「好きこそものの上手なれ」という言葉がありますが、もう一方でこんな噂を聞いたことがあります。

「鉄オタは鉄オタと隠し通さないと鉄道会社に就職できない」
「鉄オタは採用試験で必ず落とされる」

 本を好きな人が本屋さんや出版社に就職したり、車好きがドライバーになったり、理想的な道だと思うのですが、なぜ電車に関してはそんな噂が立つのか?ネットで検索すると「鉄オタだとめずらしい備品を盗む恐れがある」「電車が好きすぎると普通のお客さんの気持ちがわからない」「廃線などファンの思いとは逆の施策をとる場合、鉄オタは使いづらい」といった理由が挙げられているようです。


 果たして、本当に鉄オタは鉄道会社に就職できないのか?現役の鉄道乗務員として勤務し、仕事で感じた率直な気持ちなどをXで発信しているやまとじさん(@yamatozi201)に真偽を聞いてみました!

鉄道会社で働く人には電車好きが大勢いる

――やまとじさんは、なぜ鉄道乗務員を志したのですか?

やまとじ:小さい頃の夢が電車の運転士でしたし、電車が好きだったからです。ただ、電車の運転士は仕事がきついイメージがあるし、なるのが難しいという話をよく聞いていたので、就活を始めた頃は全然目指していなかったんです。でも、就活がうまくいかなくなってから「やっぱり、好きな仕事をやりたい」と考えて、目指すようになりました。

――じゃあ、やまとじさんも小さい頃から電車がお好きだったんですね。「鉄道好きを隠し通さないと鉄道会社に就職できないから、面接やエントリーシートにそういうことは書かないほうがいい」という説もあるのですが……。

やまとじ:いや、電車が好きだから落とされるということはまずないと思います。僕もそうだし、鉄道会社に入ったら電車が好きな人は周りに結構いるので。「電車が好きなので面接に落ちました」というのは、あまり聞かないですよね。

――ちなみに、やまとじさんは面接やエントリーシートで「子どもの頃から電車が好きだったんです」と伝えたのですか?

やまとじ:志望動機で、「子どもの頃からの夢を叶えたくて~」みたいなことは言いましたね。

電車好きの子が運転士になってくれたらうれしい

「鉄オタは採用試験で必ず落とされる説」→現役乗務員に真相を聞...の画像はこちら >>
――2024年10月にやまとじさんが投稿されたポスト、微笑ましかったです。「運転してて楽しかった時」として、電車に向かってホームから「ばいばーい」と手を振る子どもたちに、運転士のやまとじさんが「ファーン」と警笛で返事。すると、子どもたちがもっと盛り上がって「ばいばーい」とリアクションしてくれたエピソードです。こういうことはよくあるのですか?

やまとじ:たまにありますね。沿線の幼稚園や小学校の子たちが校外学習で歩いているときなどに、よく手を振ってくれます。


――こんなやり取りがあったとき、運転士さんはどういう気持ちになるのでしょうか?

やまとじ:やっぱり、すごくうれしいです。「この仕事をやっていて良かったな」と思う瞬間ですね。ハードな仕事だったり、時間(ダイヤ)が厳しかったり、朝が早かったり夜は遅かったり、精神的にも疲れていることがあるので。そういうときに小さいお子さんが手を振ってくれるとすごく回復します。

――警笛に応えてくれた子どもたちのなかで、やまとじさんとのやり取りをきっかけに電車好きになる子が出てくる可能性もありますね。

やまとじ:そうなってくれたらうれしいですね(笑)。

――「将来、この子たちが成長して鉄道乗務員になってくれたらうれしい」と思いますか?

