最近、よく見る顔である。イケオジでイケボと天から二物を与えられて人気を博している。それにしてもよく見る。25年は朝ドラ、大河、日曜劇場とドメジャーなドラマに連続で出た。いささか出過ぎではないか。なぜ津田健次郎はこんなにも引っ張りだこになったのか。
ひとつ言えるのは、彼こそいまの時代が求めるものにぴったりな存在であるということだ。
気づけば、いつも津田健次郎がいる
まず現況を整理しよう。2025年の津田健次郎の働きには目覚ましいものがあった。
NHKの朝ドラ(連続テレビ小説)『あんぱん』では主人公(今田美桜)とその夫(北村匠海)の恩師的存在の新聞社の上司、大河ドラマ『べらぼう~~蔦重栄華乃夢噺~』では、のちに『南総里見八犬伝』を書く戯作者・滝沢馬琴役、TBSの日曜劇場『ロイヤルファミリー』では新聞社の競馬記事担当記者、と矢継ぎ早に出演した。暮れの紅白歌合戦にも『あんぱん』チームとして出演した。
それだけではない。25年の春先にはフジテレビのドキュメンタリードラマ『1995~地下鉄サリン事件30年 救命現場の声~』で主演している。
いま「セリフが聞き取りやすい」ことの価値
説明セリフが適切に伝わるのも利点である。一部のドラマ好きな人以外は、ながら見、早送り見が多いなかで、津田のように端的にセリフの意味が伝わってくる俳優は作り手としてはありがたいことだろう。ぼそぼそとナチュラルに話すとリアリティがあっていいと言われることもあるが、高齢者はリアルの再現よりも言葉や意味がはっきりわかるものを好むし、高齢でなくとも大衆は表現欲の高みよりもセリフの意味がはっきりわかるほうがいいだろう。
「声優が俳優になった」のではない
津田のこの明晰なセリフ術は声優業で培われた。『呪術廻戦』の七海建人、『ゴールデンカムイ』の尾形百之助、『チェンソーマン』の岸辺などの声を演じる声優として活躍している。ただ、津田健次郎は「声優」である、というのは正確ではない。
もっとも、声優という職業が誕生した初期の時代、たいてい舞台俳優が副業的にやっていたのだ。ガンダムなどの功績によりアニメが市民権を得るようになると「声優」という職業が独立したようになって、「俳優」ではなく「声優」を目指す人も現れるようになっていまに至っている。
若い頃に俳優としてネックになった「小柄さ」
津田は学生時代、映画監督を目指して演劇を始め、俳優になった。ところが俳優の仕事は順風満帆ではなかった。「今も昔も特にコンプレックスには感じていないのですが、身長が高くないということで、俳優として駆け出しの頃は苦労することがありました。オーディションに参加しても、身長でふるいに掛けられることがよくあって」(Woman type 2024年11月より)
と語っているように、ちょっと小柄であの強面な声というキャラの濃さに当てはまる役が少なかったのだろう。
そのギャップが逆に生きたのが、『極主夫道』(日本テレビ系)だった。
原作は人気漫画で、アニメ化した際(21年)、主人公・龍(たつ)の声を演じた津田が実写ミニドラマでも龍を演じたことで話題になった(実写版は玉木宏が演じている。またアニメ化以前、漫画の実写PVでは津田が龍を演じている)。
50代にして、時代性にピッタリ合った
津田が俳優としても活躍するようになったのは時代の要請ともいえるだろう。昨今、ルッキズムからの解放や多様性が重視される時代。主人公にふさわしい条件という固定観念を捨て、もっと広範囲に演者を募るようになってきている。そんなときに津田だ。彼のようなギャップこそむしろウェルカムだろう。
しかも前述したように、ことの意味を明確に伝えられるスキルの高さ。また、アニメ人気で声優の支持率は高い。
ふつうは50代というとちょっと落ち着いてくる時期と思うのだが、朝ドラ、大河、日曜劇場、紅白、民放連続ドラマ初主演と、それにしたって引っ張りだこ過ぎないか。
やっぱり顔と声に力があるから、どんなに演じ分けても津田健次郎味が強いような気もするから余計に気になる。ただ彼の名誉のために書いておくと、『あんぱん』で、登場したばかりの頃、中園ミホの目に演技が止まったことによって、いったん退場したあと、再び登場することが決まったというのだ。主人公のぶを面接する表情が印象的で、中園は主人公夫婦の行き着く先を見守る役割を託したと語っている。
『ラムネモンキー』では、地味目な独身男役
『ラムネモンキー』で津田は、地元で母(高橋惠子)の介護をしながら理容室を営んでいる50代独身の人物を演じている。中学時代は映画研究部で楽しくやっていたが、仲間のなかでひとりは大手企業の営業部長(反町隆史)、ひとりは映画監督(大森南朋)という派手なポジションについていて、それと自分の人生を比較してしまう。そんなとき37年ぶりに、映研の顧問だったマチルダ失踪事件の謎が浮上してきて……。『スタンド・バイ・ミー』的な冒険と郷愁が絡み合うドラマになりそうだ。
これまでセリフが決まるイケオジポジションだった津田が、まるで少年のような雰囲気を醸していて、派手な職業の同級生たちに対してちょっと思うところがあるナイーブな芝居をしていた。
ともあれ、津田健次郎の何がいいって、一気にたくさん出ることで飽きられないようにと歩留まりしないところである。こんなに大盤振る舞いであることにとても好感が持てる。
<文/木俣冬>
【木俣冬】
フリーライター。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』など著書多数、蜷川幸雄『身体的物語論』の企画構成など。Twitter:@kamitonami
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