40歳を超えてから、スタートアップ企業「令和トラベル」に転職。
第29回となる今回は、大木さんとAIの関係性について綴っています(以下、大木さんの寄稿)。
私たちはAIと友達になれるのか?
みなさんはAIをどのくらい使っていますか?2026年。振り返ってみると、AIはすっかり私たちの生活に普及し、何をするにもAIと相談する。意思決定さえAIと一緒に行う。そんなことが当たり前の世の中になりました。
ChatGPTのことを「チャッピー」と呼んで、「私、チャッピーと話している時間が一番長いかもしれない」そんな言葉を口にする人も、周りにもちらほらいたりしませんか?
私の生活の中にもAIは深く入り込んでいます。実際、AIを使わない日はほとんどありません。それでも私は、AIを「友達」とは呼べない。
今日は、その理由について綴ってみたいと思います。
私にとって欠かせない「おしゃべり」と、友人の存在
コロナ禍をきっかけに強く自覚したのですが、私は気の置けない友達とのおしゃべりが本当に好きです。それは私にとって、大きなストレス発散の糧でもあります。人と会えない状況が続いたコロナ禍では、その「当たり前」が奪われて、強いフラストレーションを感じていました。
客観的に見れば、友達とのおしゃべりは何かを生み出すわけでもなく、オチがあるわけでもない。時には会話が噛み合っていないこともある。側から見ると、ただ言いたいことを言い合っているだけの時間に見えるかもしれません。
それでも私は、あの時間がとても有意義で、自分にとって必要不可欠なものだと感じています。
ただただ自分の話を聞いてほしいだけなら、そこに意味がほしいなら、正直、今はAIのほうが優秀なのかもしれません。
AIは24時間365日いつ話しかけても、嫌な顔ひとつしないで付き合ってくれて、否定せず、前向きな言葉を返してくれる。過去話したこともちゃんと覚えていてくれる。
効率だけを考えたら、今の時代、人と会い、人と話すことは実はすごくコストの高い行為になってきているんですよね。
それでも私はなぜ友人と話したいのか。
ちょうどつい先ほど、学生時代の友人たちが、LINEグループで「東京で集まろう」という話していました。私は今回ハワイに引っ越してきてしまったので、その集まりに行くことができませんでした。
それで、とても残念な気持ちになったんですよね。私はどうして友人とこれほどまでに会いたいんだろう。そう考えたのが、今日このテーマを書こうと思ったきっかけとなりました。
独身の友人が漏らした「恐怖」から考える、AIが友人になれない理由
あるとき彼女が、こんな話をしてくれました。
「寂しいとかはないんだけど、人生を“記憶してくれる人”がいないのが、すごく不安になるんだよね」
私や他のメンバーには、それぞれ家族がいます。すべてではなくても、同じ家に住むパートナーと、今日あった出来事や感じたことを、自然と共有していく。
でも、ひとり暮らしの彼女には、それがない。
彼女は「人生が誰の記憶にも留まらなくて、透明になって流れていくような感じがする」と言っていました。
その言葉を聞いたとき、彼女が求めていたのは、単なる“話し相手”ではなく、自分の存在をつなぎとめてくれる場所だったんじゃないか、そんなふうに思いました。
AIに毎日話しかければ、そのやり取りはすべてログとして残ります。それはきっと、完璧な自伝になるでしょう。
決定的な違いは何か。
それは、「共感」だと思うんです。AIには「共感」がありません。
もちろん「悲しかった」と言えば「それは悲しかったですね」と返してくれる。でもそれは膨大なデータから算出された言葉であって、AI自身がその経験をしたわけではない。
その言葉に、意味や重みがないことを、私たちはどうしたって知ってしまっている。
だから、AIはきっと、私の友人が欲しかったような「心の拠り所」にはならないんじゃないかなって思ったんです。
そう考えたとき、これこそが、私がAIを友達と呼べない最大の理由なのかもしれないと思い至りました。
AIにはない「熱の交換」。人間は「共感」で記憶する
そもそも「共感」というのは、相手の感情や表情、声の揺れ、その場の空気も含めて、自分の経験と照らし合わせて、受け取るものだと思っています。悲しそうにしている友人を見れば、こちらの心も痛むし、笑えば、理由はよくわからなくても、つられて笑ってしまう。
そうやって、人の心や体が震えたときの感覚が、脳に「記憶」として刻まれていく。
私が友人との時間を欲しているというのは、きっとこの「熱の交換」があるからなんだなと思うんです。
「わかる!」と頷き合った瞬間、お互いの感情が相手の中に焼きついていく感覚。この体験は、AIには置き換えられません。
一方で、人間のコミュニケーションには、いい意味での「ズレ」もあるな、と感じています。
AIは、起きたことを100%正確に記録し、そのまま取り出して、整えて返してくれる。でも、友人は違う。
「優紀ってあのときこうだったよね」
「あんなこと言ったよね」
そう言われても、私の記憶には残っていないことがある。
さらに、同じ出来事を見ていても、まったく違う角度から受け取っていることがあるんですよね。でも、それこそが人間らしいのではないかとも思うのです。
ズレがあるからこそ、友人は「人生の証人」になれる
そういう「感情を含んだズレ」は、AIにはありません。
だからこそ、他者の人生を記憶し、その存在を証明する存在として、友人は「証人」になっていくのだと思います。
それは、完璧にコピーされた完璧な記憶ではなく、曖昧で、不完全で、でも確かにそこにあった時間を、生き証人として覚えていてくれる存在。
話を聞いていても、ズレているな、と感じることもたくさんある。誤解されているな、と思うこともある。
でも、それこそが人間らしくて、愛おしい。
だからきっと、彼女が欲しかったのは、完璧なログとして残る人生ではなくて、自分だけの視点ではなく、他人という視点を通して、誤読も含めて記憶される人生だったんじゃないか。
そんなふうに思いました。
私たちは人生の証人になり合いながら生きている
AIは100%事実を記録してくれる、とても便利なツールです。そこに誤読やズレはありません。それでも、私はやっぱりAIは友達とは呼べない。
友達との無駄話は単なる暇つぶしではなく、共感を通した「熱の交換」。
友達と話す時間には、「私の人生の目撃者になってね。その代わり、私もあなたの証人になるから」。大げさに言えば、そんな意味合いが含まれているのではないでしょうか。
だから私は、距離があっても、やっぱり友人に会いたいと思うし、チャンスがあれば会いにいくのだと思いました。いくらAIが当たり前の世の中になって、究極まで効率化が進んだとしても、私はあの愛すべき無駄な時間をやめられません。
<文/大木優紀>
【大木優紀】
1980年生まれ。2003年にテレビ朝日に入社し、アナウンサーとして報道情報、スポーツ、バラエティーと幅広く担当。21年末に退社し、令和トラベルに転職。旅行アプリ『NEWT(ニュート)』のPRに奮闘中。2児の母
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