家庭の外で起きるものだと思われがちな性被害ですが、身近な関係の中で直面することもあります。「あくまで冗談だから」「家族なんだから」と流されてしまいがちな出来事でも、当事者にとっては負担となり、深い心の傷になることも。


都内で義父母と同居しながら、生後4か月の赤ちゃんを育てる32歳女性・桜田綾子さん(仮名)が経験した出来事も、そうした家庭内で起きた一例でした。

「コーヒーに母乳たっぷり入れて」

綾子さんは育児が始まって間もない頃から、義父の言動に違和感を覚えるようになったそうです。

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「『おっぱい大きくなったね』『母乳、いっぱい出ているの?』『隼人がうらやましいな』と、私の胸ばかりジロジロ見ながら言われるんです」

最初は、場を和ませるための冗談なのだろうと受け止めようとしていた綾子さん。ですがそうした発言は次第に頻度を増し、内容もエスカレートしていきました。

「ある日、義父は自分が飲んでいたコーヒーのカップを私に差し出して、『ここに母乳たっぷり入れて。カフェオレにしてちょうだいな』と笑いながら口にしたんです。背筋がゾワッとして、もう作り笑いもできませんでしたね」

綾子さんは強い不快感を覚え、夫や義母に相談しました。しかし「本人はあくまでギャグのつもり。家族を笑わせようとしているだけだろう」「深い意味はないから、気にしないで大丈夫」と流されてしまい、家庭内で問題として扱われることはなかったそう。

「その後も義父の不愉快な言動は止まりませんでした。ですが私は波風を立てないように必死に息を殺し、我慢してやり過ごしていたんです」

転機となったおぞましい出来事

ひたすら耐えていたある日、転機が訪れます。綾子さんが搾乳(さくにゅう/母乳を自分で絞ること)した母乳を哺乳瓶に入れて、台所に置いていたときの出来事でした。

「コーヒーに母乳たっぷり入れて」義父の“性的な冗談”に苦しむ32歳女性。家族にも理解されず…やがて起こった“おぞましい出来事”
哺乳瓶 子育て
「ほんの少し目を離した隙に、義父が哺乳瓶を手に取り『チャンス!』と言って口に含んで……嬉しそうに私の母乳を飲んだんですよ

綾子さんはあまりの出来事に思わず悲鳴を上げ、隼人くんを抱きかかえると、そのまま実家へ戻ったそう。

「とにかく気持ち悪すぎて、もう限界でした。
このまま一緒に暮らしていたら、ストレスで自分が壊れてしまうと思ったんです」

その晩、家を出た経緯を夫に説明しましたが、「今回の件は確かにやりすぎだとは思うけど、親父はギャグでやってるから。まぁ、気が済んだら帰ってきてよ」と、この期に及んでも深刻な問題としては受け取ってもらえませんでした。

数日後、綾子さんはある行動に出ました。

場の空気は一瞬で変わった

義父・義母・夫の三人を前に、落ち着いた声でこう切り出したそう。

「お義父さんが私の母乳を飲んだ行為について、保健師さんと市の子育て相談窓口に相談してきました」

この言葉に、場の空気は一瞬で変わったといいます。

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悩みを打ち明ける女性
「『性的な発言や行為に該当する可能性が高いそうです。今後同じことがあれば、次は正式な被害として相談します』と伝えたんです」

義父は言葉を失い青ざめ、義母も沈黙しました。夫もまた、そこで初めて事態の重大さを理解した様子だったといいます。

綾子さんは続けて、こう言い切りました。

皆さん『ギャグのつもり』と言っていましたが、ギャグかどうかを決めるのは、やった側じゃありません。受け取った私です

その言葉を受けた義父は、反省の態度を見せることもなく、ただ舌打ちをしたそうです。

「義父の態度を見た夫は、自ら別居を提案してくれました。引っ越しの準備期間も、『無理してこの家で寝泊まりしなくていいからね。
新居に移るまでは実家に泊まったりして、なるべく綾子がリラックスできるように過ごしてよ』と言ってくれて……。正直、やっと理解されたことにほっとしました」

その後、綾子さんたちは義実家を離れ、今も別居中です。

違和感を大切に、一人で抱え込まないで

家庭という閉じた空間の中では、不快な言動や行動が「冗談」「悪気はない」「スキンシップ」といった言葉で正当化されてしまいがちです。しかし綾子さんは自分の受けた扱いを外部の専門機関に相談することで、その行為が許容されるものではないと示すことができました。

家族という関係性の中であっても、境界線が踏み越えられたとき、それは明確な被害にもなり得ます。

家庭内の出来事ほど、被害者側も「これくらいで相談したらおかしいかな?」「大ごとにするのはちょっと……」と迷ってしまうものです。ですが違和感を覚えた時点で、その気持ちは大切にされていいものです。一人で抱え込んだり、味方がいないと思う必要はありません。

家庭内での性的な言動やハラスメントについては、法務省の人権相談窓口「みんなの人権110番」などでも相談を受け付けています。「少しおかしいかも」と感じたときに、話を聞いてもらう選択肢があることを、知っておいてほしいと思います。

<取材・文/鈴木詩子>

【ハラスメント・人権問題の相談先】
家庭内での問題や、性的な言動、ハラスメントなどについては、法務省の人権相談窓口でも相談を受け付けており、性別や立場を問わず利用できます。ひとりで悩まず、相談してください。


■ みんなの人権110番(全国共通人権相談ダイヤル)
電話番号:0570-003-110
家庭内でのハラスメント、パートナーや家族からの暴言・暴力・DVのほか、学校や職場でのいじめ、インターネット上の誹謗中傷、差別など、さまざまな人権問題について相談できます。※自動音声ガイダンスに従い、相談内容に応じて案内されます。

■ こどもの人権110番
電話番号(フリーダイヤル):0120-007-110
いじめ問題など、こどもの問題を解決に導くための相談を受け付ける専用相談電話。こどもだけでなく、こどもに関する悩みを持つ大人も利用可能。

■ 法務省LINEじんけん相談(チャット人権相談)/インターネット人権相談
電話の他に、LINEや相談フォームの窓口も。詳しくは「法務局 人権相談」で検索してください。

【鈴木詩子】
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:@skippop
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