やまとじ:思いますね。運転をしていると先頭車両の運転席のうしろでずっと覗いていたり、降りるときに「がんばってください」と声をかけてくれるお子さんもいるので。

――声かけてくれるお子さんもいるんですか! あと、先頭車両に乗って運転席を覗いている子どもたちにはやっぱり気づいてるんですね。

やまとじ:はい、気づいています。なかには面倒くさがる運転士もいるかもしれませんが、僕は電車好きで子どもの頃によく見ていたので、自分が見られる側になったらしっかり指差しを決めたり(笑)。運転中はいつも気合を入れますが、そういうときはより一層気合を入れています。


――「ちっちゃい頃、僕もそうしてたよ」という気持ちがやまとじさんのなかにあるわけですね。

電車マニアが鉄道乗務員になったことで感じる喜び

「鉄オタは採用試験で必ず落とされる説」→現役乗務員に真相を聞いてみると“ほっこりエピソード”が
面倒くささはありつつ、うれしくもある
――昨年3月に投稿された「オタク的に古い車両は好きやけど、いざ自分で乗務するとそれはそれで大変」というポストも興味深かったです。

「開かないラッチ」「ゴミクーラー」「カスヒーター」「極小ワイパー(拭き残しで見えない)」「大体どこかしらズレてる方向幕」「音質終わってるマイク&スピーカー」「クセが強すぎるブレーキ(編成によって全然違う)」「出庫からしばらく普通に走ってたのに急に壊れる」などが挙げられていました(笑)。こういう事例に対しては、うれしさも感じつつ面倒くさい気持ちもある?


やまとじ:結構、面倒くさい感情はありますね(笑)。特に、車両ごとにクセが全然違うブレーキを使って何百人ものお客さんを乗せ、安全に走って……というのはかなり気を遣います。

――ただ、「オタク的には古い車両は好きやけど」とも書いてありました。

やまとじ:やっぱり電車マニアなので、古い電車に自分が乗って、自分で操縦して……といううれしさはあります。特に、僕が以前いた鉄道会社は古い車両が多かったんです。子どもの頃、絵本や写真図鑑で見た電車をそのまま自分が運転している喜びはありましたね。

――「あ、本物本物!」という気持ちが湧いてきたと。電車好きから鉄道乗務員になった人ならではの喜びですね。

公私混同する人だと入社できない

――鉄道好きから鉄道乗務員になった人は多いと伺いましたが、みなさん「趣味は趣味、仕事は仕事」とメリハリをつけて仕事をしているんでしょうね。

やまとじ:たぶん、そうです。
そうであってほしいんですけども。

――現役の鉄道乗務員でありつつ、並行して撮り鉄の活動をしている人はいますか?

やまとじ:結構いますよ。自分の会社の車両を中心に撮る人もいますし、自分の会社のは全然見ずに他社の車両ばかり撮る人もいます。

――逆に言ったら、普段の業務中はそういう気持ちを封印していることになりますね。きちっと仕事をして、公私混同せず休日に活動に集中するという。

やまとじ:そうじゃないと鉄道乗務員を続けていくのは厳しいとは思います。で、やっぱり公私混同しない人が面接を通って鉄道会社に入っていると思います。

――鉄道会社としては自分の会社の電車を好きでいてくれるのはマイナスになるわけないですよね。

やまとじ:そうですね。むしろ、好きになってもらったほうが長くいてくれる可能性が高いので。

――でも、基準としては「日々の業務をちゃんとこなせるか」という能力を見て採用・不採用を決めている?

やまとじ:そうですね。人との関わりがある仕事なので、ある程度コミュニケーションが取れ、趣味と一緒くたにせず、時間通りに来て時間まできっちり働いてくれる人が受かりやすいです。
最終的には能力であり、人間性だと思います。

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「鉄オタは採用試験で必ず落とされる」という噂は、大嘘! とはいえ、「好き」の気持ちだけでは鉄道乗務員になれません。能力や一般常識が重視され、公私混同しない人が採用されるようです。まあ、当たり前といえば当たり前の結論ですね……。

 電車好きが高じて鉄道会社に就職したいと思っている人は、真正面から就活に挑むべき。そして、趣味と仕事のメリハリがつけられる人材を目指してください!

<取材・文/寺西ジャジューカ>
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