしくは、あなたは誰かに対してこんなこと、感じたことありませんでしたか? とみんなに問いたくなるような言葉もたくさん。

 それもそのはず、女性監督・ファルジャ氏が「これまでの自分の映画キャリアの中で経験してきたことをもとにこの映画を作った」と断言しているのですから。本作品はフィクションですが、根底にあるのは不条理な若さ信仰やルッキズムへの強烈な疑問符。社会への強い抗議そのものなのです。

 ネタバレに繋がりますので詳細は避けますが、エリザベスに降板をもちかける男性が「50になればアレがなくなる」との発言をするシーンがあり、おそらくこれは生理のことを指している模様。
なんてこと言うんじゃボケ! と憤りながらそのシーンを観ていましたが、エンディングに近づいてきたときに「そんなに血がでることがえらいなら、思う存分見せてやるわ!」と観客の度肝をぬくようなあるシーンにその伏線がつながっていたり。

 ただの恐怖や「狂気」では済まされない、「誰のせいでこうなったの? ちゃんと目に焼き付けてよ?」という強烈なメッセージがもうすごいすごい。

 年齢、性別に関係なくすべての人が観るべきサブスタンスとともに、どうぞ良いお年を。

<文/アンヌ遙香>

【アンヌ遙香】
元TBSアナウンサー(小林悠名義)1985年、北海道札幌出身、在住。現在はフリーアナウンサーとしてSTV「どさんこWEEKEND」メインMCや、情報番組コメンテーターして活動中。北海道大学大学院博士後期課程在籍中。文筆家。ポッドキャスト『アンヌ遙香の喫茶ナタリー』を配信中。Instagram: @aromatherapyanne
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