「今年のお年玉、これでお願いします」

毎年年末は遠方の実家で過ごすという三浦かなさん(35歳・仮名)。年末感もまだ薄い12月上旬、突然スマートフォンに一通のメッセージが送られてきました。
文面の直後に貼られていたのはPayPayの支払い(請求)リンク。受け取った相手が簡単にお金を支払うことができるサービスです。

「詐欺だと思った」12月上旬に届いた突然の請求リンク

「5000円でお願い」甥っ子から届いた“お年玉請求LINE”...の画像はこちら >>
「メッセージには挨拶も前置きもなかったので、正直、一瞬『詐欺だ』と思いました(笑)。最近よくあるじゃないですか。『今からコンビニに行って送金してください』『Amazonのギフトカードのコードだけを送ってください』みたいなやつ。ついに私のところにも来たのかと。一瞬本気で身構えました」

送り主は、普段ほとんどLINEのやり取りをしない中学2年生の甥っ子。直接会う機会も、年末年始に一度ほどだそうです。

「メッセージが届いたのは12月3日。お正月の話題をするには、あまりにも早すぎます。しかも挨拶もなく、突然お金の話。いきなりお金を請求するリンクだけが送られてきたので、頭が一瞬ついていかなかったです」

年末年始は、家族や親戚との距離感が少しだけ近づく季節です。だからこそ、最初に届いたのが挨拶ではなく“請求リンク”だったことに、三浦さんは戸惑いを覚えたといいます。


「せめて一言、元気ですかがあれば」金額まで一方的に指定され

「5000円でお願い」甥っ子から届いた“お年玉請求LINE”に絶句。本人の母親に伝えると“まさかの返答”
画像はイメージです(以下同)。
違和感を覚えたのは、リンクが送られてきたこと自体よりもその内容でした。

「全体的なメッセージというか、なんだか言葉が完全に業務連絡なんです。『今年のお年玉の件です』『これでお願いします』みたいな感じで。せめて一言、『元気ですか』とかあれば、全然印象が違ったと思います」

しかも、その後に続いたのは金額の指定でした。

「何も金額については相談していないのに、一方的に5000円って書いてありました。『え、金額ってもらう側が決めるんだっけ?』と、そこでまた思考が停止して……」

お年玉の金額をめぐる価値観は、家庭や地域によってもさまざまです。ただ、これまで“渡す側が決めるもの”だったはずの金額を、もらう側が事前に指定する形に変わったとき、そこには単なる世代差以上のズレが生まれているようにも見えます。

三浦さんは、これまで毎年3000円をお年玉として渡してきました。

「去年くらいに、“もうすぐ中3だから、少し上げてほしい”みたいな話を家族経由で聞いたことはありました。でも、具体的な金額の相談はしていなかったんです」

「柔らかい借金の取り立てみたい」募るモヤモヤと既視感

それが、いきなりの5000円指定。

「金額を上げるかどうか以前に、『まず相談じゃない?』っていう気持ちが一番大きかったです。正直、ちょっと柔らかい借金の取り立てみたいだな、と思ってしまいました」

冗談めかして話しながらも、三浦さんの表情は複雑でした。

三浦さんが「やっぱり変だな」と感じたのは、その後のやり取りでした。

「『いつごろ送ってもらえますか?』とか、『最悪、遅くても12月中旬までにお願いしたい』とか、期限を区切ってくる感じもあって……。
なんか腑に落ちない感覚というか、心の中にモヤモヤが溜まっていましたね。文章を読み返していたら、最初は『無機質な業務連絡みたいで寂しいな』と思っていたところが、ときどきネットの動画でよく見る“詐欺DM”と構文がすごく似ていることに気づいたんです」

「期限までにご対応ください」

「URLはこちらです」

「まだですか?いつ頃いけそうですか」

甥っ子からのメッセージが、ほぼ詐欺メッセージと変わらないという事実に三浦さんは思わず苦笑します。

「もちろん詐欺じゃないって分かっているんですけど、『欲しいのはお金だけなんだな』っていう感じが、ちょっとしんどかったですね」

「今どきは普通」親の言葉に困惑。効率化で消える“気持ち”

「5000円でお願い」甥っ子から届いた“お年玉請求LINE”に絶句。本人の母親に伝えると“まさかの返答”
1225_お年玉③
メッセージを送ってきた甥っ子の家では、普段からPayPayや振り込みでお金を渡すことが多いそうです。

「一連のできごとを妹に聞いたら、謝られるどころか『今どきは普通だよ』って言われました。その時代によって常識は変わるかもしれないけど、わが子が挨拶もなしに人にお金だけを請求するようなことをしたら、私だったら『そんなの普通だよ』とは言えません。……実際、去年お年玉を現金で渡そうとしたら、甥っ子本人から『振り込みの方がラクだから嬉しい』と言われて、びっくりしたこともあります」

「理屈と効率がいいことは分かるけれど、なんだかお年玉やお小遣いを渡す側の“気持ち”まで省略されているみたいで引っかかる」と三浦さん。

「昔って、『お年玉って、もらえたらラッキー!』くらいのものだったのに、いつの間にか『もらって当然』『あ、どうせくれるなら、一番効率のいい形でお願いね』みたいな空気になっている気がして。そこが一番、違和感を抱いたし、怖かったですね。こんな考えも古いのかな……」

リンクひとつで完結するやり取りは、確かに効率的です。

ただ、その効率の良さが、年に一度の行事から“間”や“気持ち”を削り取っているようにも見えます。

<取材・文/青山ゆずこ>

【青山ゆずこ】
漫画家・ライター。
雑誌の記者として活動しつつ、認知症に向き合う祖父母と25歳から同居。著書に、約7年間の在宅介護を綴ったノンフィクション漫画『ばーちゃんがゴリラになっちゃった。』(徳間書店)、精神科診療のなぞに迫る『【心の病】はこうして治る まんがルポ 精神科医に行ってみた!』(扶桑社)。介護経験を踏まえ、ヤングケアラーと呼ばれる子どもたちをテーマに取材を進めている。Twitter:@yuzubird
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