反町隆史と大森南朋と並んでいる人物――津田健次郎。2026年1月期の連続ドラマ『ラムネモンキー』(フジテレビ系、水曜夜10時、脚本:古沢良太)の主人公・中年男性3人のひとりを演じる。


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 最近、よく見る顔である。イケオジでイケボと天から二物を与えられて人気を博している。それにしてもよく見る。25年は朝ドラ、大河、日曜劇場とドメジャーなドラマに連続で出た。いささか出過ぎではないか。なぜ津田健次郎はこんなにも引っ張りだこになったのか。

 ひとつ言えるのは、彼こそいまの時代が求めるものにぴったりな存在であるということだ。

気づけば、いつも津田健次郎がいる

 まず現況を整理しよう。

 2025年の津田健次郎の働きには目覚ましいものがあった。

 NHKの朝ドラ(連続テレビ小説)『あんぱん』では主人公(今田美桜)とその夫(北村匠海)の恩師的存在の新聞社の上司、大河ドラマ『べらぼう~~蔦重栄華乃夢噺~』では、のちに『南総里見八犬伝』を書く戯作者・滝沢馬琴役、TBSの日曜劇場『ロイヤルファミリー』では新聞社の競馬記事担当記者、と矢継ぎ早に出演した。暮れの紅白歌合戦にも『あんぱん』チームとして出演した。

 それだけではない。25年の春先にはフジテレビのドキュメンタリードラマ『1995~地下鉄サリン事件30年 救命現場の声~』で主演している。
そして『ラムネモンキー』と続くのだ。さらに、1月23日公開の映画『恋愛裁判』(東宝)にも出演している。

連ドラ・朝ドラ・大河…って出過ぎ!? 54歳イケオジ俳優が、この数年で引っ張りだこになった理由
『1995~地下鉄サリン事件30年 救命現場の声~』番組サイトより。FODで配信中 ©フジテレビ
 朝ドラ、大河、日曜劇場といえば、いま地上波の人気筆頭格の枠である。そこにゲストではなく準レギュラー的なポジションで、フジテレビに至ってはドキュメンタリードラマも連ドラも主役である。なかなかない出世コースを歩んでいるといえるだろう。

いま「セリフが聞き取りやすい」ことの価値

連ドラ・朝ドラ・大河…って出過ぎ!? 54歳イケオジ俳優が、この数年で引っ張りだこになった理由
2023年11月に出た『津田健次郎 写真集 ささやき』(講談社)は、出版すぐ重版になる人気だった
 津田健次郎はひじょうに渋いイケオジであるうえ(写真集も出している!)、声が低くて耳に残る。この美声が最大の魅力である。いいセリフが何倍もいいセリフに聞こえるし、なんならいいセリフじゃなくてもいいセリフに聞こえるのだ。

 説明セリフが適切に伝わるのも利点である。一部のドラマ好きな人以外は、ながら見、早送り見が多いなかで、津田のように端的にセリフの意味が伝わってくる俳優は作り手としてはありがたいことだろう。ぼそぼそとナチュラルに話すとリアリティがあっていいと言われることもあるが、高齢者はリアルの再現よりも言葉や意味がはっきりわかるものを好むし、高齢でなくとも大衆は表現欲の高みよりもセリフの意味がはっきりわかるほうがいいだろう。

「声優が俳優になった」のではない

 津田のこの明晰なセリフ術は声優業で培われた。『呪術廻戦』の七海建人、『ゴールデンカムイ』の尾形百之助、『チェンソーマン』の岸辺などの声を演じる声優として活躍している。

 ただ、津田健次郎は「声優」である、というのは正確ではない。
声優であり俳優である。もともとは俳優をやっており、たまたま声優の仕事をはじめたらその声が高く評価されて声の仕事が増えた。つまり、現在の津田健次郎は本来の姿なのである。

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『津田健次郎 写真集 ささやき』には、こんな悩ましいカットも(講談社、同書リリースより)
 似た例に戸田恵子がいる。彼女も歌手や舞台俳優をやっていたら、たまたま声優の仕事が増えて人気キャラをやるようになったという声優もやる俳優である。ちなみに、『ラムネモンキー』第1話で主人公たちのマドンナ的存在の愛称がマチルダ(木竜麻生)だが、戸田恵子はガンダムで主人公の憧れのマチルダさんを演じていた。

 もっとも、声優という職業が誕生した初期の時代、たいてい舞台俳優が副業的にやっていたのだ。ガンダムなどの功績によりアニメが市民権を得るようになると「声優」という職業が独立したようになって、「俳優」ではなく「声優」を目指す人も現れるようになっていまに至っている。

