そんな宇垣さんが映画『手に魂を込め、歩いてみれば』についての思いを綴ります。
●作品あらすじ:イスラエルによるガザ攻撃が続く2024年、イラン出身の映画監督セピデ・ファルシは、現地の声を世界に届けるため、ガザ北部に暮らす24歳のパレスチナ人フォトジャーナリスト、ファトマ・ハッスーナとのビデオ通話を軸に映画制作を開始する。祖国に戻れない監督と、ガザから出られないファトマ。画面越しの対話が、二人の間に深い絆を生んでいく
凄惨の日常のなかでも笑顔を自分の人生を歩む女性
私は彼女の笑顔に「人は強制収容所に人間をぶちこんですべてを奪うことができるが、たったひとつ、あたえられた環境でいかにふるまうかという、人間としての最後の自由だけは奪えない。」という一文を思い出していた。
それは、アウシュビッツを生き延びたユダヤ人の精神科医による手記『夜と霧』に記されている。彼女を追い詰め、日夜爆撃の恐怖にさらしているイスラエルという国は、ホロコーストを生き延びたによってユダヤ人たちによって建国された。皮肉というには、人が死にすぎている。
ビデオ通話に割り込む爆撃やドローンの音
生まれ故郷には帰れなくとも仕事で世界を旅するファルシの窓から見る景色と、どうしたってそこから出られないファトマの窓から見る景色の違いに言葉を失う。電波は時折途切れ、ビデオ通話に割り込む爆撃やドローンの音が見ているこちらの心臓も鷲掴みにする。
状況が悪化するにつれ徐々にファトマの笑顔が減り、言葉がおぼつかなくなっていく様子に、胸が痛んで仕方なかった。
無関心であることは、誰かの痛みを否定するほどの力がある
でも今なら、言える。やっぱり見なくてはならない、知らなくてはならない。無関心であることは、誰かの痛みを否定するほどの力があるのだから。
この戦争を未だ止められない世界に生きる者として、受け止める義務がある。変えられないなんて、思わない。
●『手に魂を込め、歩いてみれば』
配給/ユナイテッドピープル 全国順次ロードショー中
<文/宇垣美里>
【宇垣美里】
’91年、兵庫県生まれ。同志社大学を卒業後、’14年にTBSに入社しアナウンサーとして活躍。’19年3月に退社した後はオスカープロモーションに所属し、テレビやCM出演のほか、執筆業も行うなど幅広く活躍している。
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