若い頃に俳優としてネックになった「小柄さ」

 津田は学生時代、映画監督を目指して演劇を始め、俳優になった。ところが俳優の仕事は順風満帆ではなかった。

「今も昔も特にコンプレックスには感じていないのですが、身長が高くないということで、俳優として駆け出しの頃は苦労することがありました。オーディションに参加しても、身長でふるいに掛けられることがよくあって」(Woman type 2024年11月より)

 と語っているように、ちょっと小柄であの強面な声というキャラの濃さに当てはまる役が少なかったのだろう。

 そのギャップが逆に生きたのが、『極主夫道』(日本テレビ系)だった。
元極道でいまは主夫というギャップのある主人公のコメディだ。

 原作は人気漫画で、アニメ化した際(21年)、主人公・龍(たつ)の声を演じた津田が実写ミニドラマでも龍を演じたことで話題になった(実写版は玉木宏が演じている。またアニメ化以前、漫画の実写PVでは津田が龍を演じている)。

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『極主夫道』原作漫画の表紙。おおのこうすけ著、新潮社
 原作漫画やアニメの龍は長身、細マッチョで顔に圧のある人物。津田の外観的にはむしろ、エプロン姿でお弁当作りに勤しんでいる姿のほうがハマって見える。だが、顔をクローズアップしたときや、声を出したときの迫力は相当のもので、このギャップがあるからこそよけいに空恐ろしいものを感じるという意味で、このキャスティングは大成功だった。

50代にして、時代性にピッタリ合った

 津田が俳優としても活躍するようになったのは時代の要請ともいえるだろう。

 昨今、ルッキズムからの解放や多様性が重視される時代。主人公にふさわしい条件という固定観念を捨て、もっと広範囲に演者を募るようになってきている。そんなときに津田だ。彼のようなギャップこそむしろウェルカムだろう。

 しかも前述したように、ことの意味を明確に伝えられるスキルの高さ。また、アニメ人気で声優の支持率は高い。
テレビドラマに新たな視聴者層を呼ぶには、俳優もやっている人気アニメ声優の存在は大きい。一時期、宮野真守もよく出ていたし、最近はゲストで声優をキャスティングすることが増えている。

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女性誌『anan』は、津田健次郎を表紙にした特別版まで出した(2023年5月29日発売、No.2399)
 そんななかで津田健次郎は、50代にしてプライムタイムのドラマで主役を張るまでになった。

 ふつうは50代というとちょっと落ち着いてくる時期と思うのだが、朝ドラ、大河、日曜劇場、紅白、民放連続ドラマ初主演と、それにしたって引っ張りだこ過ぎないか。

 やっぱり顔と声に力があるから、どんなに演じ分けても津田健次郎味が強いような気もするから余計に気になる。ただ彼の名誉のために書いておくと、『あんぱん』で、登場したばかりの頃、中園ミホの目に演技が止まったことによって、いったん退場したあと、再び登場することが決まったというのだ。主人公のぶを面接する表情が印象的で、中園は主人公夫婦の行き着く先を見守る役割を託したと語っている。

『ラムネモンキー』では、地味目な独身男役

『ラムネモンキー』で津田は、地元で母(高橋惠子)の介護をしながら理容室を営んでいる50代独身の人物を演じている。

中学時代は映画研究部で楽しくやっていたが、仲間のなかでひとりは大手企業の営業部長(反町隆史)、ひとりは映画監督(大森南朋)という派手なポジションについていて、それと自分の人生を比較してしまう。そんなとき37年ぶりに、映研の顧問だったマチルダ失踪事件の謎が浮上してきて……。『スタンド・バイ・ミー』的な冒険と郷愁が絡み合うドラマになりそうだ。

 これまでセリフが決まるイケオジポジションだった津田が、まるで少年のような雰囲気を醸していて、派手な職業の同級生たちに対してちょっと思うところがあるナイーブな芝居をしていた。
でも今後、どうなるか、ギャップの魅力という強烈な武器を発揮するときがくるかもしれない。展開の面白さに定評のある古沢良太の脚本だから期待したい。

 ともあれ、津田健次郎の何がいいって、一気にたくさん出ることで飽きられないようにと歩留まりしないところである。こんなに大盤振る舞いであることにとても好感が持てる。

<文/木俣冬>

【木俣冬】
フリーライター。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』など著書多数、蜷川幸雄『身体的物語論』の企画構成など。Twitter:@kamitonami
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